ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

子供を武力闘争に使うこと

メムリ」(http://memri.jp

Special Dispatch Series No 2455 Jul/25/2009

テロ作戦に使われる子供達

「さまざまな(テロ)組織が、アフガニスタンからパキスタン、そしてイラクからパレスチナに至る地域で、少年達(15歳未満の子供もいる)をリクルートし、自爆隊員として訓練している。実行犯として自爆したケースも勿論ある。子供達は、さまざまな理由から、或いはさまざまな環境の中で目をつけられ、純朴な心につけこまれ、恐るべき自爆装置に仕立てられる。動機は何であれ、結果は同じである。子供達は少年期を奪われる。そこには暗澹たる未来しかない。そして各地でテロが起きる…。
子供達のリクルートは今や拡散現象となりつつある。ユネスコの推定によると、25万の子供達がリクルートされ、武装組織に組みこまれている。各組織は宗教の旗じるしをかかげているが、その背後には政治的動機がみえかくれする」。
リベラル派ウェブサイトElaph(2009年5月26-27日付www.elaph.com)は、2009年5月26日と27日の両日特集を組み、自爆要員としてテロ組織が子供達をリクルートしている状況について、解説した。冒頭の文は、そのまえがきである。この掲載記事には、テロ組織にリクルートされた子供達の事例(自爆作戦に投入された子供達を含む)と、この現象に関する聖職者と社会問題専門家のインタビューが、紹介されている。
武力闘争用に子供をリクルートする問題について、インタビューをうけた聖職者の多くは、その行為の正当性を否定した。もっとも、聖職者のなかには、極めて特別な状況下では許されると主張する者もいる。Elaphの連載したパレスチナ諸組織の記事には、子供達の投入に関する統計が公表されているのであるが、それでもパレスチナ諸組織の代表者達は、子供を使用している事実を否定する。ちなみにこの連載記事は、事実関係を述べているだけで、この問題を解決するための提言はしていない。
次に紹介するのは、この連載記事の要約である。


・テロ組織にリクルートされる子供達

Elaphのサウジアラビア通信員は、シリーズの一部として、テロ組織にリクルートされたひとりのサウジ少年の事例を紹介している。イラクでの自爆テロに使われたのであるが、以下その話である。
「両親は、息子のアブダル・ラーマンが10歳になった時、宗教々育をうけさせようと決めた。コーランの学習教室にいれ、原理主義者の長老達が運営するサマーキャンプのひとつに行かせた…このサマーキャンプは、サウジアラビアにおける過激主義の培養機関のひとつである。1年10ヶ月後アブダル・ラーマンは姿を消した…両親は当局に捜査願いをだしたが、無駄であった。
1ヶ月後息子から電話があった。イラクにいるという。自爆作戦の決行に先立って電話したもので、(訓練者に)説明をうけたと言いながら、天国に行くための殉教だよと告げた。両親は息子がこのような状態なったので、嘆き悲しんだ。1ヶ月が過ぎ、息子の誕生日が来た。その日、(イスラミストの)ウェブサイトに、アブダル・ラーマンの録画、ビデオが掲載された。そのなかで少年は、支離滅裂なスピーチをやり、あいまいながら威嚇するようなことを言った。それから数秒後、爆発がおきた。少年は、米軍輸送隊の近くで自爆したのである」。
このElaph記事は、イラクで行動する一テロ組織のテロを紹介している。自爆作戦に精神障害の女性を使う方法である。
「数年前、バグダッドのアル・メスバー通りとアル・カラダ通りの交差点近くで、ひとりの女性がレンタカーから降りて、角にあるイラク警察のチェックポイントへ向かって歩いて行った。チェックポイントを通りながら、どこかうろたえた表情をした。バリケードの傍らに立っていたひとりの警官が、素振りがおかしいのに気付き、とまれ、手をあげろと叫んだ。まわりは通行人と車で混雑していたが、その女性は走りだし人ゴミをかきわけながら、或る店にかけ込んだ。そして爆発がおきた。その女性は頭の天辺からつま先まで黒ずくめの服装で、年齢20歳。警官のひとりは、彼女がダウン症であったことを認めている」。
パレスチナ人テロ組織の児童リクルート法を物語るのが、ムハンマドのケースである。本人は11学年、ガザの少年である。
「Elaphとのインタビューで、パレスチナの軍事キャンプで訓練をうけている少年数名が、自分の自由意志で参加していることを認めた。更に彼等は抵抗を愛すると言った。この地を占領から解放する唯一の道とみており、これがしっかりと頭にたたきこまれている。
ムハンマドは同年代の子供数名と一緒に、射撃や火器の操作訓練をうけている。場所はガザ回廊南部のフトゥー地区。或る組織が少年達をリクルートし訓練しているのであるが、組織名の公表を拒否した。
ムハンマドは小柄な少年だが、モスクのひとつで開かれているコーラン朗誦教室と聖戦賛仰教室に出席。学校では組織支部に参加し活動家となったが、その後モスクで助言者の勧めにより、組織の訓練所巡りに参加した。1年前火器類の操作法を学び、戦闘員支援の役割を与えられた。夜間の見張り役で、イスラエル軍用車両の動きを監視するのである。ムハンマドは、実戦における戦闘支援の訓練もうけた。アッラーに身を捧げ、郷土防衛のため死ぬことを望み、既に天国へ行った戦友の後を追いたい、と考えている」。

・聖職者の見解

Elaphの通信員達は、複数の聖職者に意見をきいている。軍事作戦特に自爆作戦用に子供をリクルートするのは、イスラム法上どうなるのかとたずねたのであるが、回答者は全員がそのような概念を否定し、子供を自殺に追いやる者は、殺人者と定義した。しかしながら、その内数名は、?外国勢力?に対する自爆を是認し、残りの聖職者は、極めて異常な状況下でなら子供のリクルートが許されるとした。
ロッコの国会議員で、モロッコイスラム法研究所々長ザムザミ('Abd Al-Bari Al-Zamzami)は外国勢力に対する自爆を殉教作戦と呼び、許されるとした。しかし、このような作戦に子供をリクルートするのは別問題で、これは認められないとし、子供達を使うのは、その死に責任を有すると述べた。
パレスチナイラク或いはアフガニスタンにおける外国勢力ないしはアメリカ軍或いはその同類に対する挺身攻撃を目的として、心正しき若者を訓練するのであれば、それは殉教と呼ばれる。但し、それには(若者の)自由意志という条件がつく。強制であれば、自殺と呼ばれる」とザムザミは論評した。
未成年の児童の使用に関して、ザムザミは、子供に自爆攻撃を強要することは殺人行為であり、「殉教作戦か自殺かに関わりなく、禁じられている」とし、次のように主張した。
「子供達が強制的にこの作戦に投入されているが、これは事実上殺人である。リクルートした者は、信仰の名で彼等を殺しているのである…このような作戦に子供達を指名する者は、人殺しを犯している。子供達を押しやりこの種作戦に投入する者は、自分の息子を殺す者と同じである。
この作戦を遂行する者が、己れを宗教法その他の考慮に超越すると考えているのは、じつに残念である。子供達を訓練しそこへ導く権限を誰も認めていない」。
エジプトのアズハル総長で諸宗教対話会議々長アルディブ(Sheikh Omar Al-Dib)は、「イスラムは子供や心身障害者による殉教作戦を認めていない。このような人は、ジハードを敢行する義務がない。これは不当にも本人に死刑判決を言い渡すのと同じである。ジハードの宣言権限を有するのは統治者だけであり、このような宣言がない限り、子供をリクルートする宗教上の許可はない」。
エジプトの説教師ヒガジ(Dr.Safwat Higazi)は、子供のリクルート問題を訓練と作戦の二つに大別する。そして小さい頃から実戦の基本訓練を施し郷土防衛の手段を教えるのは、「宗教上なんら問題ではない」と述べ、「しかしながら、作戦実施は、組織が決めてはならない。統治者によって任命された正式の戦闘指揮官の権限である」と言っている。更にヒガジは、「子供に戦闘参加を命じる権限は戦闘指揮官のみしか有しない。それも、次の条件下だけである。第1 遂行できる成人がいない場合、第2、子供か女性しか遂行できないような作戦の場合、第3両親が同意する場合」。
ガザ・イスラム大学の宗教法・宗教根本学部の副部長ソウシ(Dr. Maher Al-Soussi)
は、「宗教法上子供が抵抗闘争に参加するのは認められない。命に危険を及ぼすので、子供を戦闘地帯に連れていってはならない」と言っている。預言者ムハンマドが、年少者であるので、13歳から14歳の子供を自軍に入れなかったことを、その根拠にしている。

パレスチナ諸組織は児童のテロ投入を否定

複数のパレスチナテロ組織代表は、Elaphのガザ通信員のインタビューで、テロ作戦のため子供をリクルートしたことはないとし、そのようなことは公式に反対している、と述べた。しかし、それは正しくない。
ファタハのアルアクサ殉教旅団幹部アブサイル(Abu Thair)は、自分の組織に加入するための最低年令は18歳と述べたが、旅団の実行したもので、子供が関与した作戦のあることを認めた。彼はこの一連の攻撃を復讐作戦と呼び、イスラエル軍に侮辱された子供達が実行した、と言った。
イスラム聖戦アルクッズ旅団の幹部アブムハマッドは、旅団の戦列に子供達が積極的に参加しているとする新聞報道は、抵抗組織を中傷だけのもの、と言った。しかしながら、彼は「組織には、サマーキャンプ方式で子供達を教育し意識を高める機関がある」とつけ加えている。

・22名の子供が対イ自爆テロで爆死―子供を守る国際会議の調べ

Elaph通信員は、子供を守る国際会議(Defense for Children International)の報告を引用して、反論する。この国際組織はラマッラに支部をもつが、報告によると、パレスチナ諸組織は組織の戦列に子供達を加えており、イスラエルをターゲットにする武闘作戦に参加し、22名の子供が死んでいる。内2名は女児である。
この報告をまとめたシュマリ(Jihad Shumali)によると、2004年制定のパレスチナ児童法は、国際憲章や国際諸法と同じように、子供のリクルートを禁じ、子供を武力闘争に使う者を処罰するとしている。シュマリは本件に関して、紛争の主たる当事者という意味で、イスラエルパレスチナ諸組織の双方を非難している。そして、「この諸組織の動きはモニターされていない。我々は、武力闘争における児童の投入禁止を尊重するよう、とり決めをまとめようとしてきた。しかし我々は、本件についてフォローアップをしていない。単一の組織の能力では手に負えないのである」と述べている。

・解決のための提言

前述のように、このElaphシリーズは問題に触れているが、解決法を提言しているわけではない。しかしながら、Elaphのサウジアラビア通信員は、サウジの社会問題・教育問題の専門家ズーマン(Elham Al-Zuman)に意見を求めている。ズーマン女史は、テロ作戦に子供を投入する思考と戦い、この現象をなくすうえで、教育とメディィアが重要である、と強調している。
ズーマン女史は、テロ組織によるサウジ児童のリクルートを防止するには、教育システムを構築し、それにもとづいて子供達を教育する必要がある、と言った。批判精神を養い、他者をうけ入れ対話の文化を強めると共に、メディアを使った啓蒙の発信がなければならない。更に女史は、サウジ社会の改善の必要性を指摘する。統合社会の思想を強め、未来指向の展望をひろげ、郷土に対する忠誠心を培わなければならない。大義の名を借りた大人が子供につけこむのを防止するには、これしかないと女史は主張する。
パレスチナ人民党の政治局長アワデー(Walid Al-Awadh)は、パレスチナ諸組織が武闘作戦用に子供をリクルートしないよう、全組織に禁止令にサインさせる方法を提案している。

(引用終)