ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

櫻井よしこ氏の『議論の作法』

櫻井よしこ氏の言論活動に注目し始めて、一年以上になる(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%DD%AF%B0%E6%A4%E8%A4%B7%A4%B3)。

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• 2014-10-17   単純な頭をつくる新聞
• 2014-09-12   行き過ぎた左傾化の軌道修正
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• 2014-07-10   とみにヘンな『朝日新聞
• 2013-12-16   無知な大国意識は迷惑だ
• 2013-12-11   自文化に対する矜恃と礼節
• 2013-11-25   植民地統治を再解釈する
• 2013-11-21   日本史は実におもしろい
• 2013-11-13   国も人も強くあるべし
• 2013-11-05   中華思想共産主義と左派運動
• 2013-10-27   挽回を目指そう!
• 2013-10-25   久しぶりの図書館利用
• 2013-10-24   凜とした日本女性のモデル

「言論テレビ」(http://www.genron.tv/ch/sakura-live/)も、普段は一部だが、何本かは時間帯に合わせて見た。各界のさまざまなゲストが登場されるのに、何だか安心して見られるのが不思議だ。従来は、常に微かな違和感を覚えつつ、人様の話を聞いたり読んだりすることも多かったので、やっとこれで、自分はやはり本流の日本社会の一員なのだと確認できた感覚。
というわけで、先日のブログ・コメント欄(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141022)に書いた櫻井氏の新著『議論の作法』文春新書993(2014年10月20日)から、例によって部分抜粋を。
最初に一言だけ、私見を。「事実に忠実」であれば怖い物なし、という基本路線のようだが、恐らくこれは、事実の記録がきちんと積み重ねられていない人達を相手に議論してこられたからだろうか。または、平気で嘘をつき、歪曲を当たり前と思う人達が対象だからだろうか。昨日も書いたように、私は「事実に忠実」だけでは議論は成り立たないと思う。しばらく前に、アメリカの知識層が対象の英語討論で、「半分だけ事実」(half truth)と相手から論駁されていた映像を見たからでもある。

ダニエル・パイプス先生の戦略的言論も、実はそういう面がないとは言えない。メールのやり取りをしていると、本当によくわかる。我々は著述の訳出を通して、「上司・部下」の関係であるが、私的公的には「メール友達」でもあり、しかも同盟国である。だが、国が違うので、歴史観が異なるのはやむを得ない(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140616)。イスラーム問題や中東事情やアメリカ政治を巡る共通項だけで情報交換したり、意見を述べたりしているのだが、多忙もあってか、私が事実や経験に基づいて反論や異論を出しても、パイプス先生側が負けそうになったり、直接は関係のないことだったり、言いたくないことについては、あっさり無視されることもないわけではない。

1. 「取り扱い注意マーク」(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131119
2. 「取り扱い注意マーク」その後 (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131120
3. 「取り扱い注意マーク」の続編 (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131124
4. ハーマン・カーンの遺言 (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131126
5. 敗戦国民として(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131127
6. その後の「マーク」氏 (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131206
7. 今後の日本の歩む道は (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131223
8. フーバー回想録から (http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140616

ちょうど一年前に始まった摩擦だった。今振り返っても、訳業が順調に進んだところで、ある程度飽和状態となり、異文化摩擦が生じる頃合いとしては、正当な成り行きであったかと思う。ただし、その5ヶ月後にお会いしてみると(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140508)、媚びたり擦り寄ったり、盲目的に従順になったりするのではなく、自分の立場で見解を出すという意味で、私の態度をとても評価されていたらしいことも判明した。しばらく前に、エズラ・ボーゲル氏が来日した際、「今、韓国人や中国人が、西洋人の友達が欲しくて、盛んに日本の悪口を言って回っているが、是非とも日本は頑張って欲しい」という意味のことをおっしゃっていたが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130906)、それとも重複するであろうか。

だから、「事実」こそが武器で、それさえしっかりしていれば安心、という櫻井氏の主張は、やや不充分だと私には思われる。むしろ、「事実」の「解釈およびその意図と背景」をきちんと把握することの方がもっと重要である。私の経験では、一生懸命に集めた事実だけ並べてみても、あっさりと「それは全部不要です」と切って捨てる人もいる。そこで引き下がった私も、今から考えればお人好し過ぎたが、だからこそ、事実をどのように解釈するか、そして、なぜこのような事実を集めようとしたのかという意図、それ以前に同類の試みは皆無だったのかという背景、そうだとすれば、その理由はなぜか、まで準備する必要があろうかと思う。
ダニエル先生が、文化相違から時に迷う私を諭す場合、常におっしゃるのが「自分は勝つことを目標としている。君は同意しないのかい?」というパンチの効いた文句。シンプルだが、わざわざ「はい、私は負けたいです」というはずがないから、こうやって優柔不断さを切り捨てて、なすべき作業に集中してこられたのだ。これこそが戦略思考。日本だと、「勝ち負けだけではない」「勝った後、相手から恨みを買わないか」「グレーゾーンも大事だ」「バランスよく論点を列挙した方が好感が持たれる」などと理屈が出てきそうだが、時間は有限。本音に忠実に、自分が望むものを極力単純化して、真っ直ぐにそれを伝え、実践していく、これがダニエル先生流(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140929)。
では、彼がどこからそれを学んだかと言うと、想像するに、やはりお父様が基本ではないだろうか。ちょうど、リチャード先生(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141007)の“Russian under the Bolshevik regime”(Vintage 1994)をほぼ読み終わったところだが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140923)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141018)、一番興味深く、勉強になるのが第6章「プロパガンダとしての文化」(pp.282-336)。その他には、第4章「輸出のための共産主義」(pp.166-239)と第5章「共産主義ファシズム国家社会主義」(pp.240-281)と第7章「宗教への急襲」(pp.337-368)が非常におもしろい。というのは、私の学生時代にも、メディアや大学の一部で、その兆候が観察されたからだ。ちなみに、ダニエル・パイプス公式ウェブサイトの一見がちゃがちゃした体裁は、実は対イスラミスト・対左翼路線の戦略である。過去の輝かしい経歴はともかくとして、今は一般大衆向けの啓蒙教育が中心なので、あのように書いている。私がそれを見抜いた頃は、喜ばれた。 
一世紀前の旧ソ連の話だと思ってうっちゃっておいてはならない。この思想のアジア版と櫻井氏は闘ってこられ、今も奮闘されているのだから。

議論の作法櫻井よしこ(著) 文藝春秋 (2014年10月20日


・今日の世界において、歴史的背景や思想の違う人々との議論を避けて通ることはできません。(p.3)
・議論は「勝てばよい」というものではありません。より有益な結論を導くための対話が議論です。できれば、考え方や立場の異なる人々に、こちら側の考え方や視点を受け入れてもよいという気持にさせることです。(p.4)
・(1)「事実」に忠実であり続けること。(2)相手の言い分に、十分に耳を傾けること。(3)自分が正しいと確信していることは譲らないこと。(4)ユーモアのセンスを忘れないこと。(5)日本人としての誇りを基本とすること。(p.4)
・議論に臨む前に、そのテーマについて予習をしておく。必ず情報を整理。縦(時系列)の整理と、横(関連する事項)の整理が必要。歴史的背景+その問題が他のどんな問題につながっているのか。(p.5)
・大切なのは、事前の準備。相手の議論の土台に一方的に乗せられないためにも、また、自分に自信をつけるためにも、事前の準備はしっかり。(p.6)
・事前にいろいろ調べたり考えたりして、自分の感覚として抱くに至った疑問点→自信をもって提起するのがよい。しっかりした気構えを忘れないように。納得できないときは容易に引き下がらず、ふんばることが肝心。相手の話をじっくり聞いたうえでしっかり反論。正しいと思った点については、譲ってはなりません。(p.7)
・状況を楽しむこと。議論は大概怒ったほうが不利に。(p.7)
・日本人としての視座を忘れないよう意識。日本がどのような歴史を歩み、先人たちがどのような努力を積み重ねてきた末に自分が存在するのか。(p.8)
嘘やごまかしはしないこと。正しい作法を実践することが、日本を勝利に導く。(p.8)
中国や韓国の嘘に対しては客観的事実を冷静に積み重ね、世界に発信し続けていく。(p.16)
・「正直であること」「嘘をつかないこと」を何よりも大事にし、「自らの誤りを潔く認め、頭を下げること」を美徳として実践する日本人(p.16)
・いかに汚い手を用いようが、相手を騙し、生き残った者が勝者である、騙されて負けたほうが悪いという価値観。勝者が歴史を書き換える。(中略)いかなる嘘を用いても論争に勝つことが大事。それが彼らの価値観。日本人と考え方が合うはずがない。(p.17)
国際法を守って、国際社会の規範を維持し、国際社会に貢献しようという発想が欠落。(p.19)
・日本の根源的な公正さと優しさに自信をもって世界の論客に立ち向かっていけばよい。(p.19)
我々とアメリカの歴史観が重なり合うことは恐らくない。それでも歴史認識問題に発展しないのは、日米は互いに異なる面もあることを認め合い、加えて民主主義の価値観を認めているから。(p.53)
・中国が近隣諸国に対して、強硬な姿勢を見せ、イメージを落とすなか、日本はアジアから信頼される最大のチャンスを迎えている。(p.66)
・中国側が「精神」よりも「利害損得」でとらえていることを、忘れてはならない。(p.90)
・相手の主張を理解した上で、事実の間違いや矛盾点を遠慮なく指摘。対立する相手の論の中に、自分が知らなかった新たな情報や斬新な発想が含まれていることがあるかもしれない。相手から学びつつ、冷静に自説を主張。刺激的で学びの多い作業。(p.93)
・騙すことを至上の価値とするような悪知恵においてもかなわないアジアの国々は正念場に立っている。(p.94)
・日本の「和」を基調とする価値観を全ての面で広げていくこと。(p.95)
・中立の心で事実を受けとめ、咀嚼する。素朴な疑問を臆せずぶつける。そしてさらに事実に徹しておく。(p.96)
・なぜ、十分に学ぶことができないのか。一つのテーマを長期にわたって研究・蓄積する人材や機関がないから。(p.118)
・ひたすら恐怖を煽るだけで、どうすれば被災地を復興させることができるのかといった視点からの報道がなされないことは非常に残念。(p.124)
・原爆の凄まじい被害を受けた広島が、その後、日本有数の健康優良県に。(p.127)
後進国との政治上の駆け引きの産物。日本国の富の無駄遣い。(p.153)
・真面目に頑張った国が鞭打たれるようなこの矛盾に満ちたルールを定めているのが京都議定書であり、皮肉にもこの京都議定書を最も忠実に守ろうとしているのが日本。(p.155)
・これほど優れた日本の技術。各国は皆、欲しくてたまらない。(p.156)
・日本は大層不利で、反対にEUにとっては大変好都合。(p.157)
・人さまの話を聞くという基本に立ち返り、相手の言葉に虚心坦懐に耳を傾けると、おのずと物語が回り始め、新たな地平が見えてくる。(p.162)
・目的のためには自らの価値観とはまったく異なる相手、極論すれば悪魔とさえ手を組む傾向といってもよい。この二つの流れを持つ共和党経験に、ブッシュ大統領価値観外交こそが重要なのだということを、日本は説得しなければならない。そのためには日本は余程しっかり自分の立場を堅持しなければならない。(p.185)
*文体を敬体から常体に変更した箇所がある。

(部分引用終)

PS:他の方のブログ上で、「ユーリ」というハンドル・ネームで意見を書いている方がいらっしゃいますが、私ではありません。アマゾン書評では、使用しています。