ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

エジプト大統領選の反応

「メムリ」(http://memri.jp

緊急報告シリーズ


Special Dispatch Series No 4809 Jul/1/2012


同胞団候補の大統領選出に相反する反応 ―ロンドン発行アラブ2紙編集長の批判と支持−


ムスリム同胞団のモルシ(Muhammad Mursi)がエジプトの大統領に選出された。アラブメディアの反応のなかで、特に二つの記事が注目される。いずれもロンドンを拠点とする大きいアラブ紙で、ひとつはサウジ系のAl-Sharq Al-Awsat紙編集長アルホマイエド(Tariq Alhomayed)の論説、あとひとつがAl-Quds Al-Arabi紙編集長アトワン('Abd Al-Bari 'Atwan)の記事である。アルホマイエドは、モルシの選出に失望感を隠さず、同胞団の権力掌握がこの地域を危機段階に引張っていく、と警告した。一方、抵抗枢軸の忠実な支持者にして先鋭的反サウジ派のアトワンは、モルシの勝利を讃え、「エジプト及びこの地域全体に新しい歴史の頁を開いた」とし、これが「革命のはずみをつける」と評価した。以下この2紙の記事内容である。


エジプトよ安全ベルトを締めよ―Al-Sharq Al-Awsat紙編集長


アルホマイエドは次のように主張した。


ムスリム同胞団候補モルシの勝利によって、エジプトと地域全体が新しい危機的段階に突入した。この先どうなるのか。アッラーのみぞ知るである、状況を楽観的に考え、あたかもハッピーエンドで終る映画を見ている気分にひたっているなら、その人は完全に間違っている。わきに立って状況を眺め、これは純粋にエジプトの問題と考える人も、間違っているし、怠慢でもある。


エジプトは本当に岐路に立っているのである。今後この国のみならずアラブ全体が強い影響をうける。エジプト国民にとって戦闘は既に始まっている。今後エジプトはトルコのようになるのであろうか。つまり同胞団と軍部の闘争に発展するのか。そうなれば、どうなるか。トルコのようになるとは期待できないのである。トルコ型は長い時間をかけて発展したものであり、更にトルコにおける同胞団の体験は(エジプトのそれとは)異なるからである。更に又エジプトでは(トルコの)エルドアン型の指導者が登場する徴候がない。実際問題、エジプトの同胞団は、世俗国家を建設する必要性を説くエルドアンのアドバイスを拒否したのである!


それともエジプトは、イスラミストと軍部と法が三つ巴の争いをしているパキスタンのようになるのだろうか。これは今までのところ悪いモデルであり、一筋の希望さえない。もっと悪いモデルが、イランのホメイニ革命型で、これはすべての政治勢力とそれを支える社会基盤を破壊してしまった。


なかには、強力な法の存在と共に軍部がエジプトの存続保障基盤である、と主張する者もいる。確かにそうだが、はっきり憶えておかなければならないのは、エジプトの新大統領が同胞団出身という事実である。換言すれば、この国を支配しているのは同胞団であり、これが現実ということである。それは、エジプトのみならずアラブ世界全体で、政治、経済、社会、宗教及び文化面に多大な影響を及ぼすであろう。同胞団は現実であり、折合いをつけるべきで批判してはならないと言う人は、間違っている。政治の場に入る者は批判が許されることを、知っておかなければならないのである…。


ホメイニ革命は、起きてからほぼ40年たった現在でも、その結果は今尚尾をひき、まだこの地域に影響を及ぼしている。それは、レバノンイラク、バーレンとイエメンに投影されている。アラブ湾岸一帯の安全保障コストが急上昇しつつあるのは、指摘するまでもない。同じように(エジプト革命の)ナセル主義者は、50年近くもエジプトだけでなくアラブ世界全体に影響を及ぼし続けた。彼等がもたらしたのは、度重なる苛烈な戦争、アラブ諸政権を打倒する軍事クーデタであった…。


私の言葉は単なる悲観主義ではない。それは、深い昏睡状態におちている人々に対する警告のメッセージである。用心せよ、安全ベルトを固く締めよ、と言っているのである、多くの者は、まさかそんなことにはならないとたかをくくっている。しかし、それは来る。そして間違いなく重大な結果をもたらす」※1。


祝賀に値する勝利―Al-Quds Al-Arabi紙編集長


一方アトワンは、「祝うにふさわしい勝利」と題して、次のように書いた。


「カイロ中心部のタフリル広場は、その空気が一瞬のうちに変った。怒りの抗議とデモが、歓喜のルツボと化したのである。革命のはずみと持久力を回復せしめ、エジプト全土の数百数千万の支持者に笑みをもたらしたのだ。


歴史をつくれる国は少ない。エジプトは、その数少ない国のひとつである。昨日起きたことは、まさに歴史的瞬間であった。エジプトとこの地域全体に新しい歴史の一頁を開いたのである。同胞団のムハンマド・モルシ博士は、透明性のある民主的選挙で選ばれた最初の大統領である…。


軍最高評議会(SCAF)による憲法宣言の改正と人民議会の解散は、新大統領の権限の大半を奪うものであり、新大統領は権限がなくなって、最高権力者としての決定ができなくなる。


モルシ大統領は、国民が分裂し国庫が破産状態で高い失業率(国家)の大統領になった。投票者の四分の一程の支持しかない※2。そして一番重大なことであるが、西側のあからさまな敵意に直面している。これは一種の地雷原であり、触れると強烈な爆発を起す。大統領は被害を局限しつつ行動しなければならない。どうみても難しい任務である。分裂している国民を同胞団指導者のまわりに集め結束させるのは容易なことではない。しかしながら不可能ではない。モルシ博士と同胞団がこれまで犯した過去の数々の過ちに学ぶならば、可能になってくる。過去の過ちとは、彼等が上級の職務をすべて奪いとり支配しようとしたことである。共和国大統領のみならず議会、シューラ評議会、憲法制定会議をすべて独占しようとしたことである…。


モルシの勝利は、アラブ世界全体の勝利であり、民主々義と人権獲得をめざし、失われたアラブの誇りを回復しようとするアラブ革命に、力を与える。そのためには、アラブ諸国特に富裕アラブ国家の支援、支持がなければならない。エジプトとその経済の活性化に必要である。(経済上の)失敗はエジプト自体に影響を及ぼす前に、これら諸国に悪影響を及ぼす。


イスラエル人達が、この勝利を目のあたりにして恐怖に打ちふるえているのは間違いない。これまでの(エジプトの)大統領は、跪まずいて足をなめ、ありとあらゆる要求に唯々諾々として従い、彼等の戦争を助けてきたが、そのようなおとなしい大統領はもう存在しない。エジプトは変化しつつあり、しかもその変化は加速状態にある。変化は(エジプトの)境界内にとどまらない。一切の例外なくどの境界にも浸透していくのであろう」※3。


※1 2012年6月25日付Al-Sharq Al-Awsat (ロンドン)
※2 “投票者”はエジプトの全有権者を意味する。
※3 2012年6月25日付Al-Quds Al-Arabi (ロンドン)
(引用終)