ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

東は東、西は西?

ツィッターhttp://twitter.com/#!/itunalily65)で書いたように、原稿そっちのけで、つい、『頭にちょっと風穴を』新潮社(2008年)を読みふけってしまいました。実のところ、原稿のテーマがあまりにも重過ぎ、慎重になっているということもあります。だから、熟練ジャーナリスト兼大学教授の方から、お知恵拝借という意味もこめて、なのですが....。
廣淵升彦氏は、2007年6月、駐日トルコ大使セルメット・アタジャンル氏に対して、日本記者クラブで質問をされたそうです(pp.61-63)。私も、この大使のご講演はうかがったことがあります(参照:2010年1月31日付「ユーリの部屋」(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20100131)。既知の内容が多く、もう一歩踏み込んだお話が聞きたいものだ、とやや不満の残るものでしたが、大使ともなれば、発言が慎重にならざるを得ず、そんなものかな、と思い直してみたりもしました。
ただ、上記本でも「記者たちが予想した内容はほぼすべて語られた感じであった」(p.62)とあり、(もしかしたら、同じパワーポイント画像を使って、どこでも同じお話をされているのかしら?)と、一瞬、疑問符が頭をよぎった次第。しかし、さすがはジャーナリスト、質問が一歩踏み込んでいらっしゃいました。

「かつてイギリスの詩人キップリングは、ボスポラス海峡のほとりに立って『おお、東は東、西は西、しかして両者は永遠に相まみえることなかるべし』と歌いました。この詩が西洋人の東洋を見る深層心理にいまでも大きな影響を及ぼしているのではないかと思います。この点をどうお考えですか?」(p.62)

私でも知っているこの詩(だって、高校生か学部生だったか、東後勝明先生のNHKラジオ『英会話』(参照:2007年10月17日・2008年4月2日・2009年12月7日付「ユーリの部屋」)の週末のゲスト・アワーで聞いたんだもん。“East is East, and West is West."と、東後先生がつぶやかれていたのを...)を引用した廣淵氏の質問に対して、大使がどうお答えになったか。いかにもいかにも、と私は感じたのですが...。

「キップリングはすぐれた詩人だと思いますし、彼の他の詩は私も読んでいますが、いまうかがった詩は知りませんでした」(p.62)

これですよ、これこれ。典型的なお答えだと、私は思うのです。意地悪く「それでは、彼の他の詩をどう思われますか」と聞いてみたいのですが、予想が的中しそうで、それ以上に、あまりにも失礼かと思い、黙っているのが礼儀でもあり得策かと、誰でも考えますよね?
私も拝聴したトルコ大使のお話は、確かに、EU加盟へのトルコの悲願と、それを受容しないヨーロッパ側の態度に対する批判めいたものだったと記憶しています。つまり、親日国トルコ大使のお仕事としては、トルコ側の主張に好意的な票集めの下地作りという意味合いも含まれていたのではないでしょうか。
日本側通訳の池田薫氏は、大変に優れた方で、キップリングの原詩をそのまま再現されたのだそうです(p.63)。とはいえ、私自身、廣淵氏の詩の部分引用に異論がないわけではありません。

「年配の記者たちの間では、この詩は青春時代に諳んじたものであり、東西両文明の異質さを歌ったものという共通の認識があったのだ。」(p.63)

それは理解できるとしても、詩の引用が中途半端な気もしたのです。なぜかというに、

http://www.bartleby.com/246/1129.html

The Ballad of East and West


Rudyard Kipling (1865–1936)


OH, East is East, and West is West, and never the twain shall meet,
Till Earth and Sky stand presently at God’s great Judgment Seat;
But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth,
When two strong men stand face to face, tho’ they come from the ends of the earth!

この後、長い物語叙述が続く上、末尾に同じ冒頭の5行がリフレインされるのです。トルコの文学状況は全く知りませんが、せっかくキップリングを引用されるのであれば、トルコ詩との比較などの質問に振り向ければ、もっとよいお答えが引き出せたのでは?

キップリングついでに、今日の一言。

And the measure of our torment is the measure of our youth.
Gentlemen Rankers


(“Dictionary of Quotations”, Bloomsbury Books, London,1994, p.15)

そしてもう一言。

Those who err follow the poets.

Ibid, p.154)