ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

移民問題とアイデンティティ

ダグラス・K・マレイ氏(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%C0%A5%B0%A5%E9%A5%B9%A1%A6%A5%DE%A5%EC%A5%A4)については、今年3月に学会の研究会でも発表し、学会誌に要旨を掲載していただいた。大変にゆっくりではあるが、発表した頃よりも、徐々に増え、今では東大や京大を含む9つの大学図書館に所蔵がある。
日本の移民問題に関連して(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20181123)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20181124)、その続きを記す。
ご本人のツィッターhttps://twitter.com/DouglasKMurray)の背景に掲示されているのが、ペーパーバック版の『欧州の奇妙な死:移民・アイデンティティイスラーム』(2018年6月)である。
ハードカバー版の初版に一章「その後」を追加し(pp.321-337)、記述の傍証としての注も新たに加え(pp.353-354)、持ち運びに便利なような軽装型である。
私は、この版を今年の6月下旬に入手したが、昨日、追加部分をようやく一気に読んだ。
出版直後からベストセラーを続け、大変好評だったことを率直に述べ、その後も続けざまに発生した英国及び欧州内でのムスリム移民によるテロ事件が綴られている。そして、政治家の中には「現在の移民政策を後悔している」と、密かに告白した人もいたらしい。
英国外では、特に米国と豪州でよく読まれたとも記している(p.335)。
キーワードとしては「希望の礼拝」「ジョン・レノンの『イマジン』」(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20151217)「回復力(resilience)」(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140518)「国境を開く」「橋を架ける」「移動性と多様性」「移民と統合」等だが、アイデンティティの問題をどうするか、深刻な重いテーマが相変わらず続いている。
また、本書を日本語で紹介した文献としては、中野剛志氏の『日本の没落幻冬舎新書501(2018年5月30日)があり、第4章で詳細な引用が記されている(pp.110-148)。
通産省の元官僚で、エディンバラ大学で2005年に博士号を取得された著者でいらっしゃるので、恐らくは、スコットランド系の名字を持つダグラスさんに自然と興味を持たれたのではなかろうか、と想像される。
但し、中野氏は経済ナショナリズムのような分野がご専門のようで、ダグラス本を詳細に引用はされているが、特にイスラームキリスト教の歴史的対立が現代社会でどのような相克を表しているか等には触れていない。むしろ、議論の叩き台としてはシュペングラーの『西洋の没落』が中心で、4章ではハーバーマスの論文を対論として用いている。
こちらも、入手したのは9月中旬だったが、全部読み通したのは、一昨日のことだった。

ユーリ・テミルカーノフ氏のインタビュー集を邦訳した『ノローグ』も、半分以上、読み終えた(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20181119)。
氏のお父様は共産党員で、文化大臣もなさっていたようだが、早くに亡くなられた。かたやユーリ氏は無神論者の唯物論者でありながらも、非党員としてソビエト時代をたくましく生き抜いていたらしい。それであれほどの受賞歴なのだから、相当な実力派である。
ロシアは広大な土地つまり豊富な資源を有しているにもかかわらず、諸民族を政治的にまとめるのに常に失敗しているようで、何とも息苦しい。その環境下で、家族を大切にし、仲良く暮らしながらも、幼少期には食べ物にも事欠く暮らしだった様子や、西側への強烈な対抗意識とサンクトペテルブルクへの強い愛着が感じられ、なかなか興味深い本だった。
ロシアの楽団は、これからも来日公演ツアーをするだろうが、このような背景にも心しつつ、変わりゆく時代を音楽を通して感じ取りたい。