ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

穏健なムスリム同胞団?

ムスリム同胞団についての話題です。
過去、言及したことのある「ユーリの部屋」は、次をご覧ください(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080421)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080512)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080913)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20081210)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20081218)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090105)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090219)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090308)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090421)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090620)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20101119)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20110113)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20110221)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111117)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120321)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120703)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120709)。

いつ頃からだったか、かなり前から気になっていた点は、ムスリム同胞団に関する朝日新聞の報道で、必ずといってよいほど「穏健な」という形容詞がついていることでした。サイード・クトゥブの英訳本をクアラルンプールで買ったのが2009年秋のこと(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111229)。読む物がなくて困って退屈していた1990年初期の頃とは比べようのないほど、巨大なショッピングモールに大きな紀伊國屋が入っていて、広々としたフロアに、目眩がしそうなほどイスラーム本が急増していたことを覚えています。そして、クトゥブなどのイスラーム思想家の本が非常に目に留まりました。
私が見たところでは、ムスリム同胞団が穏健だとはとても言えず、現に、さまざまな兆候が既に現れています。
それに関連して、去る8月31日、ダニエル・パイプス先生宛に(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120830)、最新の訳文の日本語グーグル検索結果をお送りした際、「このメールに付け加えたい一点があります」と書き添えた内容をここに再現します。

「日本で主流の新聞紙の一つである『朝日新聞』は、長い間、ムスリム同胞団について、最もよく組織化され、持たざる人々に対して同情的である、『穏健な』イスラーム集団として報道してきました。あたかも、エジプトの人々に善をもたらすに違いない、イスラーム諸原則に基づいた『社会改革』のために働いてきたかのようにです。


それに最近、一人のコメンテーターが、紙上で見解を提示しました。ムスリム同胞団は、エジプトの人々によって『民主的に』選ばれたのだから、西洋のある人々とは違って、この新たな傾向に我々の思考態度を適応させるために、イスラームムスリム全般に対する我々の姿勢を変えるべき時が来ている、と。


振り返れば、この新聞は、過去、読者層の中心が『知識人』だということで誇ってきましたが、1960年代には北朝鮮を『地上の楽園』だと賞賛していました。今では、このことが、多くの人々を破滅的、破壊的な人生へと導いたことは広く知られています。


この新聞の読者達が、この特定の問題について判断するのに、もっと注意深くあることを、心から私は希望しています。もし、先生の著述を邦訳するという私の小さな仕事が、日本の読者に代替的な見解を提供するために、ある一定の貢献ができるならば、と願っております」。

翌日いただいた、パイプス先生からのお返事。

ありがとう。前の分析と同様、すごくおもしろいよ(fascinating)。左翼新聞のこと、その過去の過ちや現在の間違いについて、あなたはとっても正しいね。僕達の唯一の慰めは、その影響の縮小だよ」。

何だか、ちょっとお疲れなのかしらね?昨年12月20日エスポジト教授の京都公演がきっかけで(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20111221)、年明け早々、驚くべき方法で知り合ったばかりの頃(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120114)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120115)から春にかけての、あの元気いっぱいの前向きな感じとは、最近ムードがやや違って、中東情勢についていかにも陰鬱そうな感じのパイピシュ先生...。
大統領選が心配だからでしょうか?(http://frontpagemag.com/2012/frontpagemag-com/2016-obamas-america/print/
そして、理論的に明快なパイピシュ先生お得意の、学生運動がきっかけで長年の天敵である、左翼攻撃。出ました、出ました。ただ、上記のお返事の「左翼新聞」について、共産党の機関紙『赤旗』ならともかく、朝日の場合は、左翼とまでは呼べないのではないか、と...。
そこで、どうお返事しようかと考えていたら、実にうまい具合に、9月1日付英語版の『毎日新聞』が、何とパイピシュ先生が1分30秒間、登場された上記映画の写真と共にAPニュースの短縮版を掲載しているのが見つかったのです!(http://mainichi.jp/english/english/features/news/20120901p2g00m0et041000c.html
何だか、怖い顔をされている瞬間が写真になってしまったのですねぇ(ユーリ後注:今クリックしてみたところ、毎日新聞の英文記事そのものは掲載されたままなのに、何とパイピシュ先生の怖い顔写真だけは削除されていました!(2012年9月22日記))。でも、事実は事実なので、このアドレスを添えて、『朝日新聞』についても次のように書き送りました。

たまたま、『ドキュメンタリー2016』映画の件で、先生のお写真がついた英文記事を見つけました。この『毎日新聞』も、日本の三大新聞の一つですが、その社会政治的立場は、おととい私が言及した『朝日新聞』とは異なります。私自身は、『朝日新聞』が100パーセント左翼だとは思いませんが、確かに、社会民主的自由主義を伴う中道左派です。そして、この映画についても、数日前の『朝日新聞夕刊』の小さなコラムで紹介されました。合衆国在の日本人記者が書いたもので、その映画そのものについては否定的でした。申し訳ありませんが、日本語のみであって、英語版のコラムはありません」。

もちろん、これに関するお返事はありません。中東情勢と米国問題に忙しくて、日本の思い出なんて、遙か彼方の1986年(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120122)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120505)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120507)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120528)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120804)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120822)。あれから日本も随分変化したでしょうし、せっかく自分が共和党の強力なアドヴァイザ−として尽力し、映画にまで出演したのに、日本の主流派新聞ではいずれも否定的だなんて、返事のしようがないでしょう。でも、これが私のやり方。最初の最初から、パイピシュ先生にはお世辞抜きで、公表された日本国内の事実をあるがまま、お伝えしてあります。それにも関わらず、(それでいい、陰謀論にも引っかかるタイプじゃないし)ということで、訳業を頼んで来られたのがパイピシュ先生の方なのですから。
さて、その『朝日新聞夕刊』コラム「窓―論説委員室から」ですが、鵜飼啓という記者が「アメリカ的なるもの」と題して書かれ、8月31日付夕刊に掲載されたものです。

評判の映画がある。そう聞いて、米共和党の全国党大会が開かれたフロリダ州タンパで、見に行った。
2016 オバマアメリ」。
オバマ大統領が再選されたら、2期目が終わる頃には米国はどうなるのか。反オバマの視点から描いたドキュメンタリーだ。
オバマ氏と同世代のインド移民の作家が書いた本が基になっている。オバマ氏の思想の源流をケニア人の父親に求め、反植民地主義であり、反米的である、と位置づける。
オバマの本当の狙いは、米国の力を弱め、金持ちから富を奪い取ることだ。核兵器をなくすのは、他国の脅威を丸裸にするためだ。再選されたら好き放題されてしまう。約1時間半を、そんなメッセージが貫く。
米紙によると、7月半ばに1館で上映が始まったのが、8月半ばに169館、その後1週間で1千館以上に広がった。先週末の興行成績は北米7位と、ドキュメンタリーにしては大健闘だ。
オバマ氏はアメリカ的ではない―。映画に共感する人たちに共通する思いだ。映画が終わると、「これを見るとだれもオバマに投票しないね」との声が漏れていた。
映画館には40〜50人ほどがいただろうか。みんな白人だ。首をかしげながら見ていたのは私一人だけだったようだ
。」

これを読んだ私の感想は、(この記者は、アメリカ内部のことを知っていたとしても、あえて読者に媚びるように知らないふりして書いているのだろうか?)というもの。それと、人種的観点から見ている面も大きいのではないか、ということ。
かくいう私だって、今年になってパイピシュ先生と突然、知り合うまでは、(もし自分がこのままの状態でアメリカ国籍を取得したとしたら、もちろん、アジア系米国人として、民主党だろうなぁ)と漠然と考えてはいました。ただ、その政策の内実までは、詳しく知らなかったし、知ろうともしていませんでした。
こうして、他事を放り投げてまで夢中になっただけのことはあります。パイピシュ先生がなぜ共和党なのか、ということについては、少し訳したのでわかりますが、子ども時代には、ご両親が民主党だったので自分も自然と民主党を支持し、ジョン・F・ケネディが勝った時には、自分もうれしかった、との由(http://www.danielpipes.org/10913/)。ただ、30代ぐらいの論考文にもありますが、イスラエル問題に関して、民主党よりも共和党の方がフレンドリーだという分析に落ち着き(http://www.danielpipes.org/11624/)、共和党支持者へと転向したようです。
ポーランドユダヤ人の出自で、ちょっと目には確かに「白人」なのですが、パイピシュ先生の場合、人種で人を見ているのではなく、政治的観点からのようです。特にイスラエルを中心とした見方が、判別式としては最低必要条件。ジョン・F・ケネディ氏も、案外に一般の日本向けには知られていない(らしい)こととして、当時、非常に強力なイスラエル支持者だったのです(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20120309)。

さて、冒頭の「穏健なムスリム同胞団」という表現についてですが、私なりに少しリサーチをしてみたところ、次のようなことが判明しました。

1.朝日新聞上で「ムスリム同胞団」やその系列のイスラーム主義政党に関して、比較的大きな署名記事を何度も掲載されている川上泰徳氏が、ムスリム同胞団を「イスラム原理主義」など「過激派集団」のように呼称する日本のメディアを「見識がない」と批判し、その後、朝日やNHKなどが、それに従うようになったとの説。
2.この川上泰徳氏は、1956年生まれで、大阪外国語大学アラビア語科で学ばれた日本人アラビストとの由。卒業後はカイロ大学に留学されたとのこと。
3.その他に考えられる影響としては、“Foreign Affairs”(March/April 2007)掲載論文“The Moderate Muslim Brotherhood”がある。著者は、ニクソン・センターの Robert S. Leiken & Steven Brookeの両氏。
4.『フォーリン・アフェアーズ』は世界的権威のある外交雑誌として有名だが、その昔、何本か書評や論文でお名前が掲載されたことのあるパイプス先生によれば(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120604)、今は傾向が変わってしまったようだ。

というのは、このムスリム同胞団、上記にも書いたように、何ら本筋は変わっていないからなのです。特に、世界宗教情報などのニュースを見ていれば、それはよくわかります。その一部は次をどうぞ(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20100718)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20111214)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20120509)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/20120802)。
そして、強力な助っ人論文まで見つけることができました。エルサレム公共事情センター(Jerusalem Center for Public Affairs)の2012年6月20日付の論考(http://jcpa.org/the-muslim-brotherhood-a-moderate-islamic-alternative-to-al-qaeda-or-a-partner-in-global-jihad/)です。これは、基本的に昔のパイプス論文と路線も主張もよく似ていて、私にはすんなり読めました。
要約として、次のようにまとめてみました。

〈1〉・西洋―ムスリム同胞団との新たな政治的対話を要求
   ・アラブ世界―多くの真面目な分析が、ムスリム同胞団の暴力的性格と世界的野心の継続を警告
〈2〉2007年1月に、エジプト議会の国防治安委員会で、ムスリム同胞団メンバーのMohammed Shaker Sanar氏が公に認めたこと
① ムスリム同胞団は西洋の民主的価値にコミットしない
② 1928年の同胞団結成以来、何も変わっていない
③ カリフ制の再興
④ アッラーの助けにより、ムスリム同胞団アッラーの法を施行するだろう
〈3〉テキサスにある聖地基金(Holy Land Foundation)の内部思考はムスリム同胞団のグローバル使命
16ページのアラビア語冊子“An Explanatory Memorandum on the General Strategic Goal of the Group"には、「アメリカでの仕事は、内部から西洋文明を除外し破壊することにおける、一種の大ジハードである」とある
〈4〉・ムスリム同胞団のジハードはテロを支持。イスラーム世界における外国存在に対するジハード。 
   ・アル・カーイダのジハードは西洋諸国の経済破壊
←手法は違うが共通の戦略を分かち合い、最終目的は同じ。
←西洋におけるムスリム基盤の構築で21世紀を目指す「全世界をカリフ支配の下に置くこと」
←「ジハードは我々の道。殉教は我々の熱望」
〈5〉2007年9月17日付 エジプト紙“Al-Karama”ムスリム同胞団シャリーアは解決だ」
アッラーによるイスラームのみが真の民主主義(西洋文化以前)
カリフの下のシューラ(合議制)
イスラームは他の諸宗教の平等を尊重するが、市民権は認めず
最終の絶対的なメッセージは天から来る
ムスリム同胞団の正義、平等、自由の意味は西洋由来のものとは異なる
アメリカの民主主義は歪曲され、イスラーム国や信仰や伝統を破壊する
←西洋の民主主義は非現実的で誤っている
〈6〉もしムスリム同胞団がなければ今の若者は暴力の道を選ぶ
・ジハード:不信仰者達に対する聖戦
ムスリム同胞団預言者ムハンマドを指導者かつ支配者と仰ぎ、ジハードはその道ととらえる
・不信仰者の支配に対する止まぬ攻撃
・すべての人間がイスラームの旗の下で生きるまでイスラーム国家の国境を広げる
・西洋の征服とグローバルなイスラーム国家設立
・ダアワ(アッラーへの呼びかけ)―世界は喜んでイスラームの見識を受容するだろう
〈7〉・合衆国、西洋、イスラエル、他の不信仰政権に対する闘争
   ・帝国主義アングロ・サクソン達 vs アラブ・ムスリム世界
   (例)民主主義の浸透・少数派権利の擁護・テロ反対
   ・ジハード=抵抗(知的・軍事的・経済的側面における侵入・占領)→自由
〈8〉ムスリム同胞団(世界に70ヶ国以上):パレスチナの土地は旧ムスリムの土地→今は不信仰者が占拠→抵抗
イスラエル国家を決して認知せず、存在権も認めない→シオニスト国家の拡大
ユダヤイスラエル:猿や豚・うなじの強い民族・暴君、汚職、犯罪・邪悪、騙す、合意の侵害→ユダヤ人に対するムスリムの全勝利
←世界中で同じ指導がなされる
ユスフ・カラダウィ:2003年4月ファトワ「どのようにイスラームが西洋を征服して、イスラームを広めることによってキリスト教を打ち負かすか」「アッラーの宗教は勝利的で、アッラーの恵みによって全宗教を征服するだろう」

ついでながら、パイプス先生のお仲間が数名関与されている、ムスリム同胞団についての啓蒙ビデオが一部ありますので、ここにご紹介します(http://www.centerforsecuritypolicy.org/the-muslim-brotherhood-in-america/)。アメリカに不信感を持つ人ならば、ハナからプロパガンダだと決めて却下してしまいたい衝動に駆られるかもしれませんが、22年以上、マレーシアを見てきた者として、「実はそうではないのですよ。私達も充分、警戒すべきメッセージを含んでいますよ」と、申し上げたく思います。