ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

連帯するユダヤ共同体

ユダヤ共同体に関して、通常は一人一人が皆、それぞれに物事を独自に考え、一人で複数の意見を出して互いに喧々と議論を交わし合うものの、いざとなれば一致団結して連帯するという特徴があるとしばしば言われます。そして、ダニエル・パイプス先生の著述から学んだことには、従来は律法の宗教というユダヤ教だったのが、徐々にアメリカで主流のキリスト教に似てきて、法遵守よりも感情や祈りに重きを置くようになってきたのだそうです。
それとは別の話になりますが、ディヴィド・グロスマン(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120515)の作品を読んでいた7年ほど前、兵役についているイスラエル国防軍ユダヤ系兵士が一人でもテロ被害や誘拐事件に遭うと、その親兄弟のみならず、おばあちゃんまでテレビに出演して、その息子のために救済を嘆願するという事例を知りました。
ここ数日、その二つを組み合わせたかのような、まさに聖書にあるごとく、たった一人のために即座に連帯するユダヤ共同体の強靱さを改めて知る一例に触れることができました。
たまたま、ツィッターを見ていて知った事例です。

https://twitter.com/Jeff_Jacoby
1. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 8 Jan
We are so deeply, deeply grateful for everything being done to reunite us with our beloved son Caleb. pic.twitter.com/o7wHTr0BrA
2. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 8h
Never have the words "prayers" & "praying" so dominated my email inbox. The outpouring of concern for Caleb has been incredibly heartening.
3. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 8h
Our 10-yr-old, Micah, has been reciting Psalm 121 each morning & night since his big brother Caleb went missing. pic.twitter.com/lG2JpymeEd

これには驚きました。『ボストン・グローブ』紙のコラムニストであるジェフ・ジャコビー氏のことは、最近拙訳が掲載されたばかりのダニエル・パイプス先生の論考文の追記にお名前があったので、少しコラムを読んでいたところだったからです。

http://www.danielpipes.org/13899/
ダニエル・パイプス
『論評』2013年7月/8月号「イスラームは改革できるか?歴史と人間の本性がしかりと言う」

‘July 7, 2013 update: Jeff Jacoby does an excellent job of summarizing this article in his Boston Globe column today under the title "What Is Islam?"’

まさか、16歳の息子さんのカレブ君が行方不明になっているとは....。それに、日本ならば警察に届けた後は、世間体および本人の身の危険を考えて、世界中の誰もが見ているツィッターにポスターを載せることまでするかどうか、考えさせられた次第。もちろん、普段は私情を表に出さないパイプス先生も、珍しくツィッターで連帯感情を1月9日付で表明されました。「カレブと君とご家族を深く心配している」と。
何より、そのツリーには、多くの祈りの連帯が次々と綴られていたのでした。まさに、パイプス先生のご指摘のごとく、クリスチャン達のやり方とそっくりで、とても驚きました。

そこで私も、もう一つ新たな訳文を送信した1月9日、次のように書き添えました。「ところで、ツィッターでジェフ・ジャコビー氏のご子息であるカレブ君について知り、ショックでした。私は最近、ジャコビー氏のお名前を訳しました。直接、ジャコビー氏とご家族のために何もできませんが、カレブ君ができるだけ早く、お父さんの家に無事に戻って来ますように」。
なんと、そのお返事が即座に届きました。「自分はジェフをよく知っていて、非常に心配している。16歳が自立を味わいたがっているだけで、何かもっと暗いことではないと希望しよう」。長年、複雑で混沌とした中東事情のため、大量の執筆活動の傍ら、国内外での幅広いメディア出演および大学講演を続ける過程で、三人のお嬢さんの成長を見守ってこられた、いかにもパイプス先生らしい書き方です。
著名なコラムニストの親を持つ十代の少年にかかる複雑な重圧から、ちょっとした出来心で逃避行してみただけなのか、それとも、反ユダヤ主義の危険度が再び増しつつあるアメリカ社会で、ユダヤ少年をターゲットにした、何かよからぬ事件に巻き込まれたのか、気が気ではないことだろうと私も心配でした。そのため、カレブ君の10歳の弟であるミカ君が、お兄さんが行方不明になって以来、朝晩、詩編121を唱えているとのことです。

「目を上げて、わたしは山々を仰ぐ。わたしの助けはどこから来るのか。
わたしの助けは来る/天地を造られた主のもとから。

どうか、主があなたを助けて/足がよろめかないようにし/まどろむことなく見守ってくださるように。
見よ、イスラエルを見守る方は/まどろむことなく、眠ることもない。
主はあなたを見守る方/あなたを覆う陰、あなたの右にいます方。

昼、太陽はあなたを撃つことがなく/夜、月もあなたを撃つことがない。

主がすべての災いを遠ざけて/あなたを見守り/あなたの魂を見守ってくださるように。
あなたの出で立つのも帰るのも/主が見守ってくださるように。
今も、そしてとこしえに。」
日本聖書協会 新共同訳による)
  

今日、その結末を知りました。
“Forward”(http://forward.com)
‘Caleb Jacoby, Missing Son of Boston Globe Columnist, Is Found Safe in Times Square’
‘Our Prayers Have Been Answered' Relieved Dad Tweets’
by Forward Staff
10 January 2014.
Caleb Jacoby, the missing teenage son of Boston Globe columnist Jeff Jacoby, has been found safe, police said.
Police in Jacoby’s hometown of Brookline said the boy who was missing since Monday had been located and was safe.
Police said they got information that the boy was in Times Square and notified New York police.
“New York City Police informed us they had located Caleb and he was safe and sound,” Brookline Police said. “Plans are now being formulated to transport Caleb back home.”
“All we can think of at this moment is how wonderful it will be to see Caleb again and shower him with love,” Jeff Jacoby Tweeted.
“Our prayers have been answered,” he added.
Police offered few details, but social media exploded with sighs of relief.
“Words can’t express our gratitude for the extraordinary outpouring of kindness and support that we have received from so many people,” Jeff Jacoby Tweeted.
Barry Shrage, head of the local Jewish federation told the MassLive web site he was relieved.
“The only thing you can say is thank God,” Shrage said.

Caleb Jacoby, 16, a student at Maimonides School, had last been seen on Monday around lunchtime.
His school and Jewish organizations launched a massive search for the teen. The hunt spread to social media as thousands Tweeted description of the missing boy.
The case drew national attention, in part because the youth is the son of Boston Globe columnist.
Some 200 volunteers, including friends and neighbors of the family as well as members of local Jewish groups, searched throughout the Boston area in a coordinated effort on Wednesday. The effort was spearheaded by the Maimonides School.
“Thank you to the hundreds of volunteers from the entire community who participated in the ongoing search for Caleb Jacoby today. We are deeply grateful for this outpouring of support,” the school posted on its Facebook page.
“We will continue to support the outstanding efforts of the Brookline Police Department, and provide updates with new information as appropriate. We continue to pray for Caleb’s safe return.”
Jeff Jacoby earlier Tweeted thanks and scripture on Thursday morning as the Boston Globe columnist continued to lead an outpouring of concern about his missing teenage son, Caleb Jacoby.
“Never have the words ‘prayers’ & ‘praying’ so dominated my email inbox,” Jacoby said in a tweet at about 2 a.m. Thursday. “The outpouring of concern for Caleb has been incredibly heartening.”
Caleb Jacoby hasn’t been seen or heard from since midday Monday.
The worried dad also revealed that Caleb Jacoby’s younger brother Micah has been reciting Psalm 121, which in part reads: “The Lord will keep you from all harm, he will watch over your life.”
“Our 10-yr-old, Micah, has been reciting Psalm 121 each morning & night since his big brother Caleb went missing,” Jeff Jacoby Tweeted.
(unquote)

何はともあれ、無事でよかった、よかった。それに、数千人がツィッターで即座に連帯したのみならず、家族やご近所を含めた二百名のボランティアが、他のユダヤ・グループと共に、カレブ君を探しに動いたということも感動的です。「祈りは応えられた」という表現が、繰り返しになりますが、いかにも英語新聞の三行広告でよく見かけるクリスチャンのやり方にそっくりで、確かに、パイプス訳文を続けてきた意味が実感できた次第。
再び、ジャコビー氏のツィッター

https://twitter.com/Jeff_Jacoby
1. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 10 Jan
Our prayers have been answered. We are thrilled to hear from the Brookline Police that our beloved son Caleb has been found and is safe.
2. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 10 Jan
Words can’t express our gratitude for the extraordinary outpouring of kindness and support that we have received from so many people.
3. Jeff Jacoby ‏@Jeff_Jacoby 10 Jan
All we can think of at this moment is how wonderful it will be to see Caleb again and shower him with love.

パイプス先生にも、早速メールを。
「たった今、カレブ・ジャコビー君が無事に見つかったと知り安堵しています。この事件によって、私はどのようにユダヤ共同体が強く結びつけられ、相互に協力しているかを学んでいます」。

余計なことですが、行方不明になったことで大騒ぎになり、大勢の人々が探し回るのみならず、ソーシャルメディアのおかげで世界中に知れ渡ったカレブ君が戻ってきたことで、お父様のジェフ・ジャコビー氏は「カレブに再び会えて、愛情を注ぐことは、何て素晴らしいんだろう」とツィッターに綴っていらっしゃいます。
もし、これが日本だったらどうだろうか、と一瞬考えてしまいました。私の知る事例では、親が世間体や体面を重んじるあまり、戻ってきた息子に対して「みっともないまねをするな!」「親に恥をかかせて!」と横っ面を張り飛ばし、「この度は大変お騒がせして申し訳ございませんでした」と深謝の反省文を書かせることもあるのではないか、と。
しかし、そこはさすがに聖書の民であるユダヤ人は違います。無事に戻ってきた息子さんについて、まるで放蕩息子の譬え話(ルカ福音書15章11−32節)の主役であるお父さん(E・シュヴァイツァー説による)を文字通りなぞるかのごとく、「愛情を注」いで祝福しようとされているのです。ただし、カレブ君は放蕩息子でなく、タイムズ・スクエアで見つかったと報じられているだけですので、「迷い出た羊」の譬え(マタイ福音書18章10−14節・ルカ福音書15章3−7節)に記されている「小さな者を一人でも軽んじないように」「迷い出た一匹を捜しに」行くというユダヤ人のラビ・イエスの教えを、忠実に実現されている事例だと思います。「その一匹のことを喜ぶだろう」「見つけたので、一緒に喜んでください」と。