ポーランド出自から考える
『朝日新聞』が論壇風に「欧州も右翼化してきた」などと批判しています。自分達の置かれた状況に不満な層が、過去に郷愁を覚え、移民政策や経済の行き詰まりに鬱憤の捌け口を見出し、1割から2割程度の比率で「極右」に傾倒する人々が出現しているとか。
それだけを読めば、読者の中に(自分は極右になりたくはないし、右派ではなくリベラルで寛大な思想の持ち主だ)と言いたくなる人々も出てくることでしょう。簡単に言ってしまえば、この議論は世論操作なのです。
しかし、中道左派ないしは社会主義的な政策をとった結果、欧州の栄光が過去のものとなり、行き詰まりや各種問題を生み出していることが現実に明らかならば、その軌道修正を求める人々が現れるのも自然なことではないでしょうか。それを、単純に「右にぶれている」「どんどん右傾化している」などと煽り立てることさえ、危険な兆候だと思います。
昨日書いた、クリスチャン・ツィメルマン氏の続きです(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121125)。
自家製のピアノを持ち運んで世界中で演奏する氏が、9.11直後には、アメリカ入国の際、大切なピアノに何か粉のようなものが入っていたらしいということで、分解されてしまい、非常に立腹されました。その後、アメリカがイラク戦争に突入した際には断固反対の意思表示をして、「もうこの国では演奏会を開きません」と公言されたとか。同じ頃、日本でも演奏会の直前に、日本人の友人に訳してもらったらしいアルファベット表記の日本語文を、たどたどしく読み上げて、「この度、友人だと思っていた日本がイラク戦争に加担したことを残念に思います」と、強く反戦メッセージを意思表示されたそうです。(それに対して、聴衆の中から、「何だ、政治づいたピアニストか。暗いご時世の今こそ、音楽ぐらい、世間を忘れて美の世界に浸りたいのに」という批判の声が上がったとも読みました。)
さらに、昨日受け取ったパンフレットによれば、アメリカのご自宅が放火されたために、今は、拠点をスイスと日本(東京)などに移しているとの由。権力層とも反戦を巡る戦いを挑んだらしいです。
あの真っ白な髪の毛は、単に世界中を演奏旅行して回る暮らしの苦労からだけではなかったことがうかがわれます。
そうしてみると、ダニエル・パイプス氏との連関は、全く私の妄想に過ぎないのでしょうか。いえ、私自身はそう考えていません。
ツィメルマン氏は、もちろんユダヤ系ではなくドイツ系ポーランド人です。共産ポーランドで、環境の悪い地域に育ったために、お父様のお友達などが音楽に慰めを見出して、集まって自宅で毎晩のように演奏していたとか。もっとも、ポーランドに在住していたドイツ系ということは、社会政治的にそういう家系の方達なのでしょう(ということを知るならば、ツィメルマン氏の訴えも、単に「政治づいたピアニスト」呼ばわりに終始しなくはなるかもしれません)。
私が言いたいのは、だから戦争もやむを得ない、ということでは全くありません。もちろん、一市民としてツィメルマン側ですが、しかしながら、一民族や一国家を滅ぼそうと真剣に長期にわたって画策している相当数の人口が存し、対話がほとんど時間の浪費に過ぎないことが結果的に判明したならば、一方策として、自衛と牽制も無視はできないが故に、その論理性を理解することから始めようじゃないか、ということなのです。その意味で、表面的には、いわば対極にあるかのような政治的立場のお二人ですが、私にとっては、いずれも大切な声です。
どうやら今日も、約束違反で三つの演奏会の記録が掲載できそうにありませんが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121125)、どうぞ気長にお待ちください。
ここ数日の、ハマスとイスラエルの紛争に関する私の『朝日新聞』記事批判に関して、以下をお読みいただければ、ご理解いただけるかと思います。
「メムリ」(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP506112)
Special Dispatch Series No 5061 Nov/24/2012
「ガザからのロケット発射はイランを利す無謀な冒険―アラブコラムニストの批判―」
アラブ側では、イスラエルのガザ攻撃に対する政府の非難があり、いくつかのアラブ国では人民の抗議もあるが、ハマスに対する批判もある。この批判は、主としてアラブ穏健派陣営(湾岸諸国、パレスチナ自治政府、エジプトの諸派)でだされている。この陣営は、抵抗陣営(イランをはじめシリア及びヒズボラ)に反対している。
批評家達は、イスラエルに対するハマスのロケット攻撃が無謀かつ効果なし、と主張する。批評家の多くは、イランも批判している。パレスチナの大義を利用し、力を誇示し、核交渉で有利な立場に立ち、シリア危機から国際世論を引き離すべく、火をつけたと言うのである。次に紹介するのは、この一連の記事である。
クウェート日刊紙Al-Watanコラムニストのハドラク('Abdallah Al-Hadlaq)は、アラブメディアに見られる二重基準を批判した。アラブのメディアは、ハマスの行動を〝抵抗〟とか〝聖戦〟と呼び、イスラエルの対応は〝侵略行為〟と呼ぶとし、ハマスは無辜の市民を殺すテロ組織であると付記、次のように書いている。
「ハマスを含むテロ組織がガザ回廊からイスラエル南部の諸都市へロケットや迫撃砲を撃ちこみ、無辜の女子供を殺している時、ミスリードをもっぱらにするメディアは、それを〝抵抗〟とか〝拒否〟或いは〝聖戦作戦〟と呼ぶ。しかるに、イスラエルがこのテロ攻撃を止めるためガザ回廊の軍事、治安施設を攻撃すると、この種メディアはイスラエルの自衛行動を〝侵略〟と呼ぶ。この種メディアは、差別を続け、物事を偽りの名で呼ぶのである。例えば、イスラエルの犠牲者は〝損害〟と呼び、パレスチナ人の犠牲者は〝殉教者〟と呼ばれている。イスラエル南部諸都市の無辜の住民を攻撃すると、攻撃はパレスチナ抵抗と聖戦運動の権利と呼び、イスラエルが国民を守る行動をとると、〝ガザに対するイスラエル占領軍の侵略〟と呼ぶ。
テロ組織であるハマスは、自分で終らせることのできない対決を開始した。手ひどい反撃をくらうと、ペルシヤのテロリスト、ヒズボラの指導者ハサン・ナスララが言ったこと、即ち〝イスラエルの反撃がこれ程ひどいことが判っていたら、挑発しなかったのに〟と言うにきまっている」※1。
ハマスのロケットはイスラエルにガザ攻撃の口実を与える―サウジのコラムニスト
サウジのコラムニスト、ダキル(Turki Al-Dakhil)は、ハマス批判をおこなった最初のひとりであるが、パレスチナ人住民の生命を危険にさらし、イスラエルにガザ攻撃の口実を与えるとして、この組織の無謀行為を非難した。サウジ政府系新聞Al-Riyadhに次のように書いている。
「ハマスは無誤謬ではあり得ない。沢山の誤りを犯している。おかげでイスラエルはハマスやガザに対する攻撃の口実を得る。このようなことは過去に何度か起き、今又起きているのである。ハマスの脱線行為がパレスチナ人の生命を危険にさらしている。イスラエルが犯罪的暴君であることは判っている。しかし、報復の(国際的に認められた)口実を何故与えなければならないのか。世界の目からはイスラエルが迫害されているように見える。何故ハマスはこのようなことをするのか…。
国際(社会)の通念によれば、低品質で打撃力のないミサイルを撃ちこんで、ハマスはイスラエルに行動の正当化を与えている。我々(アラブ)はこのような口実を与える必要がない…ハマスが強力でヒズボラが更に強化であるならば、我々はとやかく言わない。それは(ひとり前の)意志、決心の問題であり、彼等の戦いであるからだ。しかし、レバノンやパレスチナの人民の生命を危険にさらす脱線行為は大いなる誤りといえる―我々が教訓を学ばず年に1〜2度は犯している誤りである…我々はパレスチナ人民を支持する。敵の悪の前に、自分のところの派閥指導者がもたらす悪がなくなるよう、アッラーに祈るのみである…」※2。
暴力は答えではない。イスラエルの力を考えよ
PA紙Al-Ayyamコラムニストのファラナ(Hamada Fara'na)は、次のように主張した。
「ハマスのロケットは、大した威力がないように思われているのだろうが、イスラエルの町に到達する事実が、我々を欺く。我々は傲慢になって、(我々に)敵を打撃する力があると考えてしまうのだ。ヒズボラもサッダム・フセインもそうであったが、ロケット攻撃が、手持ちの武器で敵と恐怖の均衡を構築できるという幻想をつくりだす」※3。
サウジの政府系紙Al-Jazirahでは、コラムニストのシェイク(Muhammad bin 'Abd Al-Latif Aal Al-Sheikh)は、自分のコラムで次のように書いた。
「解決は暴力ではなく〝平和の選択〟にある。ハマスがイスラエルに撃ちこんでいるロケットは、粗末で軍事的に効果がないのみならず、利害/得失の計算からするとイスラエルの利になっているだけである。効果のないロケットであっても、撃ちこまれるとそれに倍する暴力的対応の口実を与え、国際社会はイスラエルがガザを散々破壊する迄沈黙する。悪くすると、イスラエルの側に立つことすらある。諸作戦に関するホワイトハウスの声明にも、これが顕著である。イスラエルはこのような作戦を自分から進んでやることはない。まず、すべての選択肢をじっくり考えて、政治的に有効であることを確信して初めて、作戦を開始するのだ…」※4。
ハマスの行動は破滅的結果をもたらす―エジプトのコラムニスト
エジプトの政府系新聞Al-Akhbarで週刊文化版の編集長ギタニ(Gamal Al-Ghitani)は、ハマスの政策がパレスチナ人の利益を考慮していないと主張、イスラエルにシナイ占領の口実を与えるだけ、と次のように主張した。
「ハマスの誤ちとイスラエルの攻撃でガザに殉教者がでている。その写真を見ること位心が痛むものはない。そもそもハマスは(ガザ)回廊と住民を人質にとり、力づくで住民を従わせている。それも無残な結果しか生まない憂うべき政策を遂行するためである。最も無惨且つ危険な結果とは何か。それは、パレスチナの大義が土地と住民をベースとする民族の大義から宗教問題に変質してしまっている点である…。
ハマスの計画は…パレスチナとパレスチナの大義に利益になる内容ではない。全くその逆である。イスラエルの過激主義者達に、防衛力のないパレスチナ人を攻撃する絶好の機会を与えたのである…ハマスとその危険な政策が、郷土全体を脅威にさらした。アルカイダのような聖戦組織、ハマスと結びついた組織諸派によってシナイから攻撃が始まる。するとイスラエルはシナイ侵攻と再占領の口実を得るのだ…我々は賢明に行動し、民族と汎アラブの権益を調和させなければならない」※5。
エジプトの独立系新聞Al-Dustour Al-Asliの編集者イッサ(Ibrahim 'Issa)の主張は次の通りである。
「取引条件をつけることなくガザのパレスチナ人民を支援するのは、我々の人道、宗教及び民族的責務である。この(責務)回避は無気力、卑怯である。私はパレスチナ人民を支援せよと言った。ハマスと言ってない点に注目されたい。ハマスは時に有用であり、正しいことをする場合もあるが、人民に対し大災厄をもたらすこともあるからである…7年前の選挙で権力の座についたが、それ以来選挙をせず、政策について人民の信任を問うことをしない運動である…」※6。
ガザはイランの将棋の駒
PA日刊紙Al-Hayat Al-Jadidaコラムニストのラーマン('Adel 'Sbd Al-Rahman)は、次のように主張する。
「ハマスが殉教者の血を利用しているのは明らかである。テルアヴィヴ、ベエルシェバそしてエルサレムに着弾したミサイル、アラブ連帯代表団(エジプト首相とチュニジア外相を団長とする)とアラブの正式の代表団(アラブ連盟事務総長を団長とする)の到着。いずれも、ガザのパレスチナ人の命を危険にさらし、党派の狭小な目的のために、利用する。更にハマスのマシァル政治局長は、ハマス指導者のなかで最も現実的な人間であり、イスラム聖戦運動の指導者シャラフ(Ramadan Shalah)と共にエジプト指導部を仲介者としてイスラエルと交渉した。しかし考えてみれば、マシァルはガザのハマス指導部に影響力はなく、イスラム聖戦は外部のジハード組織そしてイランとつながっている。つまりは、イランの思惑により(イランに)コントロールされているのである。イランにとって、今回のガザ戦争は天与の贈物であった。イスラエルはガザに注目せざるを得なくなり、イランの核兵器開発問題は棚上げしなければならないからである。これに対し反論を加える人がいるかも知れない。つまり、イラン攻撃は少し遅れるだけであっても、オバマが、イラン攻撃をやめさせるため(ネタニヤフに)宥和し、ガザの抵抗勢力壊滅にゴーサインをだしたというのだ…」※7。
レバノンのジャナリストハイラルラハ(Khayrallah Khayrallah)は、リベラル派のウェブサイトelaph.comに、次のように書いた。
「イランはガザとムスリム同胞団を支配したいと願っている。ガザ戦争はその願望の結果である。イランにとってパレスチナ人とその大義は取引材料にすぎない。悲しいことにパレスチナ人のなかには、イランが自分達の側につき、エルサレム奪回に手を貸してくれる、と信じる者がいる。又、エジプトも開戦では味方になる、と考えた者もいる。しかしエジプトは…深い政治、経済及び社会危機にあり、自国の悩みで手一杯なのである…。
パレスチナ人達は、アラブとイランが救援にかけつける、とまだ夢見ている。彼等は、自分達の保有するイラン製ミサイルが単なる道具であることを、理解していない。イランは、この方法を以てガザに対する発言権を手に入れ、ハマス運動と(ガザの)小さい諸組織のカギを手にしているのである…。
アラブには理論的分析に欠陥がある。今回の戦争がイランに利用されているのを、理解できない。イランは、ムスリム同胞団を手玉に取れると、つまり自分の意向に従わせることができることを、アラブに見せつけたいのである…パレスチナ人達は、ガザからミサイルが発射されると喝采を送るが、シリアの政権が自国民を虐殺している犯罪から目をそらすための結果に終ることを、知らないのか。イランの思惑を知らないのだろうか。ガザをコントロールし、望む時にイスラエルにミサイルを発射させることが出来、ムスリム同胞団が自分のコントロール圏内にあり、エジプトその他の国がガザに影響力を有することに関わりなく、自分のしたいときに同胞団を利用できることを、知らないのだろうか…」※8。
ロンドン発行のサウジ系新聞(Al-Sharq Al-Awsat)にはアディブ('Imad Al-Din Adib、エジプトのジャーナリスト)が、「イランのかかわり」と題し、次のように書いた。
「イランは、アラブ域の問題で破壊的役割を演じ、その一方でアラブの春の革命時には地域の緊張を利用し、地域の緊張をたかめ、テルアヴィヴとワシントンを翻弄して困らせる。その魂胆は判っている。イランの要求をのませる交渉に引きずりこみたいのだ…イランは単純明快な哲学を追求している。〝この地域に火をつけよ。世界がこの地域に苦情を呈し、(世界の指導者達が)介入を求めて接近するまで煽れ。接近してきたら条件をだし取引できる。あとは望むものを手にする〟というわけである…。
イランは主として三つの問題で取引し、自国の要求をのませたいのである。第一は核兵器開発能力の獲得(核爆弾製造ではない)、第二は通商及び経済のボイコットの撤回、第三は(国際社会との関係)回復とすべてのレベルにおける国際社会への参入である…。
イランが火をつけた火災で火傷を負った諸国は、イランを〝大悪魔〟と見ている。地域に緊張をつくりだす。紛争の火つけ役である…我々は、将棋でいえばイランの持駒、それも歩としてしか使われない。イランは我々がどうなっても意に介しない。地域に火がつこうが、経済が破綻しようが、或いは恐るべき戦争の渕に立たされようが、冷然として構えているだけである…」※9。
※1 2012年11月17日付Al-watan(クウェート)
※2 2012年11月18日付Al-Riyadh(サウジアラビア)
※3 2012年11月18日付Al-Ayyam(PA)
※4 2012年11月18日付Al-Jazirah(サウジアラビア)
※5 2012年11月17日付Al-Akhbar(エジプト)
※6 2012年11月18日付Al-Dustour Al-Asli(同)
※7 2012年11月19日付Al-Hayat Al-Jadida(PA)
※8 2012年11月19日付Elaph.com
※9 2012年11月20日付Al-Sharq Al-Awsat(ロンドン)-
(引用終)