ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ビン・ラディン所有の本

さまざまな角度から硬軟混ぜ合わせて書いているのは、この重苦しく厄介な現代問題(中東情勢・西洋とイスラームの対峙)について、何かのきっかけで具体的に興味関心を持つ方が増えればいいな、と思ってのこと。特に高校生か大学生向けに、次世代の中東認識のほんの一助にでもなれば、と願ってのこと。また、誰でも思いつくようなことを安易になぞりたくはなく、さりとて、主流から外れた突飛で奇天烈な結論を引き出したくもない。
最近、ビン・ラディンの隠れ家にあったブック・リストが公開されたが(http://www.dni.gov/index.php/resources/bin-laden-bookshelf)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20150525)、その件については、パイピシュ先生が早速、ご自宅の書斎から、カナダのテレビにスカイプ出演されている(3分ほど)(http://www.danielpipes.org/15877/bin-laden-documents-released)。
非常に簡潔で要領を得たまとめで、私としても納得がいく。だから、聞きやすい。
既に過去の人となったビン・ラディンではあるが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20071026)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080330)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121019)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140908)、手元にある『オサマ・ビン・ラディン発言』(ブルース・ローレンス(編)鈴木主税・中島由華(訳)河出書房新社2006年))を思い出すところでもある(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111126)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150219)。
このビン・ラディンの所有本リストから、個人的に私の目を引いた点と小さな感想を。
1.イルミナティなどの陰謀論に取り憑かれていたビン・ラディン
← 上記テレビ出演でも、パイプス先生がご自分でおっしゃっているが、過去の陰謀論を巡る研究の二冊から(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120131)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120505)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120524)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120610)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120612)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120618)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130508)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130630)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140626)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140808)、9.11の本当の動機と狙いがどこにあったかを、パイプス先生は、9.11以前に的確に見抜いていたことが裏付けられる(http://www.danielpipes.org/books/hidden.php)(http://www.danielpipes.org/books/conspiracy.php)(http://www.danielpipes.org/14644/)(http://www.danielpipes.org/14511/)。
他にも、中東ムスリムの各種陰謀論については、次の拙訳を参照のこと(http://www.danielpipes.org/11552/)(http://www.danielpipes.org/12158/)(http://www.danielpipes.org/12243/)(http://www.danielpipes.org/12251/)(http://www.danielpipes.org/12311/)(http://www.danielpipes.org/12500/)(http://www.danielpipes.org/12508/)(http://www.danielpipes.org/12531/)(http://www.danielpipes.org/12579/)(http://www.danielpipes.org/12580/)(http://www.danielpipes.org/12620/)(http://www.danielpipes.org/12731/)(http://www.danielpipes.org/12901/)(http://www.danielpipes.org/12940/)(http://www.danielpipes.org/13004/)(http://www.danielpipes.org/13021/)(http://www.danielpipes.org/13260/)(http://www.danielpipes.org/13729/)(http://www.danielpipes.org/13730/)(http://www.danielpipes.org/13795/)(http://www.danielpipes.org/13801/)(http://www.danielpipes.org/13808/)(http://www.danielpipes.org/14000/)(http://www.danielpipes.org/14162/)(http://www.danielpipes.org/14464/)(http://www.danielpipes.org/14741/)(http://www.danielpipes.org/14769/)(http://www.danielpipes.org/14839/)(http://www.danielpipes.org/15383/)(http://www.danielpipes.org/15386/)(http://www.danielpipes.org/15421/)。
換言すれば、「やり方はともかくとして、ビン・ラディンの思想にも一理ある」などと、もっともらしく語っていた日本の識者は、一体全体、その発言の責任をどのように取るつもりなのか、私としては興味津々である。

2.フランスに興味があったビン・ラディン
← ここは、日本にとって案外に盲点かもしれないが、だからこそ、ジル・ケペルの訳書を出版された池内恵先生の慧眼を裏付けることにもなる(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141012)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150320)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150403)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150406)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150421)。また、パイプス先生が、頻繁にフランスを訪問して、フランス語でもテレビとラジオのインタビューに応じ、討論までされていることの意義がわかる(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130106)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150124)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130323)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150326)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150413)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150421)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150513)。

3.パトリック・クローソンの『イランの核野心を調べて』(拙訳)が含まれていたこと
← イラン専門家のクローソン氏は、中世イスラームを専門として博士号を授与された直後に発生した1979年のイラン革命によって現代イスラームに転向したパイプス先生と、従来から親しく(http://www.danielpipes.org/12898/)(http://www.danielpipes.org/14077/)、共同執筆の論文もある。その片鱗は『中央公論』誌上の邦訳(http://www.danielpipes.org/11384/)からも裏付けられ、日本でも、ある年齢層の人々には知られていたことであろう。最近の動向はよくわからないが、少なくともかつては、中東フォーラムの幹部でもあった。とはいえ、複数のシンクタンクを掛け持ちするのがアメリカでは普通らしく、従って、肩書きも複数あるようだ。

4.ノーム・チョムスキーの『覇権か生き残りか:グローバル支配を巡るアメリカの追求』『必要な幻想:民主社会の思想統制』(拙訳)が含まれていたこと
チョムスキーについては、過去ブログを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120312)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120524)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140210)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140215)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140605)。手元に『9.11 アメリカに報復する資格はない』山崎淳(訳)文春文庫(2002年)があるが、この「訳者あとがき」に違和感を覚えた日のことを思い出させる。
訳者は戦時中、「北海道の田舎」に疎開していて、1968年には米国東部の大学で日本語教師をしていたという(pp.140, 141)。
この本の主張の問題点としては、一見、オールタナティブで平和志向で、敗戦国の日本では素人受けしやすいのだが、アメリカの一連の軍事行為を責めるばかりで、そこに至るまでの討論過程や国際法、戦時法の検討などもさることながら、「では、どうしたら解決できるのか?」に関する具体的な代替案に欠けているということが挙げられる。
2010年5月にチョムスキーイスラエル入国を当局に阻止された理由は、イスラエル当局の狭く高圧的な態度のせいではなく、チョムスキーアナーキズム的なユートピア思想や左翼バリバリの主張が中東の現実に即していないから、というのが最も妥当であろう。立派な肩書きを有した人に無責任な影響力を広めてもらっては困る、ということではないだろうか。


なお、一言申し添えておくと、パイプス先生の旅シリーズは、今回が三度目(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150513)。ちょうど私の訳業開始期(2012年3月下旬)と軌を一にしていて、偶然の一致にしては意義深いのだが、今も断続的に続いている参加者のメール・チャットを読んでいる限りでは、初回(2012年3月)あるいは二回目(2013年11月)のいずれかに参加した人々は、その後もそれぞれに旅の見識を分かち合い、参加者同士でメール上の意見交換を続けてきたようだ。一ヶ月経って、ようやく二日前に私も皆様に感謝のご挨拶を送ったところ、「実は待っていたのよ、このようなメールを」との反応がオーストラリアからあり、今回の旅の分析的な知見と感想を述べた、続きメールが皆に回覧された。
つまり、寝食を分かち合う旅を共にしたということで、仲間意識が自然と生まれ、訪れた地域に関する情報交換をし、その後の展開を相互に学び続けているのだ。また、単にお礼のご挨拶であったとしても、何らかの形で意思表示を明確にし、仲間に貢献する姿勢が喜ばれるのだとも知った。もちろん、このメール・グループには、パイプス先生も、お世話係のR氏(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150525)も含まれている。内容によって特定の人達のみにメッセージを送りたい場合は、そのようにウェブ上の操作を加えて、個別対応としている。
例えば、訪問した場所に関するニュース記事がウェブ掲載されると、早速「参考までに」と添付で送られてきたり、次の旅の提案まで「冒険」と称して、早々と展開されていたりする。
これは、日本でも可能なスタディー・ツアーである。その場限りではなく、旅をきっかけとして、仲間同士で自発的に知見を深めていく習慣は、今も後も、誰もが自覚して実践していくことが望ましい態度であろう。
年齢層としては、お孫さんのいる方もかなり多かったグループなのだが、実に活発で常に目覚めていて、何事も問題意識を持って積極的に学び、批判的に物事を分析して検討を加えることが常態化した人々だった。ものすごく積極的に挙手して、誰もが質問をする。時間オーバーで、講師やガイドさんから「残りは個別に後でメールして」と断られるケースも度々あった。バス移動の間も、5センチほどの厚さの本を片手に、スマホで特に親しくなった人と個人的なメール・チャットも盛んに行い、食事やバス内での会話も、政治や社会の諸問題を中心とした現実主義的なもので、非常に知的刺激を受けた。
日本では、この年齢層だと、旅先で夫の愚痴とか嫁の悪口とか子どもや孫の自慢などがありそうだが、少なくとも私の見聞した範囲では、全くそういうことがなかった。非常に前向きで、個々の自立精神旺盛。ホテルでも、ウェルカム・ドリンクなるワイングラスに入ったオレンジ・ジュースを飲むや否や、チェックインをして、さっさとスーツケースを引っ張って各自部屋に向かう。相部屋の人以外は、誰もが自分で行動を決める。旅慣れた人達なので、集団行動の時間厳守以外は、何事も自由精神なのだ。
かくいうパイプス先生だって、ポーターが「まだ触るな!」などと怒鳴りながらバスから各自の重い荷物を下ろすのを、クチャクチャとガムか何かを嚼みながら眺め、「ポーターが我々に命令を下した」と呟いて隣にいた私を笑わせた後、無言でスタスタと部屋に向かうタイプだった。恐らくは、パイプス先生の勤勉かつ一歩先を読む先導的なお仕事ぶりから、自然と皆が感化され、方向付けられ、まとまっていくのであろう。
また、事実発見の旅という趣旨なので、パイプス先生の大量の文筆やメディア発言を中心とした言論活動が、全て地に足を付けた、理由あっての戦略思考であることが確認できるというのも、大きな魅力であろう。
そういう経験をすると、大変に申し訳ないが、陰謀論に取り憑かれていたビン・ラディンも、非現実的なユートピア思想のチョムスキーも、遙か遠くに霞んでしまう。