ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

映し鏡のように

大統領選の最後の論戦だという映像を、1時間35分ぐらいかけてインターネットで見ました(http://pub.ne.jp/itunalily/)(http://www.youtube.com/politics?feature=etp-od-ype-0dd0a90733)。
昔ならば、新聞かテレビでしかわからなかった状況が、今では、世界中の人々が自由に見られるのですから、何事もチャンスである一方で、たった一言でも言い間違いがあればすぐさま非難される点で困難でもあり、ということでしょうか。
外交問題がテーマでしたが、中東や中国は話題になっても、日本などは一言、司会者の質問の譬えに出てきた程度で、随分、プレゼンスも国力も落ちたものだなぁ、と淋しい限り。もっとも「日本はとりあえず問題がないから」という外交官としての先輩の言葉もありますが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111221)、逆に、話題にさえ取り上げられないほど、平凡で魅力のない国だという証左でもあるのでは?
ところで、ダニエル・パイプス先生は、ご自身の二回目の論戦コメントに批判が寄せられた(ウェブでは未確認)ことにご立腹なのか、「私は中東専門家としての自分の誠実な見解を表現するために書いている。ロムニーには共感しているけれども、彼のキャンペーンの宣伝はしていない。自分の見解が大統領選に影響があるかどうかよりも、討論の中東次元に焦点を当てている。ロムニーの勢いを止めたか止めなかったか、それは私のトピックではない」とわざわざ但し書きがついたメーリングリストを寄こされました。(私個人宛ではありません。)
思わず笑ってしまったというのか、(なかなか気難しいおじさまだな)と密かに再確認したり、悲喜こもごもといった感触。
正直なところ、非常に恵まれた家庭に生まれ、誇り高く大切に愛されて育てられ、学歴上も全く不足がなく、資質にも自他共に認める文才と研究能力に優れ、本も書き、国内外のテレビやラジオにも出演して、国内および世界各国で講演して有名になるなど、遠くから間接的に拝見していて、本当にうらやましい限りだといつも思ってはいますが、一方で、わざわざ問題を起こすような発言をしているようなところもあり、トラブルをご自分で招いているのか、それとも戦略なのか、実際に近しい周囲の人々にとっては、いろいろと難しいところもあるでしょうねぇ...などと考えさせられるところも、多少あります。
春から夏頃にかけて、本当に夢中になって映像に集中していた時期を経て、秋も深まりつつある今は、翻訳がアップされないこともあり、本来のテーマに少し戻る余裕ができてきました(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121023)。
久しぶりに、ロバート・ハント先生(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120419)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120507)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120522)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120929)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121023)の論考文を読み直してみたのですが、何と「パイプス効果」がここでも覿面に。マレーシアやシンガポールに関する論考ならば、私にも経験が重なるのでよくわかるのですが、アメリカのムスリム事情に関しては、自分で読んだことがあるか手元にある文献の著者か、来日された学者でない限り、どういう位置づけなのかがよくわかっていませんでした。英語の読解力というよりは、アメリカ社会の潮流に関する常識不足で、何だかわかったようなわからないような...。
ところが、パイプス先生の名指しの個人攻撃が非常に役立つことが判明したのです!例えば、ハント先生がダラスで宗教間対話のパートナー(それこそ「パートナー」です(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20110127))に招かれたり、ご自身で企画して招いたりしたムスリムや、参考として挙げられているイスラーム文献の別の側面が明らかになったということです。
つまり、パイプス先生によって「ハマスに資金援助をしている過激なイスラミスト組織」と呼称され、非難されているグループと、実はハント先生が一緒になって対話をしていたり、対話相手として神学生達に勧められたりしていたのです。2008年当時は、私も組織名だけは知っていましたし、その系列が出版した一般向けの本も何冊か手元にありましたが、(何だか正体のはっきりしない、曖昧模糊とした内容だなぁ)と不審に思っていました。
ただ、そのもやもやが自分にとって妨げになっていて、(どういうことなんだろう?)と、確信が持てないうちはいい加減なことを書けないと保留にしてありました。
ハント先生は、多分その時点では、まさかハマス関連の犯罪歴を持つイスラミストだとは考えもせず、自分でダラス最大のモスクなどを訪問して、パンフレットを読んだりして(こういうイスラームなら、多元化したアメリカ社会ではいいだろう)と判断されたのだろうと思います。それに、移民系ムスリムアメリカ水準でも高学歴で裕福なので、南部のエヴァンジェリカル系メソディストとはいえ、開明的なクリスチャン研究者にとっては、関係改善のための対話にもってこいだと。特に、キリスト教側の偏見是正を志したいと願っている場合、うってつけだったのでしょう。
ともかく、ハント先生の目が曇っていたとばかりは言い切れず、このイスラーム組織は、アメリカの教会協議会や福音派協会や日系アメリカ人のグループのような団体にも「イスラームについて啓蒙」する活動記録があったようです。
もっとも、ハント先生自身、その論考を書いた時に「筆者は『政治的公正さ』だと非難された」「本当のイスラームを伝えていないから、と大量の資料付メールが筆者に(教えるために)送られてきた」などという不満を(注)で追加されています。ハント先生の反論は、「アメリカの場合、イスラーム外交政策にも関わるので、メディアの役割は重要だ」と批判され、特にロバート・スペンサー(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080509)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111217)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111221)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120113)など、大衆向きのイスラーム著述家を「全体の文脈や背景を無視して、イスラームの一部の問題点だけを殊更に集中して取り上げている」と厳しく警告を発しています。
スペンサー氏については、東南アジアのイスラームについて私とは見解が異なる点があり(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120924)、仮に何らかのつてで翻訳を頼まれたとしても、まず引き受けることはないだろうとは思っていますが、いつ頃からか、いろいろな状況でパイプス先生と親しくしているので、(ちょっとやっかいだなぁ)とは感じていました。
私は、ロバート・ハント先生が左派だとは全く思ったことがありませんし、決してイスラームムスリムの護教活動をしているのではなく、クリスチャンとの関係改善を志しての研究教育活動だと考えています。比較的率直に「ムスリムとの対話の問題点」も書いていらっしゃる方だと思っています。その意味で、パイプス先生達とはかなりトーンが異なってはいますが、どこか物足りなさもなきにしもあらず。イスラエルのことも、もちろん支持されているはずですが、アメリカのムスリムの大多数が親パレスチナでもあるので、クリスチャンの立場としては、非常にジレンマの多い、センシティヴな問題だと認識されていることはわかります。
その他にも、パイプス先生が9.11前にインタビューした穏健ムスリムの名前も含まれていて、やっとこれで、最初に読んだ時にはつかみにくかった事情が、おかげさまで明確になったというところです。やはり、なんだかんだ言っても「パイプス効果」です。手がかりとしても非常に参考になりました。
一つおもしろいと思った点は、パイプス先生達のような共和党の保守派から見ると、メディアが「イスラミストに好意的」に映るらしく、ハント先生から見ると、メディアが「イスラームを否定的に報道する(ので困る)」という印象のようです。結局、映し鏡のようなもので、自分が人生を賭けて集中しているテーマについては、一般人の理解が普及していないように見えるのでしょうか。