ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

イラン問題に関する緊急報告

しばらく、伊予の松山、宮島、広島へ小旅行に出ていました。初めての場所ばかりで、自分なりに多くの収穫がありましたが、まだなすべき課題がたくさん山積みです。出発前には、ほぼ徹夜で一本、原稿を仕上げて送信し、帰宅後は、二日に分けて計4冊の本が届きました。どれも魅力的な内容で、わくわくしていますが、時間の割り振りが課題です。旅の思い出話は後ほど、ゆっくりと。まずは緊急事態から。

「メムリ」(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP463812
緊急報告シリーズ



Special Dispatch Series No 4638 Apr/28/2012


アメリカは軍事選択ができず、経済制裁も効果なし―核協議に臨むイランの態度―



イランと5プラス1との核協議(4月14日)に先立って、イラン政界幹部が、イランは核兵器生産能力を有するが、最高指導者ハメネイの指示で生産しないのである、と繰返し延べた※1。


ハメネイに近い日刊紙Kayhanは、この核協議に関する論説を掲載、イランが核問題の対決でアメリカを敗北せしめ、アメリカには核保有国イランの出現を阻止できる力が最早ない、と主張した。次に紹介するのは、イラン議会議員の発言とKayhan紙論説の要旨である。


イランは核爆弾を製造できるが、当面その意思なし―国会議員の見方


イラン議会(マジリス)の議員モカッダム(Gholam-Reza Mesbahi-Moqaddam)は、4月6日付マジリス・ウェブサイトでインタビューをうけ、次のように述べた。


「核問題に対するイラン政府と人民の抵抗のおかげで、敵の野望は潰え去った。核開発活動は順調に続いている。我々は既に20%レベルの(ウラン)濃縮をおこなっている。20%から75%への濃縮は極めて近い工程である。事実イランは、90%を越える濃縮が容易にできる。しかしながら、科学上技術上核兵器を生産できるとしても、イランはこのコースを選択しない。これは、最高指導者ハメネイ師の方針によるものである。師はいくつかの機会に、このコースがイラン政権の政策綱領に入る余地はないと強調し、核兵器の生産、保有及び使用はイスラムのシャリアに矛盾すると述べている」※2。


イラン脅迫の手段が尽きたアメリカ―Kayhan紙論説


前出Kayhanは、「4月協議を前に過去の教訓に学ぶ」と題する論説を4月8日付紙面に掲載、「過去10年間アメリカは、イランの核開発計画に関する当初の立場から一貫して後退し、今日ではすっかり選択肢を失ってしまった。手持ちカードをすべて使い果たし、軍事選択肢がとれなくなったからである。従ってイランは、優位の立場で交渉にのぞむことができ、妥協する必要はない」と論じ、次のように主張した※3。


アメリカの要求は急下降


アメリカ人が直面する一番の重大問題は、昔も今もそして将来も変らない。(核問題で)イランがいつ決心するか。これが彼等の最大関心事である…過去10年に及ぶ米イ間紛争を検証すると判るが、それはアメリカがイランの立場に禁止ラインをつきつけた10年といえる。いつもアメリカは、過激な要求を押しつけてくるが、有名無実の線で終るのである。


当初アメリカは、イランの核開発計画で濃縮活動とそれにかかわる諸活動の完全凍結を要求した。それから…アメリカ人は、(ウラン)濃縮に同意した。しかし(核)施設の拡張は駄目と言った。それから(ウラン)交換のメカニズムを押しつけてきた。この交換云々は、イランの濃縮計画(の存在)を暗黙裡に受入れたものであり、いくつかの理屈をつけて濃縮ウランを何処かに移すだけの話であった。目下テーブルにのっている(提案)は、これから始まる核協議で、アメリカにとって恐らく一番重要な課題になるだろう。それは、前述の要求を含んでいない。オバマ政権は、すべての(従来の)要求を棄て、「ウラン濃縮レベルの安定化」を要求するだろう。つまり、フォルドウ核施設での20%濃縮をやめさせ、ナタンツ核施設の5%濃縮に限定するという要求である。


この要求に対するイランの反応は別として、要求の変化は一体どういうことであろうか。これまでの要求の変化をグラフにしてみると、要求が急下降していることが判る…アメリカ政府は、いつも大掛りなゴールを設定し、大仰に騒ぎたてながら、これを突きつけてくる。しかし履行できないと気付くと、大騒ぎだけは続けながら現実に合わせ、いつの間にか低目の要求にそっと変えていく。この過程で、議論のまとになっている問題について(アメリカの主張する)解決法は、知らぬ間に雲散霧消する。当初議論の対象になっていたのは、5%濃縮をめぐる問題であったーテヘラン宣言(2010年5月17日イランでイラン、ブラジル、トルコの首脳会談後にだされた)のリコールである※4。しかし今では西側では誰でもこの時代が終ったことを理解している。それで彼等は、この(ウラン濃縮の)カギ的問題が解決されたという前提を静かに受入れる、と示唆しているようである。


アメリカは、イランに核兵器生産計画ありとの主張を取り下げた


イランに関するアメリカのレトリックは変っていく。その変化を調べると、面白いことが判る。アメリカ政府は、イランに関する声明は極力変えないようにしながら、解釈を変えてきた。それも短期間のうちに変えたのである。アメリカ人達は、イランの核開発計画が軍事目的であるのは明らか、はっきりした証拠があると言っていた。現在彼等は、そんなに確信を以て言っていない。西側の情報機関のなかにも、イランに軍用核開発の計画があることを強調するのは、(情報機関の)評判をおとすだけという認識がある。その結果彼等は、先の決まり文句をもう少し含みのある主張に換えた。(今日彼等は)イランは核兵器の生産能力を有するが、生産に踏みきる政治決断はまだくだされていない、と言っている。簡単に言えば、それは、イランがウランを濃縮しているが、それを阻止する方法はないという意味である。


アメリカに軍事的選択肢は無く、経済制裁も効果なし


アメリカ人がいつも繰返している線が、あとひとつある。即ち、「我々はイランの核武装を正式に認めることはない。(核武装国イランの)出現を阻止するためにはあらゆる選択肢を排除しない」という主張である。しかし、これはイスラエルの狂った行状のおかげで明らかになったように、イランのような能力を有する国を打撃する選択肢は使えないということである。たといあっても、検討課題にはならない。


アメリカは、イスラエルが圧力をかけた結果、石油禁輸、中央銀行に対する制裁など(イランに圧力をかける)選択肢を、使い果してしまった。西側が深刻な経済危機にある時、このような状況下であわててこの選択肢をとったため、アメリカはたちまち難問に直面した。世界経済の回復を優先するか、イランの石油(産業)の制裁かで、選択をせまられているのである。この二つを同時に実現するのは、不可能だからである。必死のアメリカは、(二つの目的達成)に矛盾はない、と言い張っているが、この3ヶ月間の原油価格の上昇をみれば、誰の意見が正しいか、すぐに判る。


イランが西側の要求に従わなければ、軍事的選択が使われるという威嚇は、10年前棄てられた話であった。しかるに、少なくともマスコミレベルでは、それを蒸し返したことが起きる。例えばイスラエルにネタニヤフのような人間が登場する場合である。愚かにもイラン攻撃の話を始める。するとその話は、棄却された過去のものとして、すぐに再確認されるのである。つまり、西側の指導者多数が、それにはアメリカとイスラエル等々の政治家、軍将官及び情報機関幹部を含むが、一斉に立上って最高レベルのキャンペーンを展開し、イラン攻撃が不可能であることを、断固として主張する。オバマは「攻撃の話をする者は大言壮語屋で駄法螺屋」と言ったし、イスラエルの前モサッド長官メイル・ダガンはイラン攻撃など前代未聞の狂気の沙汰、と強調している…誰かが実行可能と考える軍事攻撃(の選択肢)は、検討課題からはずれる。オバマの見解によれば、イラン攻撃の威嚇は、大法螺の類いで、アメリカとイスラエルが繰返していればノドに詰まらせるだろう。


強盛国家になるため西側と妥協する必要は無い


西側の二大選択肢、即ち軍事攻撃と石油(産業)及び中央銀行に対する経済制裁は、たちまちのうちに検討課題からはずれることになった。つまり西側はお手上げの状態にある。今回の核協議でイランを脅迫する手段が全く無いということである。戦略レベルにおいて、イランに対する西側の悩みは、ひどくなっているが、ホワイトハウスの高官達は、この歴史的などん詰まりから抜け出す知恵も勇気ないようである…イランは、強盛国家になっていくうえで、西側と妥協する必要がないことを証明しつつある」。


※1核爆弾製造能力に関するイラン政府高官のこれまでの発言については、次の3つのMEMRI報道を参照。
2010年1月11日付S&D No.2743「我々はウランの100%濃縮の権利を持つ―イラン原子力機構議長発言」
http://www.memri.org/report/en/0/0/0/0/0/121/3897.htm
「2007年4月13日付I&A No.342「濃縮ウラン…を持つ国は、核兵器製造の一歩手前に位置する。製造着手は科学、技術の問題ではなく、政治決断の問題―テヘラン・タイムズ」
http://www.memri.org/report/en/0/0/0/0/0/0/2146.htm
2006年8月30日付S&D No.1271「アラク重水プラント竣工に際してのイラン側声明」
http://www.memri.org/report/en/0/0/0/0/0/0/1858.htm
※2 2012年4月6日付Icana.ir
※3 2012年4月6日付Kayhan(イラン)。同日付のイラン紙Khorasanは、「2012年4月6日付ワシントン・ポストは?オバマはトルコのエルドアン首相を介してハメネイ師に、イランが(核爆弾)製造の道を追求しない限り、自分は民需目的の核(能力)開発の権利を認める?と報じた。この報道が正しいとすれば、この声明は、ブッシュ時代、オバマ政権の初期アメリカの政府高官がだしていた声明から、後退したことを意味する」と主張した。
※4 2010年5月17日付MEMRI I&A No.610「イラン主導の世界新秩序―イラン・トルコ・ブラジルの三国核協定」を参照。http://www.memri.org/report/en/0/0/0/0/0/0/4166.htm


(引用終)