ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

前橋汀子さんのリサイタル(2)

昨日、シンフォニー・ホールで購入し、前橋汀子さんから几帳面な日付入りのサインをいただいたCDを、繰り返し聴いているところです。

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@ituna4011
『アンダルシアのロマンス』 前橋汀子http://www.amazon.co.jp/dp/B00005G882/ref=cm_sw_r_tw_dp_ive1pb0SD0BQ7) 昨日、大阪のシンフォニー・ホールで購入。リサイタル後に、前橋さんからサインを頂戴し、お写真も撮らせていただきました。

知っている曲ばかりの小品集であっても、落ち着いた華やかさの反面、上品でなめらかな抑制と気品に溢れた味わい深い音色で、つい引き込まれてしまう演奏。年齢を積み重ねて、あの世代だからこその懐かしい感慨、これぞヴァイオリン(と、あまり言葉でうまく表現できませんが)。いくら国際派と称されていても、若くて元気のいい演奏家には、このようにはできないだろうな、という....。それに、東誠三氏のピアノ伴奏。これまた引き立て術に優れた方で、いい組み合わせ。
このCDを選んだ理由は、5曲目にブロッホの「ニーグン〜バール・シェムより」が入っていたから。さすが、こういう選曲をされているんだな、と感激したところで、即座に決めました。
というのは、昨日も弱音器のところで書きましたが、随分前の音楽雑誌か何かで読んだミルシュタイン(または「ミルシテイン」「ミルスタイン」とも)との思い出深い交流の一コマを彷彿とさせるからです。「本当に紳士的な方だった」と、前橋さんが述懐されていたことを覚えています。以前、彼について読んだ本(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20071013)には、確か次のような逸話に触れられていたかと記憶しています。「大変にヴァイオリンに才能のある日本の少女がいたが、どうしても国際コンクールで上位入賞できない。それは、決して彼女のせいではなく、日本政府の後押しがないためでもある。このような国際コンクールは、政治的要因も大きく左右することがあり、純粋な実力だけではない。是非とも、彼女のような才能を生かすために、日本政府はこの方面にも理解と支援をしてほしいものだ」。
ユダヤ系として旧ソ連に生まれ、後に亡命したヴァイオリニストならではの、鋭くも温かい指針だと感銘を受けた次第です。
それが証拠に、現代では、例えば庄司紗矢香さんの場合、小泉元首相がファンだとか。彼女がパガニーニ国際コンクールで優勝した際には、日本公演の楽屋裏で、故小渕首相が紗矢香さんに言葉かけをしていた映像が残っています(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20100623)。もっとも、紗矢香さん自身は、そういうことを全く意識もせずにコンクールに挑み、すべては後で知ったことなのだそうです。時代のおかげもあるのでしょう。
このように、ユダヤ系の人々は、自分達が苦労しているだけに、他の人々を引き立てて助けようとするところがあり、それは、これまでの私の限られたクラシック演奏家にまつわるエピソードを見聞した範囲でも、充分うかがえるところです。バーンスタインアイザック・スターン氏が、まだ幼かった五嶋みどりさんをサプライズのように引き立てて支援したように、です。
クラシック音楽の魅力はいろいろとありますが、何より曲が素晴らしいということ以外に、民族や国籍や世代を超えた次元で、さまざまな出来事から多くを学べる点が最も重要ではないかと思われます。

昨日書いた「芸人」という語法について(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120609)、主人から訂正がありました。
1.特定の演奏者、あるいはクラシックの演奏家全体を「芸人」と呼称しているのではない。あの世代ならば、なかなか理解されなくて、「芸人」と見なされることも多かったのではないか、という意味で持ち出した用語。
2.田舎でも、学校の校長だったおじいちゃんがバイオリンを持っていたから、音楽の意味はわかっているつもり。クラシックを聴き始めたのは、明治生まれのおじいちゃんの世代ではなく、その息子のおじちゃんの世代から。その点で、「都会」とは時差がある。
3.音楽のすばらしさを知っていても、都会でさえ、本当の意味でのいい先生は、なかなか見つからなかった時代を僕は知っているつもりだよ。僕は、末っ子として年寄りに囲まれて育ったから、それはわかる。

確かに、ボストン時代の主人は、世界一流の上質の音楽を、わけもわからず聴いていたようです。クラシック好きの同僚の方が誘ってくださったからだそうですが、おとなしくついて行った主人も主人。それに、今でも、早朝にラジオで聴いているのは、バロックなどのクラシック。私は、いろいろと考えながら頭で聴く癖がついているのかもしれませんが、主人の方が、確かにアメリカ東部で、恵まれた音楽環境に触れた経験を持っています。
それと、たまたまクラシックの方が頻繁に聴きに行っているだけで、私自身、日本の伝統音楽、特に雅楽や仏教音楽なども好きです(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080524)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090329)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20091107)。
ですから、前橋汀子さんがずっと人気を保っていらっしゃる理由の一つに、お父様の影響で、日本の伝統文化に対する敬意が滲み出ているところもあるのではないか、と思いました。

ところで、昨日の伴奏ピアニストですが、私と同い年とは思えないほど、(前橋さんと同世代のようにも見えてしまった)苦労人という風情のイーゴリ・ウリヤシュ氏。最後には、膝をついて前橋さんを女王様のようにあがめて握手およびお辞儀をされていました。なかなか愛嬌のある方のようです。
忘れないうちに、プログラムを。私達の座った位置は、なんと1階A席で、右側の最前列。開演は2時で、サインをいただいて帰途についたのが5時でした。

エルガー「愛の挨拶」
ヴィターリ「シャコンヌト短調
ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第9番」イ長調 op.47「クロイツェル」
(休憩)
クライスラー「プニャー二のスタイルによる前奏曲アレグロ」「ウィーン奇想曲」op.2「中国の太鼓」「ジプシーの女」
ドビュッシー亜麻色の髪の乙女」(ハルトマン編)「美しき夕暮れ」(ハイフェッツ編)
ショパンノクターン嬰ハ短調」(サラサーテ編)
ファリャ「スペイン舞曲」第1番(クライスラー編)
サラサーテツィゴイネルワイゼン」op.20

[アンコール]
クライスラー「愛の悲しみ」
マスネ「タイスの瞑想曲」
ブラームスハンガリー舞曲」No.1, No.5