ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ヴェノナを読んで

"Venona"(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150815)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150817)を完全に読了。
日本に関しては、記述が二十数ヶ所出てくる。下線を引き、付箋をつけながら読んだが、実は、中西輝政氏や櫻井よしこ氏が主張するほど(櫻井よしこ日本よ、「歴史力」を磨け文春文庫 2013年 pp.170-175)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131029)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20131121)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140908)、KGBコミンテルンのせいで、日本が世界大戦に巻き込まれたのだという説について、賛同的に詳しく書かれているわけではない。
それよりも私見では、ミヤギ・ヨトク(宮城与徳)やヤノ・ツトムのようなアメリカに渡った日本人で、アメリ共産党や日本コミンテルン接触し、日系アメリカ人の間で活動し、日本でもその筋でソ連のスパイとして動いていた事例(pp.73-74, 378, 382, 404)をもっと注視すべきではないだろうか、と思われる。但し、これとてゾルゲ事件として旧知である上、刑罰を受けている事柄でもある。
ハル・ノート」との関連でハリー・ホワイトがソ連とつながっていた云々という話も、上記の櫻井よしこ氏経由で随分遅れて知ったが、実はそれに関しても、以下のように、注58として書かれていた(p.412)。

58. In regard to White as an agent of influence, Vladimir Pavlov, a retired KGB officer, published a description of a clandestine meeting with White in 1941. Pavlov stated that he had met with White on KGB orders to urge him to promote a stern American policy toward Japan in order to relieve Japanese pressure on the USSR. While denying that White was a spy, Pavlov said that White had been in contact with the KGB through Iskhak Akhmerov and that the meeting itself was arranged by a Soviet spy who worked at the U.S.Treasury.(....)Pavlov's essay portrayed the KGB as having saved Russia from a two-front war by promoting via White a tough American policy that provoked Japan into attacking south against the United States rather than north against the USSR. This is certainly an exaggeration of White's influence, although White did provide memorandums supporting a firm stand to Treasury Secretary Morgenthau to assist him in his discussion with other Roosevelt administration officials on what stance to take against Japan in the latter half of 1941. Like the similar Chikov article discussed in chapter 10, the mixture of truth, half-truth, and deliberate distortion in the essay makes Pavlov's reliability on any particular point uncertain.

(引用終)
要するに、このイェール大学出版の『ヴェノナ』では、もっと慎重な表現がなされており、パブロフという人の言述に関しても、その信憑性について疑義を呈しているのである。
邦訳で読まなくてよかったと感じるのは、このような場合である。
中西輝政氏については、ミトロヒン文書に関しても少し踏み込み過ぎていて(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150809)、原書では必ずしもそこまで言っていないのではないか、という感触がある。日本の読者宛に警鐘を鳴らし、英米の諜報活動はここまで解読作業をしているのに、今の日本は現状のままでよいのか、とハッパをかける意味では肯定できるものの、この種の本を何冊か英語で読破した今となっては、日本を中心に世界が回っているわけではなく、世界情勢とはそういう暗部の複雑さを有するものだ、という常識に落ち着く。
となると、この一連の夏の読書の成果としては(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150815)、秦郁彦陰謀史観新潮新書2012年)が最も私にフィットする結果となったようだ。この本は、2012年7月13日に京都四条で購入したものだ。買ってすぐに「コミンテルン陰謀説と田母神史観−張作霖爆破からハル・ノートまで」(pp.148-201)を読んだ当時、田母神論文の問題は承知していたものの、あまりピンと来なかった。だが、今となっては、やはり素人なりに私は、秦郁彦氏の解釈や立場に賛同する。
特に最近、江藤淳氏(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150815)を読み、なぜ今、このような本が脚光を浴びているのか不思議に思った。反米感情から来る江藤氏の甘えのマキャベリズム行動(留学中、妻の入院費をアメリカの財団に支払わせた行為)には違和感があったが、私が感じたのと同じことを秦氏も記されていて(pp.143-145)、安堵感を覚えた。同じアメリカ留学組でも、秦氏の方がよほど自立心旺盛で、きちんとアメリカに順応されてもいるのである。
結局のところ、広く世界情勢を知り、深く自国についても学びながらも、あくまで分に応じて行動し、健全かつ正々堂々とした態度が求められよう。コンプレックスから来る歪んだ民族主義や日本礼賛は、非常に危険である。