ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

勉強には時間がかかる

昨日は、アメリカのハント先生とマレーシアのDr. Ng Kam Wengと楽しくメール交換をしました。
来月、ハント先生がマレーシアを訪問されるそうで、どうやらお二方で面会の予定だとのことです。もっとも、以前の公開クリスマス・レターでは「うちの子ども達のいとこがサラワクから来ました」と、テキサスの家の暖炉前でポーズをとっている6人ほどの若い青年男女の元気そうな写真が掲載されていましたから、マレーシアとアメリカの距離は、私以上に近いのでしょう。
ハント先生とは、‘firman’と‘din’というイスラーム用語が、実はアラビア語ではなく、ペルシャ語語源ではないかという話題で盛り上がりました。前者は先生のリサーチによる結果で、後者は私が日本のイラン研究者から数年前にうかがった話です。もし、ペルシャ語から流入した語彙がアラビア語イスラーム基底語に一定数含まれているのであれば、クルアーンの編集過程が多少は明らかになるということではないでしょうか。もっとも、ペルシャ語アラビア語の関係でいくと、両者は数世紀にわたって人々が接触を続けてきたので、語源をはっきりさせるのは困難なようですが。
(後注:手元にある複写本 Muhammad Abdul Jabbar Beg. 1982. "The heritage of Malay language 2: Persian and Turkish Loan-Words in Malay", p.71.には、次のように書いてありました。

1. Din: The word din exists in Aramaic-Hebrew, in Persian and in Arabic vocabulary. Some scholars have argued that din is not a genuine Arabic word and the Persian word din was borrowed into pre-Islamic Arabic. In Aramaic-Hebrew the word din means "judgement" but in Persian usage it means "religion"9. Available writings on "din" suggest a strong possibility of its being an Arabic word of Persian stock10.


9. D.B. Macdonald, "Din" in Shorter Encyclopaedia of Islam, Leiden, 1961, 77-78.


10. I. Goldziher, Muslim Studies, (tr. by Stern), London, 1967, 1, 22. Jurjil zaydan, al-Laughat al-'Arabiyah, 35, f. n.)

なぜこれが問題となるかと言えば、マレー語聖書翻訳にどの用語を当てはめたらよいのかと関わるからです。特に‘firman’は、マレーシア国内で、非イスラム諸宗教で用いてはならないと定められている州法が9つあります。

また、Dr. Ngの方は、2008年11月4日付「ユーリの部屋」で書いた指摘について、ご自分で論文などを調べた後、「そうだ、あんたは正しい。ありがとう」と認めてくださいました。それ以上に、マレーシアでこの程度の指摘をする人がほとんどいない、ということの方が深刻なのですが。よく確認もせずに、博士号取得者の書いたものを、そのまま「権威」として鵜呑みにして、自分達の出版物で更なる引用を続けてしまうのが問題です。
ハント先生には、新たに追加メールをお送りしました。「先生がある文献で参考資料として列挙されたものを日本の大学図書館から取り寄せて確かめてみたら、実際にはそういう記事が目次にさえ掲載されていませんでした。恐れ入りますが、正確な号数とページ数をお教えいただけませんでしょうか。ただし、その資料には、ウィリアム・シェラベアの書いた‘マレーシアの中国人’という記事は掲載されているようですが」と書き添えました。
お返事が楽しみです。