ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

低迷の根本原因

昨日の訃報に接して(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130905)、ふと我に返って来し方行く末を考えると、現在の日本の苦境や低迷もむべなるかな、と思うのです。
世界大学ランキングで上位に食い込むことを焦っているかのような記事が、今朝の新聞にも出ていました。でも、よく考えてみると、私がマレーシアに派遣されていた1990年初頭が戦後日本の最後のピークだったわけで、その後はどう見ても安穏とし過ぎ、気づいたらシンガポールや韓国や中国に追い抜かれていた、という状況です(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130519)。
国力を測る基準は軍事力と経済力なのだと最近読みました。考えてみれば、軍事と経済のためには、世界中のありとあらゆる知識と情報と健全な判断力が不可欠で、いくら自画自賛したところで、相手が価値を認めなければ物も売れず、お金も入って来ず、従って自分達を守ることもできない、という単純な生存競争だとか。国際環境では有無を言わさず冷酷に力のある者が勝ちで、もし弱いと自分を認めるならば、せいぜい敵だ、邪魔だと思われないよう、おとなしく振る舞うのが賢いのだそうです。
個人レベルでは、私の研究テーマを振り返ってみても、そう思います。
昨日も書いたように(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130905)、1990年代前半期にエディ・ホー先生を経由してまざまざと知ったことは、マレーシアの小さなプロテスタント系神学校であっても、確かに聖書知識が生き生きと受け継がれていて、マレー人と共存はしていても、イスラームの価値観ではなくキリスト教を受容している人々が、華語と英語で脈々と連なっているのです。しかも、言語使用の範囲からマレーシア外部世界とも連携することが簡単で、従って、世界情勢の理解も非常に早いわけです。こういう人々が少数派であっても存在するマレーシアを、単に「あそこはイスラームの国だから」「それはチャイニーズの話でしょう」と無視してしまうと、とんでもないことになるのではないでしょうか。
しかも、今でもマレー語のキリスト教文献における「神の名」をめぐって堂々巡りの妙な議論が延々と続いていることを思えば((http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/archive?word=%22Allah%22)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%BF%C0%A4%CE%CC%BE)特に(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080426)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080505)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080911)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080912)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090227)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090228)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090302)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090427)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090707)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20100105)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111010)を参照のこと)、(外交政策はともかくとしても、個人として日本が目を向けるべきは、どちらなのか?)という疑問がふつふつと沸いてきます。
翻って、日本で私が研究発表を始めた頃は、着眼点を非常に褒めてくださる先生方もご年配層には多かったのですが、いかんせん、同世代の層が「私はァ、聖書なんかァ読んでいないしィ」などと口走る始末。「こっちの知らないことばかり発表するな!」「あれこれ本を読むな!一体、何がやりたいんだ?」
これは、某研究会での私の発表後に寄せられたコメント。もう随分前の話です(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20070926)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20071215)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20101105)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130503)。
そうこうするうちに、9.11の余波として、いきなり大学は「肯定的なイスラーム理解」が全面的に支配するようになってしまいました。
パイプス訳文を始めて、アメリカの中東研究を含むいわゆる第三世界研究そのものが、1970年代以降、非常に左傾化するようになり、その結果、私のようなテーマが脇へ寄せられるようになってしまったのも、よくわかるようになりました。確かに、かなり前に調べたハートフォード神学校でも((http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%CF%A1%BC%A5%C8%A5%D5%A5%A9%A1%BC%A5%C9)特に(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080418)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080906)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090418)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20100729)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120812)を参照のこと)、1980年代にはまだオリエンタリストの薫陶を受けた実力派のシニア・キリスト教神学者が頑張っていらしたのですが、1990年代に入ると世代交代して途端に方針ががらっと変わり、「ムスリム世界に奉仕するための卓越したキリスト教神学校」から「文化的イスラミストが大手を振ってまかり通る一学校」へと転換してしまいました。(パイプス先生も、昔はハートフォード神学校のジャーナル論文を引用されていたので、数年前のコラムでも、現状に対する嘆きの一例として観察されています。)今では、フェミニズム神学、黒人神学、ヒスパニック神学が中心で、それ以外のいわゆる「元主流の白人キリスト教学者」は、そのような左派潮流に下がって奉仕する立場に転落してしまっています。だから、ますます過去の卓越した少数派のキリスト教宣教師学者達が、博物館入りか、文献の中だけで知られるだけになってしまったのです。
なぜ、このような変遷が起こったのか?それは、いくらムスリム世界へキリスト教宣教に出かけて長期間滞在しても、ほとんど何ら予期した効果が得られないことが判明したからです。また、キリスト教宣教が西洋帝国主義だと同一視され、その反省と克服のために変化したのだそうです。(しかし、それも単純な見方で、本当に帝国主義キリスト教が結束していたのかどうか、個別事例を見ればすぐにわかりそうなものですが。また、拡張を基とするイスラーム帝国主義についてはどうなのでしょうか?)
もし、その福音宣教を信者獲得と狭く表面的に捉えるならば、日本もよく似たものですが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20100111)、問題は、クルアーンに記されているキリスト教(三位一体の誤解・イエスの十字架上の死と復活の否定)が実際のキリスト教実践とは異なるのに、ムスリムはいくら高等教育を受けても頑として認めようとしないことにあるらしいです。つまり、「相手が変わらなければ自分が変わるしかない」という敗北主義の現れとも言えるようです。果たして、それでいいのでしょうか?
ところで、エズラ・ヴォーゲル氏が最近来日され、日本語で1時間半以上、講演および質疑応答をされました(http://pub.ne.jp/itunalily/?search=20519&mode_find=word&keyword=Ezra+Vogel)。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で著名ですが、実は私、一切読んだことがありません。自分達が普通にやってきたことをアメリカの偉い先生におだてられたって何らうれしくも何ともなかったからですし、外部が一時的に好奇心でおもしろがっているだけだろうと、醒めた目で見ていたからです(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120419)。
今回、それで正解だったと思いました。ヴォーゲル氏ご自身、「アメリカ人に『もっと日本を学べ』というつもりで書いた」とおっしゃったからです。「あの当時、アメリカ人は『日本なんて大したことない』と思っていたから」と。(やっぱりね)と納得。
学生時代に、来日したアメリカ人の講演をいろいろと聴いた時、率直に(日本だったら、その程度のことを人前で口にするのは恥ずかしいと年配の先生から叱られる。私でも知っていることを、なぜこっちが知らないかのように話すのだろう?)と感じていました。(人前で話すならば、こちらが確実に知らないことを話して欲しい)と。もっとも、私のいた環境のレベルが低過ぎて、それに合わせてもらっていたということかもしれない、とも思っていました。だからこそ、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』など読む気になれなかったのです。
ただし、ご講演の意義はありました。訒小平の背景について、アメリカの目で見たリサーチ結果を知るよい機会だったということ、欧米人の友達が欲しい韓国人や中国人が日本の悪口を言って回っているらしいと示唆されたこと、尖閣諸島問題の危険性については、衝突回避のために学者同士が公平に議論するのが望ましいのではないかということ、などです。米中関係の発展が今後も見込まれるだろう、との予測もありました。

オバマ政権になって、随分アメリカも凋落したものだなぁと改めて驚かされます。パイプス先生が昨年の今頃、必死になって文筆で痛烈に批判していた理由が(http://www.danielpipes.org/11948/)、一年経ってこちらにもようやく実感を伴って伝わってきました。
アメリ国務省と関係の深い世界の信教の自由報告書を発行している委員会に、このところオバマ大統領がジェームス・ゾグビィ氏を指名したらしいことです。(実はこの委員会、共和党のブッシュ氏が大統領だった最後の年2008年には、ただメールで依頼しただけなのに、きちんと報告書が送られてきました。その翌年にも同じようにメールを送りましたが、何も音沙汰なし。当時は、世界からの要望に応えていられないほど多忙なのだろうと思っていましたが、今考えると、大統領が替わるとここまで国外への対応も変わるということかと、いい経験をさせていただいたことがわかります。)

http://www.uscirf.gov/news-room/press-releases/4095-932013-president-obama-announces-intent-to-appoint-dr-james-j-zogby-to-uscirf-.html
9/3/2013 President Obama Announces Intent to Appoint Dr. James J. Zogby to USCIRF


FOR IMMEDIATE RELEASE
September 3, 2013| BY USCIRF



President Obama Announces Intent to Appoint Dr. James J. Zogby to USCIRF



WASHINGTON, DC – President Barack Obama on August 30, 2013 announced his intent to appoint Dr. James J. Zogby to serve on the U.S. Commission for International Religious Freedom (USCIRF).


“USCIRF warmly welcomes Dr. Zogby as our newest incoming Commissioner. My fellow Commissioners and I eagerly await Dr. Zogby adding his voice to ours in support of humanity’s first freedom,” said USCIRF Chairman Dr. Robert P. George. “Given his knowledge, experience and commitment, I am confident that he will make significant contributions to our work on behalf of the cherished right of freedom of religion or belief and its fuller integration into U.S. foreign policy.



Dr. Zogby is President of the Arab American Institute, which he founded in 1985. He is also Managing Director of Zogby Research Services, and a Visiting Professor of Social Research and Public Polling at New York University in Abu Dhabi, United Arab Emirates. In 1982, he co-founded Save Lebanon, Inc., a non-profit relief organization which funds social welfare projects in Lebanon. Earlier in his career, Dr. Zogby co-founded the Palestine Human Rights Campaign and the American-Arab Anti-Discrimination Committee. He is the current Chairman of the Editorial Advisory Committee for SkyNewsArabia News.



He has hosted various television programs, including A Capital View on MBC from 1993 to 2001, and Viewpoint with James Zogby on Abu Dhabi Television from 2001 to 2011. His column, “Washington Watch,” is currently published in 14 Arab and South Asian countries. He is a member of the Council on Foreign Relations. Dr. Zogby received a B.A. from Le Moyne College and a Ph.D. in Comparative Religions from Temple University.



Comprised of nine members, USCIRF is an independent, bipartisan U.S. federal government commission that monitors the universal right to freedom of religion or belief abroad and makes policy recommendations to the President, Secretary of State, and Congress. USCIRF Commissioners are appointed by the President and the leadership of both political parties in the Senate and House of Representatives.



© Copyright 2013
United States Commission on International Religious Freedom
732 N. Capitol Street, N.W., Suite A714
Washington, D.C. 20401

このゾグビィ氏はムスリムではなくレバノン系マロン派のクリスチャンだそうですが、実は反ユダヤ誹謗連盟をアラブ版にしたような組織の長で、かつてパイプス先生をあることないことで酷評していた人です(http://www.danielpipes.org/10987/)(http://www.danielpipes.org/12050/)(http://www.danielpipes.org/13002/)。
つまり、元はユダヤ系の有力者が設立した信教の自由委員会だったはずが(http://www.danielpipes.org/6339/elliott-abrams-religious-freedom)、いつの間にか、反イスラエル、反シオニズム、反ユダヤの思想を持つ人物を加えてしまっているわけで、恐らくしばらくしたら、報告書の内容が巧妙に変化しているのに気づくでしょう。
これは、大変に怖いことです。それに、判断力と経験に乏しい若い学生達が簡単に影響されてしまう可能性が大です。そして、徐々に社会の潮流が変わっていってしまうのでしょう。