ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

外部世界から学ぶこと

2009年3月25日に、アジア(タイ)神学(いわゆる「水牛の神学」)で有名な小山晃佑師が逝去されました。79歳でした。

◎「水牛の神学」の小山晃佑氏死去
 【CJC=東京】「水牛の神学」で知られる神学者小山晃佑氏が3月25日、米マサチューセッツ州ベイステートの病院で死去した。79歳
 1929年、東京生まれ。米プリンストン神学校で哲学博士号を取得、タイ、シンガポールニュージーランドで教鞭をとり、74年から79年までニューヨークのユニオン神学校のエキュメニカル神学教授を務めた。
 主著は「水牛神学」「富士山とシナイ山―偶像批判」。日本では「裂かれた神の姿」(日本基督教団出版局)、「視よ、この人なり」(同信社)、「逆コース」(同)などがある
。□

この先生のお名前は、日本ではなく、マレーシア人クリスチャンの指導的立場にある方達(カトリックプロテスタント)から教わったという点で、私にとっては忘れ難い意義があります(参照:2007年8月22日付「ユーリの部屋」)。
グレゴリアン大学でも研究員をしていたことのあるマラヤリ系カトリックの友人は、私とのおしゃべりで、神学関連の論説文を書く時に、日本人神学者の見解として引用したと言っていました。「彼はファンダメンタリストだよ」と言っていましたが、さてどうでしょうか。アメリカでも有数の神学校で学位を取得されたのですから。もっとも、相当の堅固な意志を持たなければ、タイのような地域で日本人が神学するのもなかなか困難でしょうから、その姿勢がそのように感じられたのかもしれません。プロテスタントの知人の方は、来日(来京)の際、日本人牧師との会話の中で師の名前を引用されていましたので、よく覚えています。
それにしても、この世代の方達は、本当に個性豊かで優れた高い能力をお持ちでしたねぇ。一つの時代が終わったような思いです。ご冥福をお祈り申し上げます。

さて、昨日借りてきた本は、次の三冊です。いずれも、予約してから2か月ほど待った本、府立図書館にもなくて市立図書館所蔵から1カ月半ほど待って届いた本、予約直後にはすぐ借りられなかった本です。つまり、たまたま同時期に関心を共有する読者がいて、しばらく待機期間があったという意味です。
アブラハム・ラビノビッチ(著)滝川義人(訳)『ヨム・キプール戦争全史並木書房2008年
大野惠正(著)『聖書と音楽新教出版社2000年
加藤周一(著)『読書術岩波現代文庫 社会24 岩波書店2000年

最初の本は、佐藤優氏が『みるとす』の読者にお勧めしたい、とのことでしたので(『みるとす』2009年2月号 p.15)、楽しみにしていました(参照:2009年2月10日付「ユーリの部屋」)。軍事専門家にはすらすらと読めるのでしょうが、手ごわいほどの分厚さで、中身がしっかりと充実しています。
この種の本は、日本語で読むより英語に限ると思っていましたが、とにかく、資料の膨大さ、そして緻密な検証の姿勢には、多くを学ばされます。大型書店(の「洋書コーナー」と呼ぶのも時代がかっていますが)で、時々、手にとってみると、やはり英語版は本の大きさからして、どっしりしたものです。本を読むとはこういうことなのだなあ、と恥ずかしくなるような分量です。そして、ムスリム側の主張が論理の一貫性に欠けていて弱いことも、この種の本からうかがえるところです。例えば、この本でいくと、「資料について」で「アラブ側の戦争記録は貧弱である。例外は、エジプト軍のシャズリ参謀総長による戦時日誌である。それ以外は不幸にして役に立たない。英語で出版されたエジプト軍の将官たちの手記は幻想に包まれ、空想の産物としか言いようがない。」(p.531)

2007年3月にイスラエル旅行した時のガイドさんが、このヨム・キプール戦争を外国人居住者として体験されていました。日本の報道だけで義憤を感じるのでは不十分で、イスラエル側の論理と事情も理解しなければ、単に反戦ばかり唱えても効果が薄いのでは、と感じた次第です。ガイドさんいわく「神様はこの民を本当に愛しているんだなあと思いますよ」とのことでしたが、危機的な窮地に陥った時こそ、とてつもない力を発揮するのがこの地の人々ですから、単なる「困った時の神頼み」程度ではないことぐらいは、こちらもわきまえておく必要がありそうです。
本書は右派だと、どこかで日本語で見たような気がします。確かに、ダニエル・パイプス氏の名前が書かれているところから、そう判断されたのでしょうか。ただし書評は、ワシントンポスト紙、ニューヨークタイムズ紙、ニューヨークポスト紙、ハアレツ紙、エルサレムポスト紙などが掲載しており、イスラエルでは傾向の異なる二紙が紹介していることからも、バランスのとれた書だといえましょう。何より、30年に及ぶ研究と5年間の集中取材による労作で、類書よりさらに完成度が高いのだそうです。
やはり、こういう本に少なくとも目を通しておかなければ、世界情勢に疎くなるばかり…。

二番目の本も、なかなか充実したものです。音楽が好きで、聖書も二十数年以上読んできて、自然に身についているものもありますが、改めて体系的に知識を整理したくて、借りました。これは、上記本と交互に楽しみで読めそうです。
三番目の本、これは最も楽です。自分の読書歴を相対視するためにも、こういう大家から初心に戻って教えを請うつもりで、借りてみました。
と思ったのですが、夜のひと休み時間にすぐ読めてしまい、口述執筆のためか、加藤氏の本にしては、手応えが軽かったかなあ、と感じました。私にとって、専門外で自主的に読む本というものは、エンタテイメントや暇つぶしではないのですから、付箋を貼り、ノートにまとめつつ、ページを何度か前後に繰り、読了時には、一年間のしっかりとした講義を聞き終わったかのような充実感を味わえる種類を望んでいます。