ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

西洋におけるイスラーム

以下は、10年以上講読しているアメリカのキリスト教雑誌(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20071020)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080407)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080522)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080712)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20081025)からの日本語要約です。似たテーマで書かれた筆者のドイツ語論文は、次をご覧ください(http://www.pfarrerblatt.de/text_203.htm)。
ドイツのイスラームに関する短い報告は、4年前の今頃書きました(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20081022)。また、西洋のイスラームについての雑感は(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080626)および「メムリ」報告(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090421)にあります。
要旨をまとめてみて、イスラームが絡むと、何年経っても代わり映えのしない内容だなあと愕然とします。いえ、ハウザー氏の問題ではなく、常に綱引き状態のために、ダニエル・パイプス氏のように(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121026)、新たな話題をコマゴマと探して列挙しないことには、同じ事の繰り返しなのです。

国際宣教リサーチ紀要』2012年10月(36巻4号)pp.189-194
「ダアワ:イスラーム宣教と現在のその含意」
アルプレヒト・ハウザー(福音ルーテル教会)(1962-80年アフガニスタンパキスタン在)

(要点)


1.イスラームとは


・普遍的な主張を持つ宣教宗教
・公的私的空間の両方でクルアーンに啓示されたアラーの意志に導かれるべき政治的宗教
タウヒード(神の唯一性)
・アラーに全てを服従する信仰体系
イスラームイデオロギーの信仰体系 ← 福音の中心教義に反対
ムハンマドの人生が規範


2.人間の役割


人間性とはイスラームを通してのみアラーの「真っ直ぐな道」を見つけること
・ジハードとダアワ ← 集団および個人の義務・アラーのために戦う
世界の全諸国をイスラーム化する義務と権利


3.西洋におけるイスラーム


(1)対立点
イスラームアブラハムの宗教(ユダヤ教キリスト教)や他宗教と同等ではない
社会正義・人権・信教の自由の賦与に失敗した多くのムスリム諸国 → 軽蔑・周辺化
・国連人権宣言第18条(思想、良心及び宗教の自由に対する権利)とシャリーア
・1990年8月5日イスラームにおけるカイロ人権宣言


(2)歴史
1924年に廃止されたウンマクルアーン的概念とカリフ制の継続を目指す
・1950年代半ば〜世俗化とポストモダンデカダンな欧州原理主義イスラーム復興
・1979年に政治的戦闘的イスラーム ← マルキシズム
1980年欧州イスラーム協議会が欧州のイスラーム化戦略を発表
(例)Yusuf Al-Qaradawi (国際ムスリム学者連合・欧州ファトワ協議会)
「西洋のムスリムは宗教(イスラーム)への真摯な呼びかけ人であるべきだ」
イスラームは全世界中で勝利するだろう
コンスタンチノープルイスタンブールに転換したので、ローマ征服によってイスラームが欧州に再び入るだろう
「軍事力ではなく言葉とペンの力で征服する」


(3)西洋におけるイスラーム復興とダアワ戦略
・社会のイスラーム化:留学と移住と国際結婚  
・ダアワ戦略:信仰の壊れた西洋社会イスラームの権益を強化
・十字軍・植民地主義キリスト教宣教は西洋の大罪
(例)イスラーム術語のドイツ語訳+キリスト教宣教アプローチの拒絶
グローバル化と西洋覇権はイスラーム世界の汚職の原因だとして抵抗
・対話は潜在的ムスリムであるムスリムイスラームを信奉するよう説得する目的
→「イスラーム改宗」ではなく唯一の真の宗教へ戻る「イスラーム回帰」
シャリーア法下での対抗文化としてのイスラーム
自らを犠牲者だと提示し、ムスリムにとっての好意的特権的条件を獲得
・グローバルな経済危機をイスラーム銀行促進の機縁に利用
ムスリムアイデンティティ、自己保証、自信の意識強化
ムスリム同胞団に関連する知識人と機関はグローバルなダアワ計画の中心部
・ソフトなダアワとハードなジハード → 市民社会イスラームの家へと転換
国連でのイスラーム協力機構(OIC)のダアワ戦略の役割
イスラーム平和を愛好する宗教だというレトリックを強調
イスラモフォビアとイスラーム批判は世界平和を危機に貶めると批判
・イスラミストの夢:ウンマ+西洋征服→グローバルなカリフ制


(4)識者の知見
バーナード・ルイス「21世紀末までに欧州はイスラーム下にあるだろう」←正しいかも
・フィリップ・ジェンキンス「欧州のキリスト教が戻ってくるだろう」←楽天

[終]

結局のところ、「かつての栄光はともかく、現在のイスラーム世界が低迷して近代化に失敗した理由は、ムスリム世界が自信を持ち過ぎて、他者から学ぶことを長らく怠ったからだ」という説が、最も説得力があり、希望の持てる理由付けかと思います。第一、他者からの批判を拒絶しているようでは、改善も進歩もあり得ません。それに、西洋社会が長年、戦争で血を流し続け、さまざまな思想を戦わせつつ、やっとここまで優れた高度な文明を造り上げたのに、他者として後から入り込んできて、自分達の権利だけを要求するなど、言語道断の最たるものです。