ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

『神の名におけるテロ』を再読して

一日中、学会誌用の原稿書きに集中したため、お約束の「第二弾」に入れませんでした。締切には間に合い、ほっとしていますが、疲れもどっと出ました。
読んだ本の感想とはいえ、ブログで書く以上は、ある程度きちんと証拠づけておかないければならないと思うと、結構時間がかかりますね。ただ、こういう作業を一つずつ納得のゆくように進めていくと、知識が定着し、感情も整理されるためか、自分の研究テーマとの連携や広がりや新しい視点が生まれてくるので、楽しみです。
今日は、マレーシアから教会協議会のニュースリンクカトリックの『ヘラルド』が届きました。当然のことながら、高等裁判所の『ヘラルド』判決直前の記事が一面に大きく出ています。
また、シンガポールの友人からメールが届きました。彼女が日本留学していた19年も前からの、親しい福建系華人の友達です。結婚式にも出席し、シンガポールに滞在する度に、必ず会う仲です。お互い家庭を持つと忙しくなって、若い頃のように頻繁に手紙の交換などできなくなってしまいますが、それでも覚えていて突然のように連絡をくれるのは、うれしいものですね。
上記の第二弾のために、読み直している本は、Jessica SternTerror in the name of God: Why religious militants killHarperCollins books(2003/2004)です。2005年8月13日にハーバード大学のCO・OP書店で買い求めました。帰国してすぐにざっと読みましたが、英語は非常にわかりやすいものの、内容が、一神教ユダヤ教キリスト教イスラーム)の各信者によるテロを扱っていて、テロリストに対するインタビューを綴っているため、これまた極めて重いものでした。特に、あまり興味がなかったり知りたくなかった過去のテロ事件も含まれていたので、かなり読み飛ばしたページもあります。興味を持って読んだのは、インドネシアや中東のイスラーム系テロリストの話でした。
ところが、今回約3年ぶりに読み返してみると、2007年3月のイスラエル旅行の前後に30冊ほど読んだパレスチナイスラエル問題や聖書学やイスラエルの現代作家の作品やアラブ・ユダヤ関係の本とテル・アヴィヴ大学の10数本の論文による知識も加わり、地名にも、この足で訪れ、この目で確かめた実感が伴うために、把握できる部分が格段に多くなったことに気付きました。複雑な中東情勢も、自分なりに理解が深まったように思います。
さすがにハーバード大学(やスタンフォード大学の)テロ専門家なので、文末に詳しい注がたくさんついていて、説得力と専門性への安心感があります。
言わずもがなですが、自己の境遇を背景にジャーナリスティックな力説を続け、「第三次世界大戦に突入している」と煽るようなNonie Darwish氏の立場とは(2008年5月3日付「ユーリの部屋」)、スタンスも主張も全く異なります。ユダヤ教過激派やクリスチャン・テロリストの話は、イスラムテロリズムや9.11同時多発テロ事件も含まれている本書の中で、一種の相対化を与えています。ついでながら、オウム真理教の話も出てくるところがおもしろいと思いました。私が触れた限りでの日本のジャーナリズム報道では、オウム真理教は仏教系だと範疇化されていましたが、Jessica Stern氏が、仏教のみならず、ヒンドゥー教キリスト教の体系も混ぜていると記しているところに(p.19)、私も全く同感しました。それに、17世紀のシャブタイ・ツヴィの話で、トルコのスルタンにイスラーム改宗か死かどちらかを選べと言われた時、あっさりメシアの役割を棄てて改宗者の道を選んで出てきたという下りは(p.30)、以前読んだ日本語の現代神学論考の本(森田雄三郎現代神学はどこへ行くか教文館 2005年)と同じだったので、おもしろく感じました。著者はユダヤ系ゆえに、こういう話は常識以上に敏感なのでしょうか。
アメリカから帰国したばかりの頃は、著者の華々しい経歴に気遅れすら覚えていたのですが、こうして時間がたってみると、(なあんだ、こういうことだったのか)と落ち着いて読めるようになるのが不思議です。それなりに自分が成長しているのならうれしいのですが、年を取れば誰でも自然とそうなるものだと言われれば、それまでです。