ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ヨナの墓

ウォール・ストリート・ジャーナル』(http://jp.wsj.com/news/articles
武装勢力に破壊されるイラク文化遺産預言者ヨナの墓も」

By NOUR MALAS
2014 年 7 月 27 日
 【バグダッドイスラムスンニ派武装勢力イスラム国家の樹立を目指し、他の宗派や宗教の排除を進めているのに伴い、イラク文化遺産にも大きな被害が出ている。
 最近ではイラク北部の都市モスルにある廟(びょう)が破壊された。ここにはユダヤ教キリスト教イスラム教の預言者ヨナが埋葬されていると言われる(イスラム教ではヨナはユヌスと呼ばれる)。廟がある「ナビ・ユヌス・モスク」も24日の爆破で破壊された。
 モスルの住人によると、先月10日にモスルを掌握したアルカイダの分派「イスラム国(ISIS)」の兵士がモスクの周辺に爆発物を仕掛け、爆発させたという。イラクの貴重な遺産の1つが消えた瞬間だった。モスクは大きな爆発音とともに崩壊し、砂とほこりが雲のように空中に舞い上がった。
 モスル在住の歯科医オマール・イブラヒムさんは「(ヨナの墓は)砂になってしまった。他の墓も寺院もみんなそうだ」と話した。「でも、預言者ユヌスは特別だ。モスルの象徴だった」と言う。イブラヒムさんはスンニ派だ。「心の底から嘆き悲しんだ」
 住人のほとんどはスンニ派だが、モスルは宗教の多様性と寛容さを象徴する都市だった。モスルがあるニナワ州は数千年前からキリスト教ネストリウス派の中心地だ。ヨナの廟がモスクの中にあるということは多様な宗教が共存していることの表れだ。
 かつてはこのモスクにはイラク中から人々が訪れ、祈りを捧げた。モスクは大きな階段と黄灰色の床がある、イラクには珍しい建築様式で建てられていた。内部には複数の大礼拝堂があり、アーチ型をしたそれぞれの入り口にはコーランの言葉が精巧に刻まれていた。
 モスルのカルデアカトリック教会大司教、エミール・ノナさんによると、この場所は何世紀か前は修道院だったが、その後、モスクになったという。「ナビ・ユヌスはこの地域で一番有名なモスクだった。破壊されてしまってとても残念だ」と話した。
 ISISなどスンニ派の超保守的な組織は、寺院や墓を敬うことは神聖な行為ではないとしている。多くの組織にとっては、ムハマンド以外の預言者を崇めることも非難の対象になる。
 ISISは墓や寺院を破壊する計画を布告した。隣国シリアでISISが支配する北部と東部の一部では、既に破壊計画が実行されている。
政府関係者によると、モスルでは少なくとも約20の寺院や複数のシーア派の礼拝所が破壊されたほか、モスル博物館が襲撃された。
 イラク担当のニコライ・ムラデノフ国連事務局長特別代表は25日、モスルでモスクが破壊されたことについて、「テロリスト集団がイラク共有の遺産とアイデンティティを打ち砕こうとした行為」だと述べた。
 イラクの観光当局者やモスルの宗教関係者は廟が24日の攻撃で破壊されたことを確認した。市民が攻撃の様子をビデオで撮影し、インターネット上に投稿した。その1つを見ると、モスクが崩壊するときにはモスクがあったとみられる場所の上空に厚い茶色の煙が上がっていた。「だめだ、預言者ユヌスもやられた」という声も録音されていた。
 イラク国民にとってこの廟は特別な意味があった。イラク観光省で遺産担当の責任者を務めるフォージア・アル=マリキー氏は預言者ヨナ(聖書でもコーランでもクジラに飲み込まれたと書かれている)が「あらゆる人にとっての預言者」と語った。「保守的な武装組織に属する人々が何を考えているのか、どのようなイスラム教を求めているのか、私たちにはわからないが、彼らは文明を終わらせようとしている」と述べた。
 モスクに対する攻撃はイラクキリスト教コミュニティーにも衝撃を与えた。ISISはイラク国内で巧妙な反キリスト教運動を展開している。
 ISISが今月、イスラム教に改宗するか、人頭税を支払うか、モスルから退去するかのいずれかに従わなければ処刑するという最後通牒を突き付けると、数千人のキリスト教徒がモスルを脱出した。キリスト教徒の住民によると、武装集団はキリスト教徒の家を見つけて脅したり侮辱したりしたという。
 ノートルダム大学のカンディダ・モス教授はこれについて、「イラクにおけるキリスト教の歴史と文化が取り返しがつかない形で根絶されつつある」と述べた。
(引用終)