ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

陰謀論とプロパガンダ

パイプス訳文をかれこれ5年以上続けた私だが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20170329)、さらに白髪が増えたパイプス先生は、ますます精力的に各地で言論活動を展開されている。毎度、圧倒されっれ放しだが、内容が重いだけに、気が滅入ることも少なくない。
だが、「ダニエル・パイプス」と検索入力してみると、以下の事実がわかった。
まずは、保守派ジャーナリストでワシントン情勢にも詳しい古森義久氏が(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%B8%C5%BF%B9%B5%C1%B5%D7)、1998年の時点で、パイプス先生の陰謀を巡る1997年の著書について、紹介されていたことに気づいた。この頃のパイプス先生は、まだ40代だったが、今よりも遥かに注目を浴びていたのだった。

http://ykdckomori.blog.jp/archives/2007-11-06.html


2007年11月06日


【一筆多論】論説委員(ワシントン駐在) 古森義久 


「陰謀説を読む指針とは」
1998年07月26日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面



 経済不況にあえぐいまの日本国内での論議で気になることの一つは、陰謀説現象である。陰謀説とは、ごく簡単に評すなら「日本の経済不況はアメリカの陰謀の結果だ」とか「規制緩和や金融改革への外圧はユダヤ金融資本の陰謀だ」という趣旨の主張である。陰謀の主体はアングロサクソンとされることも、CIAとなることもある。


 陰謀という言葉が謀略とか策略、さらに場合によっては戦略という語に置き換えられることもあるが、共通するのは、日本を標的として秘密の計画を練り、それを実行する邪悪な勢力がある、というような認識だといえる。そうした認識は表面に出た事象の原因を同じ表面にみえる要因ではなく、水面下に隠れた別の秘密の要因へと帰するわけだ。その「秘密の要因」が陰謀なのである。


 私はいまの日本の経済不況についてこの種の陰謀説が国内の一部で述べられていることは日本の新聞や雑誌で読んでいたが、勤務地のワシントンから東京に最近、一時戻り、各界の数多くの人たちと話してみて、そうした説は思ったより広く、国会議員のレベルでさえ語られていることを知らされた。


 (中略)


 しかしそれでも陰謀説には確たる証拠は何もない。ワシントンで米側のシステムのチェック・アンド・バランスの機能ぶりをみていると、政府レベルでそんな秘密工作が実行できるとは到底思えない。CIAにしても主要工作には議会の特別委員会の承認が必要であり、同盟国の日本の経済をかき乱すような謀略を議会側が認めるはずがない。だがワシントンで懸命に探しても見つからない米国の陰謀がどういうわけか、東京の一部の人たちには手にとるようにわかってしまうのである。


 陰謀説の利点は陰謀の存在を証明しなくてもよいところにある。すべてがもやもやとした霧の中だからこそ陰謀なのだ。とくにCIA陰謀説はCIA側が自らの活動に関する種々の主張には否定も肯定もしないという政策をとっているため、決して当事者からは反撃されない。いくらでたらめな主張でも否定はされないのだ。


 もっとも陰謀説現象は日本だけではない。米国の研究者ダニエル・パイプス氏の「陰謀=被害妄想はいかに繁茂し、どこから発生するのか」と題する陰謀説解析の書は多数の国で語られる陰謀説を多角的に分析している。


 同書によると、陰謀説とは実際には存在しない陰謀、あるいは存在する証拠のない陰謀を存在すると断言する主張であり、往々にして架空の陰謀への恐怖を体現する。陰謀説の歴史は十字軍の時代にさかのぼるほど古いが、十九世紀以降、「世界制覇を狙う」式の国際的な陰謀説の標的はユダヤ民族、フリーメーソンアングロサクソンに絞られてきた。


 同書によれば、陰謀説の特徴は具体性の欠如、矛盾や背反を陰謀の証しとする傾向、選別的でペダンティック(学識をてらう)な歴史の引用、異なる陰謀説同士の相互依存などだという。


 陰謀説はさらに「人間集団のすべての目標は権力獲得」「ある事象から利益を受ける勢力がその事象を支配する」「物事の外見は常に偽りだ」「何事も偶然や失策からは起きない」という誤った前提を設けているともいう。


 だから陰謀説の識別にはこうした前提や特徴を認定するとともに、ごく基本の常識や歴史の知識を指針にすればよいということになる。


 同書は陰謀説の生まれる理由に関連して、陰謀説の標的となるユダヤ民族や米英両国には近代性と民主主義、理念先行主義という基本志向があることを指摘して、こうした志向への反発が強い土壌にほど陰謀説が生まれやすいと説く。


 陰謀説は民主主義の成熟と相関関係にあり、市民の政治参加、法の統治、言論の自由などが進む社会ほど生まれにくいともいう


 同書のここまでの解説には異論も多々あろうが、最後の章の陰謀説がもたらしうる損害の指摘には傾聴すべき点がことに多いように思える。


 「陰謀説は幻想や迷信、被害妄想をあおり、不健全な理由づけを奨励する。複雑な事態を陰謀へと矮小化することで歴史の流れの理解を妨げる。自国内部の害悪の原因を外部にシフトすることで真の原因の正確な評価を阻み、問題への対処を遅らせる。一般国民にそもそも危害を及ぼしはしない対象を恐れさせ、憎ませる一方、危害を及ぼす対象への恐怖や憎悪をなくさせる。国民の注意を問題とは無関係な対象に向け、重要な対象を無視させる」


 かなり過激な指摘ではあるが、私たちがいまの苦境の中で常識や良識を保つためには念頭に入れておいて決して損のない指針だと思う。

(部分抜粋引用終)
上記で紹介されている『陰謀』のご著書については、一部だけ日本語訳を掲載したので、ご覧いただきたい(http://ja.danielpipes.org/article/14644)。
また、本書関連については、ブログでも少し言及している(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120131)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120524)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120612)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120618)。
結局のところ、玉石混淆のインターネット情報によって、惑わされる人々が増えたのかもしれない。
以下に、その典型例を。

http://parstoday.com/ja/radio/iran-i25831


思想家の考えるイスラム革命(6)
2017年02月05日


1979年のイラン・イスラム革命は、人類の生活にとって、新たな時代の始まりとなりました。


・多くのアナリストが、人類の精神的、宗教的生活の刷新は、イランのイスラム革命の勝利から始まったと考えています。もし、歴史を近代における宗教的なアイデンティティの復活に基づいて考えるのであれば、その歴史はイスラム革命の勝利により同時に始まり、すべての宗教の思想家にとって、大きな躍進をもたらしたといえます。イスラム革命38周年に際したこの番組では、イスラム革命の宗教面や、宗教的な傾向の再生におけるその世界的な影響に関する、西側の思想家の見解を提示しています。


アメリカの外交政策協会のダニエル・パイプス会長は、トルコ・イスタンブールで行われた会合で次のように語っています。
イスラム革命以前、我々は宗教思想についてまったく話す場を作っていなかったことを認めるべきだ。しかしその後、我々アメリカ人にとって、宗教について研究する下地を作り出すことが必要となった」
ダニエル・パイプス

(部分抜粋引用終)
上の記述を見て、素直に鵜呑みにする人がどのぐらいいらっしゃるか?
外交政策協会」とは、恐らくCFR(外交問題評議会)のことを指しているのだろうが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160718)、親子でCFRの会員だったパイプス先生は(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140708)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140719)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150309)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160721)、2012年頃から動向に嫌気がさしているようで(http://ja.danielpipes.org/blog/11520)、肩書としては大抵の場合「中東フォーラム会長」を使っている。
また、上記の発言がいつのイスタンブールでの会合なのか不明だが、2012年末以降、危険なのでトルコには行かなくなった(with the final trip in 2012)と、パイプス先生はご自分でおっしゃっている(http://www.danielpipes.org/blog/2017/02/erdogan-to-me-stay-out-of-turkey)。
私がもっと疑わしく思うのは、発言の内容だ。歴史家であり、長年、政治におけるイスラームの動向を一筋に研究されてきたのに、上述のようなことをどのような文脈でおっしゃったのか、これまで三度、ご本人にお目にかかった私にとって(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140508)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150513)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20161008)、少し信じられない。

最近、フェイブック上で、このイランのプロパガンダ・ニュース情報をそっくり紹介して、「互いを認め合い尊重し合うこの精神」と書いてあった投稿を見た。

https://www.facebook.com/ikuko.tsunashima


Isaku Taniuchi
27 March at 15:18


互いを認め合い尊重し合うこの精神が世界に広がりますように。

アメリカのユダヤ教団体が、モスクにコーランを贈呈するキャンペーンを立ち上げ】


http://parstoday.com/ja/news/world-i27848


2017年03月19日


アメリカのあるユダヤ教団体が、イスラム排斥の中で攻撃されたアリゾナ州トゥーソンのモスクにコーランを贈呈するキャンペーンを開始しました。
イクナー通信によりますと、トゥーソンのユダヤ教徒らは18日土曜、この町に住むイスラム教徒を支持するため、最近襲撃されたこの町のモスクに新しいコーランを寄付するキャンペーンを立ち上げました。
この団体は、1万4000ドルの寄付金を募り、コーランを新たにそろえるための費用をイスラム教徒に寄付して、被害と侮辱を受けたコーランを新しいものに取り替える費用に充てることを目指しています。
トゥーソンのモスクは先週、襲撃を受け、100冊以上のコーランが破られるという被害を受けました。
これ以前には、アメリカのイスラム教徒もキャンペーンを行い、人種差別による襲撃を受けた墓地の修復のための費用をユダヤ教徒に提供しています。
アメリカでは、少数派の宗教の信者が人種差別による攻撃を受けるケースが多発していますが、最近はトランプ政権が発足して以来、イスラム教徒に対する攻撃が激化しています。

(転載終)
そこで、私は引用して以下のコメントを加えた。

https://www.facebook.com/ikuko.tsunashima


27 March at 23:22


このニュースを本当に信用して紹介されているのですか?
『プレスTV』もイランのプロパガンダ番組ですが、ParsTodayは、2016年1月に始まったイランのニュースサイトで、「ParsTodayの日本語放送の視聴者は1億人を超えており」と自ら記しています。この辺りで、イラン発プロパガンダだということに、なぜ気づかないのでしょうか。プロパガンダを「認め合って尊重」した結果、どうなるのか、そちらの方が心配です。

(転載終)
もちろん、返答はない。出版社の編集者として、投稿に関する責任説明をどのようにお考えなのだろうか。
何より、アメリカのユダヤ系グループが「攻撃されたアリゾナ州トゥーソンのモスクにコーランを贈呈するキャンペーンを開始」したことが事実であるとしても、この報道には不正確さが残る。
(1)「アメリカのあるユダヤ教団体」の正式名称は何か。
(2)団体責任者は誰なのか。
(3)受け取った側のモスクのイマームは誰なのか。
このような記事としての最低限の基本情報が、まるで出ていないのだ。
ちなみに、このイランのニュースサイトについては、以下の説明(http://parstoday.com/ja/about_us)に注目すべきであろう。

「ParsTodayはイランのニュースサイトです。IRIB国際放送の70年の歴史を活用しながら、新たなメディアのアプローチとして、2016年1月に活動を開始しました。」
「ParsTodayの日本語放送の視聴者は1億人を超えており、ParsTodayを通してイラン、中東、東アジアのニュース、情報を視聴しています。」

(部分抜粋引用終)
『プレスTV』についても、過去のブログで説明したが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130116)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130128)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141105)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150513)、特に、上記の‘ParsToday’と、「シオニストが世界のメディアをコントロール」と述べていたIRIB国際放送局の関係について、注目すべきである。
この頃、編集者が世代交替してからのミルトス社は、佐藤優氏の件も含めて(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20170129)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20170130)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20170206)、私にはどうも不満が残る。
先代の河合一充先生の時には、私自身が懇意にしていただいたこともあるが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130403)、もっと丁重で、例えばイスラームに関して、たとえご存じであっても「知りません」と、謙虚に線引きをされていた印象があった。それに、昔の出版物の方が、貴重な情報に富む、おもしろい本が多かった。
ちょうど10年前にイスラエルを初訪問したことをきっかけに購読を決めた『みるとす』誌だったが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%DF%A5%EB%A5%C8%A5%B9)、正直なところ、この頃は疑問を感じることが増えた。
イスラエルユダヤ文化・ヘブライ語を中心に「正しい中東情報」を知らせることを主眼としていたはずのミルトス出版社は、ただニュースを横流しに掲載するのではなく、まずは内容を確認してからフェイスブックで紹介すべきではないだろうか。そうでなければ、ただの個人の趣味と変わらなくなってしまう。
むしろ、出版社には、独自の人脈と情報ソースがあるはずなのだから、そちらを紹介すべきなのではないだろうか。