ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

罠に陥るな!

『メムリ』(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP688017


緊急報告シリーズ  Special Dispatch Series No 6880
Apr/24/2017

「シリアの罠に落ちたロシア―痛みのみで得るところなし―」



ロシアのリベラル派政党Yablokoの指導者ヤブリンスキ(Grigory Yavlinsky)が、「シリアで行き詰まったロシア」と題する記事を、2017年4月13日付で党のウェブサイトに掲載した※1。この記事は、化学兵器による攻撃(ハーンシェイフンKhan Sheikhun)とそれに伴うアメリカの懲罰攻撃(シャイラト航空基地Shayrat)後に書かれたもので、プーチンのシリア政策を酷評した内容である。ロシアは、シリア政権に金のかかる支援をしているにも拘わらず、アサドをコントロールできず、逆にアサドがロシアをコントロールする手に負えない存在になっていると指摘。更にロシアは、信頼すべき同盟者をこの地域に持たず、多大なる期待をかけた筈のトランプ政権と疎遠になってしまったと主張した。

ヤブリンスキによれば、ロシアは国内に差しせまったニーズをかかえ、シリアのどろ沼に足を取られ財政的に耐えられる状況になっているのに、ウクライナリビアにまで手を伸ばし、同時にアメリカと軍備競走をやっている。要するに、シリアに対する軍事介入は、ソ連アフガニスタン介入の悲劇の二の舞になる恐れがでている。ロシアは、あの悪夢の再発を避けたいのであれば、直ちにシリアから撤退すべきである、と主張する。以下ヤブリンスキの記事である。



グリゴリー・ヤブリンスキ(Source:Moscowtimes.com)
「アサドが采配、ロシアは振り回されるだけ」


シリアはロシアにとって落し穴である。これがまだ判らない人がいるのは、一体どうしてであろう。ロシアは、ロシアの愚かな近視眼的外交政策、冒険主義によって落し穴に足を突っ込んでしまったのである。ロシアが軍事介入のエスカレーションを意図した行動をとれば、我々にとって状況は一層悪くなるばかりである。シリアにおける米露の偶発的軍事衝突を回避するメカニズム問題をそのままにしておけば、愚かな行為や偶発事件で、直接的な軍事衝突になる恐れがある



ロシアは、常識に反してアサドを守るため躍起になっているプーチンはアサド政権に同情している。そして我国は政権側に立って戦争を始め、部隊をシリアへ送りこみ、この政権の人質になってしまった。シリアの大統領とその権力の維持に大きい政治的賭けをやったのであるが、現実には、ロシアはアサドを政治、軍事上いずれもコントロールできていない。シリアにおける行動は、戦略的、戦術的作戦や政治的な動きのいずれでも、決めているのはロシアではない。



更に、アサドを柱にすえること自体が駄目なのである。シリアの大統領は、自分の支配下にある地域ですら、完全に統制しているわけではない。軍事作戦を展開中の地域では尚更である。それでもロシアの指導部はアサドを外交政策のシンボルにしてしまい、アサドの犯罪がロシアを恥ずべき穴倉へ引きずりこんでしまっても、アサド支持から手を引けない。かといってアメリカの手からアサドを守りきれているわけでもない。アメリカがシリアの空軍基地を破壊した後、これが一段と明らかになった。アメリカの攻撃は、必要とあればやることはやる(アメリカの)意志と力を示した


トルコとのパートナーシップは、単に脆いだけではなく、落し穴のひとつである



ロシアには地域に真の味方がいない。


更に、ロシアの政策は、極めて首尾一貫しない不安定なトルコ政府の意志決定に、依存するようになった。エルドアン政権との共同行動計画や政権との“結びつき”は、一方的にたちまち崩れた。このシリア危機で、トルコは目下アメリカを積極的に支持し、アサドとロシアに反対している。

イランは当然その願望を追求し、それを手にした。ロシアをほかの関係諸国と衝突させ、ロシアを自己の道具にしてしまった。イランが化学兵器を使わせた可能性も否定しきれない。



イスラエルは、伝統的にロシアと良い関係を維持しようと努めているが、今回の化学兵器使用について厳しく非難した。誰が使ったのか判っているとして、アメリカの対シリア攻撃を支持した。予期されたことであった。イスラエルは、新型兵器がヒズボラの手に渡ることを心配している。更に、シーア派民兵がロシアの教官によって軍事訓練をうけていることも、イスラエルの懸念材料である。加うるに、イスラエルがシリア領内を空爆した後、イスラエル大使をロシアの外務省に呼びつけ、以後両国の関係は悪化した。しかし、イスラエルの中立がなければロシア空軍機の作戦行動はずっと難しくなる。


ヨルダンとサウジアラビアアメリカの行動を支持している。
つまり、ロシアにはこの地域に味方がいないのである

“化学”危機下でこのような状況にあるなかで、ロシアの政治家と外交官は、シリアの軍事独裁政権を頑として守り、いつものように世界全体を相手にする破目に陥っている。化学兵器使用に関する国連の調査を遅らせ、「何かが起きた。何が起きたのかまず調べよう」と、すべては未知という前提に立つような愚かなことを主張しているのである。



ついでアメリカのミサイル攻撃があった。トランプは、化学兵器による攻撃に対応し、深く考えず、アサドの基地を叩いた。勿論、(前日に)中国、イスラエル、トルコそしてロシアに知らせることはした。アメリカは、ロシアが国連でとっている態度から、ほかに選択肢はないという事実をつきつけられて、攻撃を正当化している。



ロシアの政治評論家達が待ち望んだトランプは、熟考するタイプではなくオバマの“不決断”の結果を正し、以前の政策を回転させたのである。(政策の)決定的転換が言葉ではなく行動で示されたのは、今のところひとつだけであるが、どうやら待望していたと思われる者の願望を傷つけた。



更に、アメリカにとってシリアは中東政策の一要素にすぎない。グローバルな政策のなかでカギ的存在ではない。トマホークでシリア軍の航空基地を攻撃する決定は―おかげで世界の諸問題は影が薄くなったが―習近平の訪問のサイドラインとしてとられたもので、中国の指導者に自分が“タフ”であることを誇示するのが、狙いだったと考えられる。



トランプがロシアを国際孤立から引上げてくれるという考えは、空しい期待にすぎなかった。初めから判っていたことである。アメリカがシリアの政府軍基地を叩いてやっと目覚め、“トランプは我々の味方”のゲームは終りを告げた。同時に、アメリカとの“熱い”戦争になるような紛争のヒートアップは、我国には受入れ難いのは明らかである。



アサド政権護持はロシアに外交上の得点をひとつももたらさなかった。逆に、彼と彼の犯罪で、ロシアの面目は丸潰れになった。国連によると、30万の国民が殺され(観測者達によると、46万5,000人)、200万が負傷し、数百万が国外に流出した。国内には450万を越える国民が、不断に危機的状況下にある。



ロシアはIS(イスラム国)を打倒したのか。専門家達は、ロシアのタカ派ですら、ロシアが真面目に対処しておらず、アメリカがテロリストとの戦いに決定的役割を果していると認識している。ところがロシアのメディアは、IS非難より反IS有志連合の行動非難に精をだす始末である。外務省はISとの戦いについて所謂戦果報告をだしたが(幹部204名殺害、民兵35,000名抹殺)、成果を示唆するより、疑問と当惑を呼んだだけである。



イスラム世界ではシーア派よりスンニ派が圧倒的に多い(スンニの人口は15億を越える。ムスリムの約90%である)。ロシアはスンニと戦うアサドを支援し、スンニ派から恨まれている。最近の化学兵器による攻撃をロシアがごまかしているので、恨みは強まる。2013年以来シリアにおける化学兵器の不使用、廃棄を保証していたのに、アサドに使われた責任を問われているので、尚更である。プーチンサンクトペテルブルクに滞在中同市でテロ攻撃があったのは、メッセージと考えられる



アサド護持かロシアのがん患者治療か―多大な財政負担



ロシアのシリア介入は、金の問題でもある。一番控え目な計算でも、ロシアは過去18ヶ月間のアサド護持のため、少なくとも870億ルーブルを支出した。ロシア連邦の2016年予算(住宅及び公共施設分)に相当する。別の表現をすれば、200人収容規模の幼稚園を200つくれる。或いは、32万のガン患者の治療コースを賄える。或いは又、60,400人の学生をモスクワの諸大学で5年間勉強させることができる



更に、シリアに対する(ロシアの)軍事介入と(ロシア)国内の支出増大が我方の国力を弱めている。ロシアは一体あそこで何をしているのだろう。我々はあそこに何が必要なのか。一体どんな貢献ができるというのだろう。全くゼロである。これまでの経緯が示しているように、何もない。



ロシアは際限もない中東の宗教戦争に介入し、その沼地に足をとられてしまったのである。我々の敵が望むのは只ひとつ。そこに力とエネルギーを注入させ、抜け出せないまま国力を消耗させることである。ロシアは落し穴に落ちてしまったのである。



今すぐに撤退せよ―方々に介入し八方ふさがり



解決の道はひとつしかない。シリアの内戦から手を引き軍事介入を中止し、直ちに撤収することである。しかしながら、現在のクレムリン当局の心理状態とこれまでのロシアのシリア介入史から考えると、今は特に難しいだろう。アサドに対するアメリカの攻撃は挑戦と受けとめられているからである。それでも、ロシアの国益の方がずっと重要である筈である。ロシアは今すぐ行動しなければならない。シリアという落し穴から抜けるには、明日はもっと難しくなっているかも知れない。撤退で失うのは野望だけである。恐らくアサドは、化学兵器は無用とは考えていない。残忍な独裁者アサドの側についてシリアの戦争に介入を続け、ウクライナでは血みどろの冒険主義と道義的に受入れられないことをやるばかり、政治的に完全に行き詰まっているのである。



ロシアには、次の行動を含む政策の遂行は、経済的にも軍事的にも耐えられない。ここに再度指摘しておきたい。


・シリアでの戦争
ウクライナでの戦争
リビアにおける軍事プレゼンス
・軍備競争の加速化(それと同時 いつアメリカと軍事衝突が起きてもおかしくない状況がある)。


まるで鉄環をまかれたような状態である。国家は、中期的でもこれには耐えられない。ロシアはこの一連の軍事的冒険主義をすべて中止しなければならない。このような対外政策とクレムリンの個人的野心に見合うような国力はない



そうしなければ、我々は落し穴にはまったままで、時間がたてばたつ程抜け出すのが難しくなる。本当に力がある者は、ロシアがこの紛争にはまり込んで身動きがとれぬまま沈んでいくことを願っている。身動きが取れなくなったところで、フタが閉められる。ソ連アフガニスタンに引きずりこまれた時と同じようなものである。あの時アメリカは、ベトナムでの敗北に復讐したのであるアフガニスタンの後、連邦は崩壊した。歴史は無情である。敗者に容赦することはない



我々には、強い政治意志が必要である。そして、英知とは言わぬまでも、少なくとも単純明快な常識がなければならない。誤ちを認め、力に見合わず益にもならぬ複数の戦争と投機的事業をやめる常識である。これに代るものはない。


※1 Yabloko.ru,April 13,2017

(転載終)

http://ironna.jp/article/6419


Voice』 2017年4月号
「まだいうか、安倍ファシズム! 偏向に満ちた欧米メディアの対日報道」
古森義久産経新聞ワシントン駐在客員特派員)×アール・キンモンス(大正大学特任教授)


古森:アール・キンモンスさんは日本史研究(社会史・思想史)が専門の学者です。アメリカの名門ウィスコンシン州立大学で博士課程を修め、同博士号の論文を基に『立身出世の社会史』(The Self-Made Man in Meiji Japanese Thought玉川大学出版部)という本を書きました。さらにイギリスのシェフィールド大学で研究を重ね、1999年からは、日本の大正大学で特任教授を務めています。


・私が長年、ワシントンでアメリカの政治や外交を取材して感じるのも、まさに対日報道の在り方に問題がある、という点です。とくに『ニューヨーク・タイムズ』などリベラル系のメディアでは、日本に関する偏見に近いイメージから報道が行なわれておりアカデミズムの領域でも、なぜか日本研究に携わるアメリカ人学者のなかに誤った対日イメージをもつ人が多い


アメリカのメディアは、安倍晋三首相に対して「右翼」や「軍国主義者」「歴史修正主義者」など侮蔑的なレッテル表現で再三、批判をぶつけてきました。しかも根拠が不明のままに、です。これは安倍氏個人のみならず、日本の国際的なイメージを貶めており、とうてい看過できません。キンモンスさんはどのように感じていますか。


キンモンス政府のリーダーがナショナリストではない国が世界に存在するでしょうか。あったとしたら、そのほうが問題です。また、アメリカのアカデミズムでいわれる歴史修正主義者(revisionist)とは、むしろ伝統的な歴史観に異を唱えるリベラルな学者を指すことが多い。日本では右翼に対して「おまえは歴史修正主義だ」と批判することが多いですが、アメリカとは言葉の使い方が逆です(笑)。


古森:ちなみに、日本の左翼とアメリカのリベラルも少し意味合いが異なりますね。アメリカでは、日本の左翼のように共産主義者社会主義者のことではなく、自由でオープンだけれども政府が大きな役割を果たす社会とか、伝統的な価値観や歴史に批判的な人びとをリベラルと呼んでいる。その意味で、キンモンスさんも決して右翼でも左翼でもないということになりますかね(笑)。


キンモンス:私は長くイギリスに住んでいた経験から、ヨーロッパの常識的な見方からして、安倍氏中道右派(centerright)である、と思っています。彼のことを右翼(rightwing)と呼ぶのは、日本の街中で軍服を着て大音量で軍歌を流す車に乗っている人、というイメージ。イギリスやアメリカでrightwingというのは「最小の政府こそ最善である」と考え、「小さな政府」を推進する人たちのことです(たとえばイギリスのサッチャー元首相など)。具体的には、民営化や規制緩和による財政削減をモットーとする政治家などを指します。


古森憲法改正を掲げ、安倍政権を支援する日本会議という民間団体がありますアメリカのメディアは、あたかもこの団体が安倍政権を裏で動かしているかのように「日本会議が日本の政治を支配している」と書いています。また同じ歪みの傾向として「日本政府は言論を弾圧している」「日本の改憲の動きは軍国主義の復活だ」などと報じています。


キンモンス:まったくナンセンスですね。その種の外国メディアは「日本会議は政権を動かす圧力団体」と報じていますが、日本会議の会員数は約3万8000人だそうです。


キンモンス安倍首相や日本という国がいくら批判しても反撃してこない、都合のよい対象だからではないかと思います。日本は安全です。それでおとなしい日本を批判し、自分たちが進歩的な言論を行なっているという自己満足に浸っている。そうした歪んだ心理構造があるのではないか、と私は考えています。


古森:それは納得のいく説明ですね。その一方で、日本のメディアは現地で取材もせず、ひたすらアメリカの『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』、3大テレビネットワーク(CBSNBCABC)のようなリベラル系メディアの流したニュースを輸入して再生産しているだけです。だから、アメリカ国民の本当の声がまったく伝わってこない。


キンモンスアメリカ人の民意が日本にあまり伝わっていない例として、2017年1月にトランプ大統領が発表した移民の入国禁止令が挙げられます。トランプ政権が行なう移民政策については、さまざまな意見があります。アメリカのある世論調査では国民の49%がトランプ大統領の政策に賛成しており、反対の41%を上回っている。しかし、日本の新聞、テレビはこうした側面よりも大統領令に反対する人びとの動きのほうを大きく取り上げていました


古森:まさにそのとおりで、いまキンモンスさんが挙げた数字はロイター通信によるインターネット調査の結果ですが、ギャラップなど他の機関が行なった世論調査でも、総じて移民入国禁止令への賛成が反対を上回っています。ラスムセンという大手世論調査会社の結果に至っては、賛成が57%、反対が32%という大差がついている(例外はCNN調査で、53%が反対)。日本では衛星放送・ケーブルテレビで比較的、流れているのでCNNの認知度が高く、鵜呑みにする人が多いのですが、本国のアメリカではFOXと比べて半分以下の視聴率です。完全に傍流メディアの位置付けですよ。


アメリカの左傾メディアの受け売り報道を行なっているのです。結果として、大統領選挙のときはトランプの勝利を読み誤り、それでもなお懲りずに、いまだにトランプ大統領や安倍首相を叩いて進歩派気取りで溜飲を下げている


キンモンス出生率の低下やひきこもり、離婚率の上昇といった社会的な現象だけではなく、たとえば日本で企業の不祥事が起きると、イギリスやアメリカのメディアは必ずといってよいほど、それらを「日本人の文化」のせいにする論調があります。


古森:悪しき日本文化原因論や、はっきりいえば人種差別的な思想に基づくアメリカの「日本人特殊論」「日本異質論」は1980年代からあったように思います


キンモンス:そこでいま、私が慶應義塾大学で行なった講義や研究を基に構想中の本があります。タイトルはAmericans Ain’t No Culture


古森:日本の読者に向けて説明すると、「ain’t」という言葉は「amnot」や「aren’t」「isn’t」「hasn’t」「haven’t」(「〜がない」「〜をもっていない」の意)を全部ひっくるめた省略語で、単数形も複数形も気にせずに使えるスラング的表現のことですね。


キンモンス:要するに、下品な言葉遣いのことです(笑)。


古森:キンモンス先生の本のタイトルを直訳すると、「アメリカ人には文化がない」。おまけに「ain’t(=not)」と「no」が重複しているから、文法上も間違っています。二重の意味であえて下級で下品に響くタイトルになっているわけです(笑)。もちろん皮肉を込めているからです。


アメリカの過激な日本研究者たちが「日本軍の組織的な強制連行による20万人女性の性的奴隷化」といって日本を糾弾した背景にも、日本人は女性の人権を軽視する文化的に遅れた民族だというジェンダーフリー思想に基づく対日差別があります。こうした誤った見方に対しては、日本国民を代表するという意味で日本の政府機関がまず正式に反論するべきです。日本のメディアも徹底抗戦しなければならない。

(部分抜粋引用終)
日本会議」については、過去ブログを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20170410)。