ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ハマス・ヨルダン・レバノン

旅の記録に後日引用するため、その下準備として、今日は関係する三つの報告を『メムリ』(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=MEMRI&of=50)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=MEMRI&of=0)から転載。

1.(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP115215
「緊急報告シリーズ」(Special Dispatch Series) No 1152  Apr/19/2015

「次の対イスラエル戦争に備えるハマス
C・ジェイコブ(MEMRIの研究員)


はじめに


ガザを中心に発生した昨年の軍事紛争(2014年7−8月)以来、ハマスは次の対イスラエル戦に備えて軍事力の回復、増強に努めている。トンネル掘削、ロケット製造、兵器の備蓄、軍事訓練の実施、そして軍キャンプの建設を進めているのである。ハマス運動の幹部達は、繰返しパレスチナ全域の解放を呼びかけ、ジハード、殉教、武力闘争を称え、奨励し、攻撃を拡大しウェストバンクと東エルサレムで本格的なインティファダを開始する、と威嚇している。ハマス幹部のなかには、対イスラエル戦で別の正面をつくると述べている者もいる。
この線に沿って、カッサム旅団スポークスマンのアブ・ウバイダ(Abu `Ubaida)は、ラファ殉教者追悼式で「戦いはまだ終っていない…傲慢の占領者は戦争を余儀なくされる。どのような形なのか性格なのか予想もつかないだろう…我方の人民は、抵抗の動脈に日々新しい血を注ぎこんでいる。さまざまな面でだ」と言った※1。


ハマスの創設27周年記念演説で、ハマス政権の前内務相ハマッド(Fathi Hammad)は「昨年のガザ戦争以来数千の人民が続々とカッサム旅団に加わった…ウェストバンク占領者に対し(インティファダで)立上る。エルサレムにおける抵抗エスカレートしなければならない」と述べた※2。同じ頃ハマスの指導者達がガザでのエスカレーションを望まぬと発言しているので、この点注目すべきである。


"カッサム工場は昼夜兼行で操業中"―進む再武装


ハマスは目下のところ対イスラエル戦のエスカレートに傾斜しないように気をつけながら、戦備増強に力を注いでいる。ハマスの幹部達は、兵器増産の必要性を繰返し呼びかけ、工場のフル稼働を自慢している。ハーン・ユニスで開かれた有力者との会合で、ハマスの政治局幹部アル・ザッハル(Mahmoud Al-Zahhar)は、「パレスチナ人は、パレスチナのどの地域にも打撃できるように、兵器を開発しなければならない。これは我々の任務である。実行しなければ同胞を裏切ることになる」と言った※3。


アル・ザッハルは、青少年教練キャンプの修了式で、「パレスチナが解放されるまで、毎年数千名の若者が教練キャンプに参加する…この若者達は、ロケット発射位置につき、審判の日の戦いに打撃を与える。我々が保留するものは何もない。兵器、資金、努力そして血と汗を誓って投入する。世代から次の世代へ…学校の休日にはいつも君達は軍事教練キャンプへ来る。我々が目的を達成するまで続くのである」と言った※4。


ハマスの政治局次長ハニヤ(Isma`il Haniya)は、金曜説教で同じ主旨のことを語り、「ハマスは倦まずたゆまず兵器の備蓄、抵抗手段と抵抗力の整備増強に努め、パレスチナの完全開放の日まで続ける」と述べた※5。


ハマス政権の前内務相ハマッドは、「抵抗戦線は次の解放戦闘に備えてジハードを常に計画し、訓練していく…我々は銃の引金に手をかけている。カッサムの工場は昼夜兼行で稼働している。その日は必ず来る。そしてイスラエルは高い代償を払うことになる」と言明した※6。


カッサム旅団司令官ディフ(Muhammad Deif)につぐ副司令官イッサ(Marwan I`ssa)は、アル・ラバト単科大で開催された会議で、ロケット生産が続いていることを確認し、「この時点でイスラエルの占領者との紛争は起したくない。しかし、対決の日に備えて戦力倍増に努めている。目下ロケット生産を続けている。我々は、本件に関する敵の声明には全然関心がない…我々は、我々に武器を供給できる者とは誰とでも同盟を組む」と強調した※7。


トンネル掘削の再開


ハマスが攻撃用トンネルの掘削をやめたことはない。2014年9月初旬、前回のガザ戦争の銃声がやんで数週間しかたっていない頃、アル・ザッハルが「ハマストンネル再建と(新しい)トンネルの掘削を開始した」と言明した※8。2014年10月19日、ハマスの宣伝機関Al-Riyadhは、トンネル掘削専門隊々長の話を引用する形で、ガザの攻撃用トンネルのひとつが修復中と伝えた。この報告によると、カッサム旅団のメンバー達が密かに日夜兼行でトンネルを掘っている。地下数十メートルの深さで、戦略用と戦術用の2種類ある。前者はイスラエル兵の殺害と誘拐を目的とするイスラエル内での"実質的"攻撃用である。後者はロケットランチャーと迫撃砲イスラエル機の偵察から秘匿するためのものである。この報告は、リポーターの見たトンネルが人道上の配慮から戦闘中に一時停戦になった時を利用して再建されたとし、掘削作業中のカッサム旅団メンバー達が作業は危険だが、アッラーのためパレスチナのためなら殉教する用意があると述べた、と報じている※9。


トンネルの再建(出典: Al-Risalah, Gaza, October 19, 2014)


ガザへのセメント搬入制限がもたらす影響について、カッサム旅団の或るメンバーは、ハマスは、煉瓦を代用して不足を補う、と言った※10。


青少年に対する軍事教練


カッサム旅団は、つぎの戦闘に備えて、ガザ回廊で2015年1月20日から27日まで青少年に対する軍事訓練を実施した。15歳から21歳までの青少年約1万7000人が参加、数十ヶ所の"解放の先駆者"キャンプ(Talai` Al-Tahrir)で訓練をうけた。ハマス系のPalinfo.comによると、応募者が多すぎて、カッサム旅団は午前と午後の二部制にして対応した※11。


カッサム旅団は、モスクと公共の場所そして公式のサイトで教練の宣伝をおこなった。登録所はガザの中心部に設けられ、受付スタンドには"次世代解放軍の中核"と銘打った看板が掲げられ、覆面姿の戦士が待機した。


ガザ訓練キャンプ参加登録所(出典: Facebook.com/camps.gaza/photos, January 18, 2015)


カッサム旅団の或る幹部によると、旅団は十代の子供を可能な限り多く集めて、実弾を使った訓練を施し、民防技術や救急法を含めた軍事能力を身につけさせるとし、「カッサム旅団は、イスラムの教育をベースとした解放軍の育成をはかっている」と述べた※12。


実弾を使用した訓練
(出典: Facebook.com/camps.gaza/photos, January 25-29, 2015)


キャンプでの訓練には、実弾射撃も含まれた。訓練期間中ハマスの幹部達が常駐している。アラブニュースのウェブサイトnoonpost.netによると、教練コースは、社会各層をすべて含んだ人民軍の中核作りを目的とし、そのため十代の少年に、ジハードと対イスラエル戦に備えてイデオロギーと戦闘技術を身につけさせるのが、教練の主旨である。コースに参加した少年たちは、イスラエル兵誘拐法とエルサレム解放の方法を学ぶために参加した、と言った。


キャンプ案内のポスター(出典: Facebook.com/camps.gaza?fref=photo, January 10, 2015)


少年達は、イスラエル兵の誘拐法を学び、コマンド隊に加わって、帰還権を実現したい、と言っているが、ヌセイラト難民キャンプから参加したムハンマド(17歳)は、「抵抗こそ私達の誇りであり力です。私は、カッサム旅団のエリート青年隊々員となって、占領者の牢獄から従兄弟を解放するため、イスラエル兵を誘拐する」と述べた、アフマド・ホスニ(19歳)は、「私はパレスチナ解放軍の兵士になりたい。そのため兵器を初め軍用機材の使用法を身につけたい。自分は水泳が得意なので、水中コマンド隊の入隊申請をするつもりだ。海中にダイブし、ヤッフォの海岸迄潜水で到達したい」と言った※13。


トンネル内行動訓練(出典: Facebook.com/camps.gaza/photos, January 27, 2015)


2015年1月27日、コース修了式でハマスの政治局次長ハニヤは、「抵抗に結集する人民は、ハマスとカッサム旅団のイメージを傷つけようとする(イスラエルの)意図を一掃する…カッサム旅団のキャンプは、勝利と解放の世代を育成する戦略的事業基地である。敵に抵抗し、それに対して銃をとる準備をするのは、選択肢ではなく、ハマスのみならずパレスチナ人すべてが持つ文化である」と述べた※14。


教練終了式に出席したハニヤ政治局次長以下ハマス幹部達(出典:Facebook.com/camps.gaza/photos, January 29, 2015)


キャンプ修了式案内ポスター(出典:Facebook.com/camps.gaza/photos, January 29, 2015)


訓練キャンプの設置は、人民正規軍編成の前段


カッサム旅団は軍事キャンプを設置して、次の対イスラエル戦に備えつつある。最近、カッサム旅団の訓練部が、イスラエルとガザの境界近くに二つのキャンプをつくり始めた。アル・ヤルムクとフィラスチンである。訓練部幹部は「イスラエルを恐れることなく、旅団は訓練を続行する」とし、「軍事教練には別の意義もある。敵占領者は、我々が惨胆たる状態にあると宣伝するが、抵抗は一瞬のゆるみもなく、孜孜として進んでおり、人民を守る第一線に立っていることを、顕示するものである」と言っている※15。


建設中の活動家訓練キャンプ(出典: Alqassam.ps, March 14, 2015)


ハマスの政治局次長ハニヤは、最近訓練キャンプを訪れた。境界線から1km手前の基地で、ハニヤは双眼鏡で前方のモシャブ(共同組合村)ネティブ・ハアサラを観察しながら、「ハマスの事業は、暫定国家の樹立やガザ回廊に国家を建設することではない。我々は、解放と帰還を目的とし、そのための戦略的選択肢として抵抗に重点をおいているのだ」と語った※16。


注目すべきは、今回初めてパレスチナイスラムジハードとハマスの両軍事部門、即ち前者のクードス旅団後者のカッサム旅団が共同で訓練した点である。ハマスのウェブサイトAl-Majidは「訓練は、占領者に対する抵抗側の断固阻止の意志表示であり、パレスチナ正面を守る力のメッセージである」と主張している※17。


連帯するハマスパレスチナイスラムジハードの戦士(出典:Felesteen.ps, Almajd.ps, March 8,(sic) )


ハマスは、将来の戦争に備える一環として、民兵組織を人民正規軍へ格上げすると明言している。正規軍は徴募兵に軽火器と迫撃砲の操作訓練を施すのである。ガザのサブラ地域アブダッラー・アッザムモスクに掲示されたカッサム旅団の声明には、人民軍将兵として訓練を受けるため数千名が登録した」と述べている※18。
その後ハマスは、人民軍の活動家2500名の訓練を終え、その1期生の卒業を発表した。修了式で1期生の活動家数名が、イブラヒム・アカリの写真を付した標識を掲げた。2014年11月5日エルサレムで車に乗ってテロをやった人物である※19。


大規模兵器展示で創立記念日を祝ったハマス


2014年12月14日、ハマスは武力の誇示で創立記念日を祝った。7−8月の戦闘以来初めて、大規模な軍事パレードを実施したのである。部隊行進と共に各種保有兵器も展示された。それには、長射程R−160式ロケット、J−80式ミサイル、イラン製ドロンのアバビルが含まれる※20。
軍事パレードに続き、カッサム旅団スポークスマンのアブ・ウバイダが次のように述べた。
ハマスとその軍事部門の旅団は名誉の光輝ある歴史を持つ。兵器を生産し岩を砕いてトンネルを掘り、占領者に抵抗し痛打を浴びせる。我々は準備しこの光輝ある歴史を継承する。今日、長い年月の後、皆が世界が見ているように、カッサム軍は戦闘隊を持ち、砲兵隊、水上/水中挺身隊、エリート隊、トンネル隊、狙撃隊、機甲隊、歩兵隊そして防空隊が堂々と行進した。名前だけの隊ではない。いずれも実戦部隊であり、ガザの入口で敵を打倒し、傲慢な仮面をはぎとり、全能の主アッラーの御加護により、地上で海でそして空中で屈辱を与えた。いずれも百戦練磨の部隊である」※21。


ハマスの兵器展示(出典: Palinfo.com, December 14, 2015; Felesteen.ps, December 15, 2014)


ウェストバンクとエルサレムでテロ攻撃を奨励


ハマスは、ガザでの戦備増強をはかる一方で、エルサレムでのテロ攻撃を奨励している。エルアクサ・モスクの現状維持をイスラエルが変えようとしている。そのような噂が流れて緊張が走り、これを逆手にとって、あらゆる手段で占領者に抵抗せよ、と呼びかけた。ハマスは、これまでテロをやった人々(ハマスメンバーもいる)を賛美し、パレスチナ人に後へ続けと発破をかけた。ハマスの新聞とウェブサイトには、テロ攻撃を称える記事がいろいろ掲載され、今後はもっと質の高い攻撃になると約束している。紛争は政治ではなく宗教上の問題である、と解説した記事もいくつかある。
ハマスは暴力のサイクルをウェストバンク全域に拡大させようとしている。新しいインティファダに火をつけたいのである。ハマスのスポークスマン達は、パレスチナ自治政府(PA)を厳しく批判し、イスラエルとの治安協力をやめ、パレスチナ人住民の怒りを押さえるな、と要求している。占領に抵抗し、エルサレム・エルアクサインティファダを開始せよ、と求めている。
ハマスの政治局長マシァル(Khaled Mash`al)は、パレスチナ諸派すべてに決起を促し、エルサレムにおける占領者の行動に抵抗せよと呼びかけ、それと同時にPAの政治的臆病を批判した。カタール紙Al-Sharqのインタビューで、政治局長は、「抵抗あるのみ。占領に抵抗するよう住民を奮起させるべきだ。これが敵を阻止する。抵抗はハマスだけがやるものではない。すべてのパレスチナ諸派パレスチナ指導部の責務である。エルアクサ・モスクが前例のない危機に直面している今日、パレスチナの当局者は全員がこの民族的政治的歴史的責務を受入れなければならない」と語った※22。
マシァル政治局長は、第3次インティファダの可能性に触れ、次のように言った。
「状況は表面下で沸きたっている。既に表に噴出したものもある。これを押さえつけ妨害し、葬り去ろうとする試みがあるが、いずれも失敗する。アッラーの御加護によってパレスチナの火山は、占領者の目の前で爆発する」※23。
ハマス広報部も、「エルサレムは我々のものだ」と銘打ったキャンペーンをはり、デモを煽動している。ハマス政権の情報次官アルグフセイン(Ihab Al-Ghussein)は、「我々は、占領者に対して果敢に立向かう東エルサレム住民を尊敬し、その姿勢を多とする」と述べ、エルアクサとエルサレム支援のキャンペーンに参加するようアラブ人とムスリムに呼びかけた※24。ハマス広報部は、11月23日をエルアクサ連帯の日に決めた※25。
アル・ザッハル政治局幹部は、ハーン・ユニスの会合で、「ウェストバンクには、抵抗の蓄積がある。我々は頼りにできるのだ。車を使った攻撃は、その創意工夫の一例である」と称えた※26。ハマスのスポークスマンであるバドラン(Hussam Badran)は、2014年11月25日付のプレスリリースでPAに人民と共に立上れと呼びかけ、「これが、方向と政策を変える最後のチャンスになるかも知れない。何もしなければ、歴史は無慈悲な結果をもたらす。人民は占領者に対する抵抗権行使を阻止した者を、絶対に許さない」とせまった※27。


ハマスフェースブックページ「英雄よ武器をとれ」(出典:Facebook.com/alresalahNet, November 19, 2014)


ジハードと自爆攻撃を賛美するハマス


次の対イスラエル戦に備える一環として、ハマスジハードと自爆攻撃を唱え、賛美、煽動している。前述のように、ハマス指導部は、エルサレムを初めとする地域のテロ攻撃を称え、その実行犯を英雄的殉教者と賛美し、勇気ある攻撃を敢行して命をエルアクサ・モスクに捧げた人、勇者のモデルである、と絶賛している※28。
例えばハマスはシャルディ(Abd Al-Rahman Al-Shaludi)を称える。昨年10月22日エルサレム路面電車停留所で車を使ってテロをやった犯人であるが、ハマスは"英雄的殉教者"と賛美した※29。それだけではない。ハマスはシャルディの家族も"勇気ある殉教者"に列せられると称えた※30。バドランはこのテロ行為を「英雄的行動であり、見習うべき当然の権利の表出である」とさえ言った※31。
エルサレムでは、2014年11月5日にも車を使ったテロが起きているが、ハマスはその実行犯であるアカリ(Ibrahim Al-Akari)も「エルアクサとエルサレムの聖域と同胞のために復讐した…殉教の英雄的挺身者」と絶賛し※32。カッサム旅団も「ハマスの聖戦士とエルサレムの英雄達は、己れの血を捧げ、命をはってエルサレムを守った」と称えている※33。


ハマス幹部アシュタル(Younis Al-Astal)は、ハーン・ユニスで開催された殉教者追悼会議で、「パレスチナ解放には武力抵抗しかない。これが唯一の手段である…イスラエル人は、封鎖、そして再建(の約束)で、我々を脅迫できると思っているが、とんだ見当違いである。連中は白昼夢を見ているのだ…これが我々の兵器だ、精神だ。アッラーのためのジハードこそ我々の命だ」と発言した※34。
昨年6月、ヘブロンで3名の少年が誘拐のうえ殺害された時、コラムニストのマアリ(Khaled Ma`ali)は、ハマスのウェブサイトでこの実行犯達の"殉教"を称え、「殉教は戦士の望むところ。アッラーのために身を捧げるのが最終ゴールであり、(戦士達は)その時が来るのを待ちこがれている」と言った※35。


ハマスは、その創設者ヤシン(Ahmad Yassin)の第11周忌に、記念碑をたて「シオニスト占領者に対し抵抗の武器を下に置くことはない」と宣言した※36。


戦闘正面の広域化をめざすハマス


ハマスは、次の対イスラエル戦の準備を進めると同時に、従来の伝統を破って、アラブ諸国を発進基地とする戦闘正面の広域化をはかり、その旨呼びかけている。2015年2月4日、ガザで開かれた政治集会において、アル・ザッハルが「パレスチナ北から抵抗して解放の戦いに参加できる」ように、「ハマスの軍事部門であるカッサム旅団に従属する戦闘細胞を国内の難民キャンプにつくる」ことを認めよ、とシリアのレバノンに呼びかけた。
ハマスの上級幹部によるこの声明は、この組織が第二正面形成を意図していることを示す。これは今迄避けてきたのであるが、シリアとレバノンを発進基地として使い、戦場を広域化したいのである。
ザッハルの発言をうけて、ハマスエルアクサTV報道部長ザクト(`Emad Zaqout)は、「ザッハル博士の発言背景」と題する記事を発表し、ハマスは対イスラエル紛争を全面的に展開し、北部からのイスラエル攻撃を含める意図であるとし、昨年のガザ戦争ではカッサム旅団の指揮下にある者がレバノンからイスラエルへロケットを発射した、と書いた。以下その記事内容である。
「最近のガザ戦争は、二ヶ月ほど続いていたが、カッサム旅団が占領下パレスチナと境界を接するアラブ諸国で数グループを行動させた。そこから彼等は、占領下パレスチナの北部諸都市にロケットを撃ちこみ、敵シオニストは一体どうしたことかと周章狼狽した。
ハマス指導部は戦場の広域化を考え、その線で計画しているようである、今後シオニストと戦争になる場合は、全面戦になる。つまり、パレスチナ全域が戦場化する。敵にとっては対応が難しくなる。指導部は、この間のガザ戦争の後すぐこの準備を開始した。いや戦時中既に実施とも考えられる。
この広域化構想にもとづき、ハマスヒズボラが関係を修復した。これを契機にハマスの政治指導部幹部のザッハル博士は、ガザ北部で開かれた政治集会で、組織が北部パレスチナに近いレバノンの難民キャンプにカッサム旅団所属の戦闘集団を編成中、と発表した。
ザッハル声明は、ヒズボラ首脳部との調整を得て出されたと思われる、ムハマッド・ディフ(カッサム旅団司令官)はヒズボラ書記長ナスララ(Hassan Nasrallah)に書簡を送り、(レバノンの)抵抗運動に加勢を求めた。占領下パレスチナに対するレバノンからの砲撃支援である。
問題は、ザッハル博士の発言が、シリア、ヨルダン、エジプトのパレスチナ人にも適用されるかどうかである」※37。
ハマスの幹部ハマッド(前内務相)も、2015年2月23日開催の会議で(ハニヤ政治局次長も出席していた)、「我々は、イスラエルを囲むすべての国のみならず、境界を接しない国にもイスラエル戦闘正面をつくらなければならない」と言明した※38。


[1] Palinfo.com, November 13, 2014.
[2] Paltimes.net December 12, 2014.
[3] Palinfo.com, November 15, 2014.
[4] Al-Risalah (Gaza), January 29, 2015.
[5] Palinfo.com, October 4, 2014.
[6] Alzaytouna.net, November 2, 2014.
[7] Palinfo.com, March 2, 2015.
[8] Al-Ayyam (PA), September 20, 2014.
[9] Al-Risalah (Gaza), October 19, 2014's; 次を参照 MEMRI Special Dispatch No. 5863,"Hamas' Construction Of Gaza Tunnels Continues," October 23, 2014.
[10] Paltoday.ps, October 29, 2014.
[11] Palinfo.com, January 23, 2015.
[12] Noonpost.net, January 22, 2015.
[13] Noonpost.net, January 22, 2015.
[14] Palinfo.com, January 27, 2015.
[15] Alqassam,ps, March 14, 2015.
[16] Al-Hayat (London), April 6, 2014.
[17] Felesteen.ps, almajd.ps, March 8, 2015.
[18] Felesteen.ps, September 25, 2014.
[19] Al-Ayyam (PA), November 8, 2014; Al-Risalah (Gaza), November 7, 2014.
[20] Palinfo.com, December 14, 2014; Felesteen.ps, December 15, 2014.次も参照 MEMRI Special Dispatch No. 5905, Hamas Senior Officials At Movement's 27th Anniversary Celebrations: We Will Not Recognize Zionist Entity Or Be Satisfied With A Palestinian State Within 1967 Borders; We Thank Iran For Supplying Us With Weapons, Missiles, December 16, 2014.
[21] Palinfo.com, December 14, 2014.
[22] Al-Sharq (Qatar), November 9, 2014.
[23] 次を参照 MEMRI Special Dispatch No. 5886, Hamas Praises Recent Terror Attacks In Israel, Calls For Escalation And Launch Of New Intifada, Threatens: 'The Palestinian Volcano Will... Erupt In Occupation's Face', November 19, 2014.
[24] Paltoday.ps, November 23, 2014.
[25] Palinfo.com, December 21, 2014.
[26] Palinfo.com, November 25, 2014.
[27] Palinfo.com, November 25, 2014.
[28] 次を参照 MEMRI Special Dispatch No. 5886, Hamas Praises Recent Terror Attacks In Israel, Calls For Escalation And Launch Of New Intifada, Threatens: 'The Palestinian Volcano Will... Erupt In Occupation's Face', November 19, 2014.
[29] Palinfo.com, November 23, 2014.
[30] Paltoday.ps, October 23, 2014.
[31] Alresalah.ps, October 23, 2014.
[32] Israj.net, November 5, 2014.
[33] Palinfo.com, November 5, 2014.
[34] Al-Risalah (Gaza), October 23, 2014.
[35] Felesteen.ps, September 23, 2015.
[36] Palinfo.com, March 21, 2015.
[37] Alwatanvoice.com, February 6, 2015.
[38] Palinfo.com, February 24, 2015.

2.(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP603415
「緊急報告シリーズ」(Special Dispatch Series) No 6034  Apr/29/2015

アラブが見放したのでヨルダンはイスラエルに助けを求めた」
マヘル・アブタイル(出典: Al-Dustour, Jordan, April 12, 2015)
イスラエルに助けを求めた ―ヨルダン人評論家の主張―


ヨルダンの評論家アブタイル(Maker Abu Tair)が、2015年4月12日付ヨルダン紙Al-Dustourで、ヨルダンに背を向け見捨てたとして、アラブ諸国を非難した。アブタイルによると、これがヨルダンをイスラエルへ押しやり、今やヨルダンは経済的に政治的にすっかりイスラエルに依存するようになった。アブタイルは、ヨルダンの首尾一貫しない外交政策についても触れ、この政策は隣接諸国との不安定な関係に由来するとし、イスラエル依存に代る方策の追究を提言した。以下その記事内容である。

マヘル・アブタイル(出典: Al-Dustour, Jordan, April 12, 2015)


ヨルダンはすっかり弱体化し、今やすっかりイスラエルに依存する状態になった。国民感情に反し、名誉を傷つけているのに…誠に悲しいことであるが、これが不幸にして現実である。状況を観察している人なら判るが、ヨルダンはそれこそまっしぐらにイスラエルへ走りこみ、政治的権益を重ね合わせている。あたかもヨルダンは二つの理由のどちらかを言っているかのようである。すべてのアラブがドアを閉じて、ヨルダンを締めだしたというのが第一第二は、イスラエルが最も安全な友邦で、中東では唯一の避難地という理由。二者択一とすれば、多分前者がヨルダンを後者へ押しやったということであろう。
ヨルダンはすっかり弱体化し、今やイスラエルに頼りきりの状態である。依存の一例がエジプトの天然ガス供給問題である。エジプトの天然ガスは、砂漠(シナイ)のムジャヒディーン(イスラムゲリラ)によって(供給を)阻止されているので、代りとしてイスラエルが我々に(盗んだ)パレスチナ天然ガスを供給している。次のプロジエクトも依存関係の一例であるが、二つの海(死海と紅海)を結ぶ壮大な人工運河建設で合意し、アカバ空港の件でも合意している(エイラートの近くにイスラエルが建設中のラモン空港をさす)。かつてヨルダンは、この突港建設に反対していたが、(アカバ空港との)離着陸の調整を条件に、反対を撤回したのである…。
実のところ、ヨルダンには最早アラブの友邦がひとつもない。今日、東方アラブ全体を向うにまわすヨルダンにとって、イスラエルが唯一の友邦である。これがありのままの姿である。アラブ諸国が、イスラエルの気をひくようなことをしない強いヨルダンを望んでいたのなら、ヨルダンを経済上見放すことをせず、政治的に攻めたてるようなこともしなかっただろう。それがなければ、ヨルダンが外交政策上迷走することもなかった筈である。テヘラン支持で固まり、そのつもりで就寝し、目が覚めるとイエメンで反テヘランにまわっている。これが今日この頃の姿である※1。イスタンブールで親テヘランという時もある。我々がラマッラ(のPA)とベッドを俱にしながら、朝目覚めると隣にはハマスがいるといった状態である…。
アラブ及びイスラム諸国との関係は移ろい易く変転きわまり無いが、イスラエル関係は安定し、しっかりしている。コンスタントである。イスラエルとの関係は長い間続いており、最近は、経済、農業等の分野で、新しい、より友好的な形ができつつある。あたかもヨルダンが身の処し方は判っていると主張しているようだ。誰が中東の門のカギを手にしているのか判っている。自国の存在を安泰にしてくれるカギを持つ者は、即ちイスラエルであり、それに面と向きあっているだけのことだ、と言っているようである。
イスラエル関係とヨルダンの存在を合致させるのは、危険である。安全ではないし(不快な)不意打ちが一杯ある。我々はこれに依存できない。たといアンマンの誰かが、対イスラエル関係がワシントンとアラブの裏切りから守ってくれると信じているとしてもである。
ヨルダン史上今日ほど対イスラエル関係が、あらゆるレベルで公然化したことはない。それにはいろいろ理由がある。しかし我々は、我々の存在を守る別の方式を探さなければならない。たとい我々の周囲の方式が不安定であり危険であっても、そしてたといアンマンが、唯一の選択肢はイスラエルと本能的に感じていても、我々の存在を保障し尚且つ、イスラエルとの関係に伴なう代価の支払いを約束しなくて済む別の解決法、を探さなければならない。
今日、ヨルダン唯一の選択肢が西の国(即ちイスラエルというのは、見ていて悲しくなる。こうなったのは誰を恨めばいいのか。我々には判らない。我々は、口先では反対したものの内心は望んだのだから、我々自身を責めるべきなのか。或いは恨むなら我々のおかれた状況を恨めということか。或いはアラブが背を向けたから仕方がなかったと、アラブに責任を帰すべきなのか。或いは又、最近の歴史は危険と混沌にみちていて、たとい悪魔と取引してでも我々自身を守らなければならないとして、歴史に文句を言うべきなのか。本件に関して意見があれば、その表明を待ちたい。


※1 イエメンで「決断の嵐作戦」が開始される数週間前、ヨルダンとイランは八年間の断絶状態の後関係を深め始めていた。ヨルダンの外相がテヘランを訪問し、アブダッラー国王がイランの最高指導者ハメネイと大統領ロハニに、ノウルズ(イラン暦の正月)を機に祝辞を送り、ヨルダンの新聞には対イラン関係の改善を呼びかける記事がいくつもでた。更にヨルダンの観光相は、イラン人観光客には正式にいろいろ規制があるにも拘わらず、ヨルダン訪問を認めると歓迎の意を表明したのである。しかしながら、そのヨルダンは2015年3月26日、「決断の嵐作戦」の発動直後サウジアラビアと組み、本作戦を支援し、イランが支援するフーシとイエメンで戦うアラブ連合軍に参加、と発表した。

3.(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP116015
「緊急報告シリーズ」 (Special Dispatch Series) No 1160 May/25/2015


「国際社会とヒズボラに保護を求めるレバノンキリスト教徒社会―ISとJNの恐怖に直面し武装化も推進―」
E・B・ピカリ(MEMRIの研究員)


はじめに


ジハード組織が、レバノンを含む中東で力を増やし、特にシリアとイラクの相当な地域がIS(イスラム国)の手に落ちて以来、その勢いが増している。ISはその勢力圏に過激イスラムを強要しようとしており、レバノンのマイノリティであるキリスト教徒社会とドルーズ教徒社会は、将来を恐れ、存続の危機さえ感じている。最近レバノンで起きたいくつかの事件が、この恐怖をつのらせる。例えば2014年8月初旬、ISとナスラ・フロント(Jabhat Al-Nusra. JN)が、レバノン北東部の国境の町イルサリンに侵入し、レバノン住民とシリア難民の手を借りて、当地のレバノン兵と治安将校を合計数十名拉致している。その後、ISとJNの民兵達が、レバノン南部のイスラエルに近い町、ブリタルを襲撃しようとした。レバノン東部及び東北部国境に近いシリアの町、アル・カラモウン(Al-Qalamoun)域でアサド政府軍と反政府軍が戦った後、この二つの組織がレバノンに侵攻するという報道がいくつか流れた。更に2014年10月初旬、ISとJNの集団が、シリア難民に支援され、トリポリを初めレバノン北部域でレバノン軍と衝突した。レバノン国軍筋によると、この武力衝突はISとJNの総合的計画の一環である。シリア西部のアル・カラモウン域と地理的に一体化する狙いがある。
更に、この1年の間に、レバノン各地で親ISのグラフィティが教会やキリスト教系学校の近くに描かれるようになった。ISがやって来る。キリスト教徒は皆殺しだ、と威嚇しているのである。
レバノンの少数派社会は、さまざまな恐れに直面している。レバノン東部国境域でISとJNに包囲され、しかもその武装諸集団はレバノン国内のスンニ過激派集団とシリア難民によって積極的に支援されている。それだけではない。シリア内戦がレバノンに飛び火する恐れもある。彼等の懸念は、レバノン政府が脆弱で、レバノン国軍に少数派社会を守る力がないことで、倍加される。更に武装勢力に攻撃された時外部から支援の手が差しのべられることもない。精々移民許可をだすのが関の山である。そのような孤立感が不安をあおる
キリスト教徒社会は、この状況に対応すべく、武装化を進めるところが多くなった。更に、ヒズボラを含むレバノン国内の諸勢力と組んで、存続をはかろうとしている。彼等は会議を開き、声明をだして宗教的寛容を訴え、国際社会の保護と支援を求めている※1。


本記事は、レバノンの少数派であるキリスト教徒社会の不安、キリスト教徒と過激スンニ派との間にみられる緊張、キリスト教徒の武装化の動き、保護を求めてヒズボラへ接近していく傾向を考察する。更に、自分達のおかれている状況を国際社会に訴え、穏健派スンニ指導部の助力を得てスンニ過激派主義を押さえようとする努力も概括する。


スンニ対キリスト教徒の緊張―キリスト教徒はISとJNの旗を焼き、スンニは十字架を汚し、落書きで威嚇する


2014年後半レバノンのメディアがキリスト教徒社会の抱く恐怖と不安について、大々的に報じた。ISとJNに代表される過激派ムスリム社会の敵意。レバノンスンニ派とシリア難民の過激派支持。支持を背景として2014年8月イルサルで勃発した武力衝突。そしてその2ヶ月後トリポリで起きたレバノン国軍とIS及びJNの関係する武装集団との戦闘。キリスト教系の学校、教会そして個人宅の壁にも威嚇する落書きがスプレーで描かれる


2014年8月30日、ベイルートキリスト教徒地区アル・アシュラフィヤで、キリスト教徒の青年達が、シャハダ(ムスリムの信仰宣言、〝アッラー以外に神は存在せず、ムハンマドはその使者なり〟の意)をつけたISの旗を焼いたレバノン兵2名の処刑など過激派の犯罪に抗議する行為であったが、過激派の影響を恐れる背景がそこにはある。キリスト教徒のオンライン活動家達もISの旗を焼けというキャンペーンをはっている※2。レバノンのリフィ法相(Ashraf Rifi、スンニのアル・ムスタクバル派)は、内戦を煽るとして旗焼き犯を厳刑に処すと述べている。一方バッシル外相(Gebran Bassil,ミシェル・アウンのキリスト教党)はISとイスラムを区別するように呼びかけた※3。


Protesters burn ISIS flag in Christian area of Beirut (source: Dailystar.com.lb, September 1, 2014)


翌日(2014年8月31日)、トリポリスンニ派住民達が十字架二つを焼き、市内にあるいくつかの教会に〝ISが来る。待っていろ〟という落書きをスプレーした※4。


"We have come to slaughter you, worshippers of the cross" on the wall of a Christian school in Tripoli (Al-Safir, Lebanon, September 2, 2014)


その後数週間、親ISで反キリスト教のグラフィティがレバノン各地で多数スプレーされるようになる。北部レバノンのズガータ(Zghata)の教会の壁に〝ISが来る、待っていろ〟というスローガンが書かれ、南部の町ティレに近い地域でも同じことが起きている※5。〝アッラー以外に神は存在せずーイスラム国〟のスローガンはベッカー高地西部のガーザでもスプレーされた※6。北部の町アル・ミナの教会では〝ISが十字架を打ち砕く〟という落書きがあり※7、トリポリキリスト教系学校の壁には〝これから我々は十字架の崇拝者を皆殺しにする〟という威嚇が描かれた。


"We have come to slaughter you, worshippers of the cross" on the wall of a Christian school in Tripoli (Al-Safir, Lebanon, September 2, 2014)

"The Islamic State is coming" on a church wall in Al-Mina (Alnashra.com, August 31, 2014)


国際社会の保護を求める集会とアピール


レバノンキリスト教徒は、ほかにもいくつかの方法で脅威に対応している。メディアのレベルでは、国際社会の保護を求めるために抗議集会や会議を開き、声明をだすなどして、窮状を訴えている。集会では、レバノン及びアラブ世界の穏健派スンニと連帯して過激派スンニと戦う必要性が叫ばれている。例えば2014年8月7日、レバノン東方教会の司教達が集会を開き、キリスト教徒の殺害を禁じるファトワをだすように、スンニ及びシーア両派の聖職者達に呼びかけた※8。


9月3日にはアル・ラヒ大主教(Bechara Boutros al-Rahi)に率いられるレバノンのマロン派聖職者達が「過激主義とタクフィリ(他の宗派を不信仰者とみなすスンニの一派)の集団が実行している、あらゆる種類の差別、迫害、追放及び殺害」に反対する声明をだした。「よく知られているイスラムの価値観とは無関係の関心と意図のため、宗教を悪用する者」と糾弾している。更にこの声明は、「(キリスト教徒の)悲劇に終止符を打つため必要な対策をとるよう」、国際社会、国連、安保理そしてハーグの国際刑事裁判所に呼びかけている※9。9月9−11日ワシントンで開催された、アラブ中東域におけるキリスト教徒の状況に関する会議で、アル・ラヒ大主教は、このキリスト教徒達を保護するようアメリカに訴えた※10。


キリスト教徒の武装化と保護を求め国軍及びヒズボラへ傾斜


キリスト教徒達は、武力で攻撃する過激派に対抗するため、武装化を進めると共に、レバノン軍と治安部隊或いはヒズボラと協力し、保護を求めている。親ヒズボラレバノン紙Al-Akhbarは、2014年9月17日付で、キリスト教徒社会の軍備、安全保障上の用意について一連の記事を組んだ。ベッカーの北部域は、IS及びJNと境界を接するが、ヒズボラ支配下にある。ベッカー中央域の町村はシリア国境に近い。ティレ及び南部域はヒズボラ支配下である。レバノン山脈には主にドルーズ教徒が居住する。そして北部は殆んどスンニ派住民であり、住民のなかには或る程度過激派組織を支持する者がいる。

(Source: Worldmaps.net)


この一連の記事は、キリスト教徒の大半が武装しつつあると報じている。いざという時に備えているのである。全く独自に或いはキリスト教徒の政党の助けを得て武装し、或いはヒズボラに保護を求めているところもある。なかには、軍や地方議会と協力して、地域内パトロール、シリア難民の動静調査、難民キャンプの夜間外出禁止など、活発に治安維持活動をやっているキリスト教徒社会もある※11。


武装して自衛するかどうか、保護を誰に求めるかについては、いろいろ考慮するところがあるようである。その要素のひとつが、どの政党と関係が深いのかである。キリスト教徒社会のなかには、ミシェル・アウンの自由愛国運動と連帯しているところもある。この運動は、ヒズボラが先頭に立つ3月8日勢力の一部である。カタエブ党とレバノン軍団党を支持する社会もある。こちらは3月14日勢力の一部で、3月8日勢力とはライバル関係にあり、ヒズボラを含め非政府組織の武器所有に反対している。シリア国境に近いかどうかも考慮すべき要素である。シリア国境に近いというのは、ISとJNがアサド政府軍及びヒズボラと戦闘中の地域に接近しているということである。この地域から武装民兵がイルサルやレバノン東北部の町へ侵入する可能性大で、武装して自衛する必要性も大きくなる。第3の要素は、キリスト教徒の間に武装を嫌う傾向がある点である。特にレバノン山脈に住むキリスト教徒社会に、この傾向が強い。レバノン内戦時の経験があるからである。前出Al-Akhbar紙記事は、キリスト教徒社会のなかにみられる隔たりを指摘している。つまり一般市民はキリスト教徒指導部が宗派と党派の大同団結のもとキリスト教徒の武装化を期待しているのに対し、指導部自体がだしている声明は武装化反対なのである。


Al-Akhbar紙の記事のひとつは、ベッカー高地北部の国境の町アル・カア(Al-Qa`a)では、キリスト教徒達が、宗派党派が団結し、夜間武装哨戒隊を作り、警察と協力して武装集団の越境侵入を防止している。又、ムクタル(Mukhtar)の町は、「レバノン軍とヒズボラキリスト教徒を見放すことはない」と宣言している。


別の記事は、ベッカー中央部ザハレ地方所在のアミン・ジュマイエルのカタイーブ党役員の発言を引用している。党の支持者達がキリスト教徒の武装化をプッシュしており、党としてこれに反対しているが、圧力に抗しきれず、必要な時がくれば、どの党どの勢力とでも(ヒズボラを含め)安全保障の関係を築いてもよいと述べた。同じ地域のレバノン軍団党(サミール・ジャアジャア党首)の地域調整担当者は「我々は誰にも武器を渡してはいない。しかし、自衛の必要がある人々に対しては、自費で調達するようアドバイスしている」と言っている。一方、ミシェル・アウンの自由愛国運動の地域調整担当者は「党としては武装化構想に反対していた…しかし、手に負えない状況になれば、勿論坐して何もしないという訳にはいかない」と述べた。


前出新聞の三番目の記事は、ベッカー北部にいる武器取引業者の発言を引用して、「多数のキリスト教徒が個人用兵器を購入している。なかには大型兵器を備える者もいる」、「この地域ではキリスト教徒社会の各党派が保存武器を放出して、支持者達に渡している」、「3月14日勢力のキリスト教徒支持者達は、武器を求めヒズボラに頼り、いざという時は一緒に戦うとさえ言っている」と述べた※12。
一方、3月8日勢力を支持するAl-Safir紙は、ヒズボラがベッカー北部のキリスト教徒を守ると約束した、と報じている※13。


抵抗旅団に加わり、ヒズボラの指揮下に入ったキリスト教民兵


驚いたことに、キリスト教徒社会のなかには、いざという時ヒズボラに頼ろうとするだけではなく、民兵隊をヒズボラの指揮下に入れることを決めているところさえもある。レバノン・メディアで報道された、いくつかの記事によると、ヒズボラが多数のキリスト教徒を募集し、抵抗旅団(Saraya Al-Muqawama)に入隊させている。この民兵組織は、ヒズボラのために戦う有給戦闘兵で構成されている。


Al-Nahar紙が2014年11月12日付で、ヒズボラの隊員募集について報じた。この報道によると、ヒズボラがIS及びJNと戦うため、キリスト教徒、ドルーズ及びスンニ派住民を抵抗旅団に入隊させ、訓練し武器を与え、月1500から2500ドルの給料を払っている。ヒズボラに加わるキリスト教徒の若者達は、ISの勃興で危機感を募らせいる者であるが、なかには経済的苦境から入隊する者もいるという※14。
同じ日Al-Nahar紙は、抵抗旅団指揮官との匿名インタビューを掲載した。それによると、あらゆる宗派から多数の若者が入隊を希望しているが、その殆んどはキリスト教であるという。レバノン北東部の町ディル・アル・アフマルとラス・バールベクには、二つのヒズボラ民兵隊があり、その隊員数百名はすべてキリスト教徒である、とその指揮官が述べている※15。


Saraya Al-Muqawama members in a training camp (Source: Al-Nahar, Lebanon, November


メディアの報道は大半が、ヒズボラの抵抗旅団に入隊するキリスト教徒は自由愛国運動の支持者であると報じている。長年にわたりヒズボラの盟友である、ミシェル・アウンに率いられた運動である。例えばAl-Nahar紙は、2014年9月13日付で自由愛国運動に反対するキリスト教徒の発言を引用し、この運動とヒズボラが一緒になって、レバノン南部のジェジンにキリスト教徒旅団をつくった、と報じた※16。一方、レバノンのニュースサイトNowlebanonは、2014年10月4日付でシドンの匿名人権活動家の発言を引用し、ジェジンでヒズボラ幹部と自由愛国運動の支持者達が密かに会合を開き、自由愛国運動の支持者が構成される、キリスト教徒旅団の編成について話合ったとし、ヒズボラキリスト教徒の若者を武装させ月額500ドルで自分達の村を守らせている、と報じた。一方当の自由愛国運動はこの報道を否定し、キリスト教徒の武装化構成には反対していると主張している※17。ジェジン地区の町村組合もこの報道を否定している※18。
しかしながら、レバノン南部のキリスト教徒の動静を報じたAl-Akh bar紙は、キリスト教のなかには、3月14日勢力に属する者も含め、抵抗旅団の一部として密かな訓練と武装化ヒズボラに要請した者がいるとし、シドン南の町の長老や町長が、ヒズボラの政治局員ザイナブ(Ghaleb Ab-Zainab)との話合いでヒズボラに保護を求めた、と書いた※19。
2014年11月12日、3月14日勢力の事務局が、「所謂抵抗旅団という装いのもとで、ヒズボラの管理下で進められている現今の武装化現象」を指摘し、「このようなことはレバノン社会の安定を脅かす」と非難した※20。


ヒズボラは、キリスト教徒とドルーズを味方につけるため、ジハード集団の恐怖をたきつけている


ヒズボラとそれを支持するメディアは、ISとJNの恐怖をキリスト教徒とドルーズの間にたきつけ、彼等を武装させようとしている。更にこの組織は、武器を持ちシリアに軍事介入をおこなっていることを正当化し、レバノンの少数派社会を守り得るのはこの組織しかないとの主張を前面に出す一方で、抵抗旅団に少数派の若者を入隊させて力をつけようとしている。この方法を以てヒズボラは、少数派社会特に3月14日勢力を支持するキリスト教徒社会、そしてワリード・ジュンブラートを支持するドルーズ社会の政治的支持を、確保したいと考えている。この件に関してレバノン選択党(Lebanese Option)の党首アスアド(Ahmad Al-As`ad 反ヒズボラシーア派である)は、「ヒズボラは、ベッカーでキリスト教徒、スンニ派及びドルーズの若者達に接近して募集活動をおこない、金でつり、将来に対する不安感をあおって入隊させている…ヒズボラは、このようにしてシーア派青年に加えて他の宗派の者も、(シリアでの)死のゲームへ赴かせているのだ…ヒズボラは、(武器の不法所持という非難を)かわすため、この国を武器であふれ返させ、さまざまな党派の支持を得ようとしている」と主張している※21。


ロンドン発行のサウジ紙Al-Sharq Al-Awsat元編集長タリーク・アルホマイエド(Tariq Alhomayed)も、同じような見解を述べている。2014年11月15日付同紙論説で、「ヒズボラは、シリアでの行動を正当化するため各宗派の支持を必要としている。支持が得られるなら、犯罪人アサドと戦う唯一の存在ではない、と言い逃れができるわけである」と主張した※22。


[1] 例えば、アズハルは2014年12月3日カイロで反暴力・反過激主義を呼びかける国際会議を開催、120ヶ国からイスラムキリスト教の聖職者数百名が参加した 。 Al-Mustaqbal (Lebanon), December 5, 2014.
[2] Lbcgroup.tv, September 8, 2014.
[3] Al-Hayat (London), August 30, 2014. 2014年9月14日付レバノン紙 Al-Naharは、アル・アシュラフィヤで反シリア難民の落書きがあった、と報じた。
[4] Alquds.co.uk, August 31, 2014; Al-Safir (Lebanon), September 1, 2014.
[5] Lbcgroup.tv, August 31, 2014; Al-Nahar (Lebanon), September 5, 2014 Al-Mustaqbal (Lebanon), November 7, 2014.
[6] Saida-facts.com, September 3, 2014.
[7] Al-Akhbar (Lebanon), September 5, 2014.
[8] Al-Mustaqbal (Lebanon), August 8, 2014.
[9] Aljadeed.tv, September 3, 2014.
[10] Al-Mustaqbal (London), September 11, 2014.
[11] いくつかのキリスト教徒の町で難民に対する夜間外出禁止令が出ているという報道については、次を参照。Al-Sharq Al-Awsat (London), August 16, 2014.
[12] Al-Akhbar (Lebanon), September 17, 2014.
[13] Al-Safir (Lebanon), September 9, 2014.
[14] Al-Nahar (Lebanon), November 12, 2014.
[15] Al-Nahar (Lebanon), November 12, 2014.
[16] Al-Nahar (Lebanon), September 13, 2014.次も参照 Al-Mustaqbal (Lebanon), September 16, 2014.
[17] Now.mmedia.me, October 14, 2014.
[18] Al-Mustaqbal (Lebanon), September 14, 2014.
[19] Al-Akhbar (Lebanon), September 17, 2014.
[20] Al-Mustaqbal (Lebanon), November 13, 2014.
[21] Al-Mustaqbal (Lebanon), November 14, 2014.
[22] Al-Sharq Al-Awsat (London), November 15, 2014.

(転載終)