ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

北朝鮮に学ぶイラン

以下の記事では、天野之弥事務局長(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130115)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140228)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160427)に関する鋭い批判が含まれている。日本の対応が注目される。
メムリ』の過去ブログ引用は、こちらを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA&of=100)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA&of=50)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA)。

メムリ』(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=IA134417



調査および分析シリーズ Inquiry and Analysis Series No 1344 Sep/21/2017

北朝鮮を見習うイラン―国際機関と超大国を手玉にとって核兵器を取得しミサイルを開発―」
A・サヴィヨン(MEMRIのイランプロジェクト長)・イガル・カルモン(MEMRI会長)



これまでイランの政府高官達は、テヘラン北朝鮮の経験に学んでいる、と述べてきた。地域に覇を唱え、グローバルな核クラブ入りを目指す北朝鮮の足跡をたどるということである。


イランは、超大国との合意を隠れミノとして、二つ共手にした。超大国は、イランを攻撃から守り、査察をさせず、おかげでイランはその核戦力の取得を合法的に進められるようになった。それには、“調査、研究目的”と称する核装置の起爆、継続的なミサイル開発を含む。合意のもとで実行するので、制限はない。


北朝鮮の足跡をたどるイラン


北朝鮮は、アメリカ政府(クリントン及びオバマの両政権)とほかの超大国と合意に達したが、それでも施設を実際に査察させることなく核兵器の開発を続け、長射程弾道ミサイルの開発も続行中である。イランもこの北朝鮮と同じように、JCPOA(包括的共同行動計画)を利用して、実際の査察を許すことなく核兵器の開発を続け、長射程ミサイルの開発と試射を自由に続けている


EU3(英、仏、独)とIAEA(国際原子力機構)に圧力をかけ、軍及びほかの不審な施設の査察をさせず、ミサイル開発問題をJCPOAから切り離したのは、オバマ大統領である。おかげでイランは、北朝鮮がやったように、西側からの大した反応もなく、開発を続けることができるのである。イランは、北朝鮮の活動に対する西側の対応を観察し、これなら自分達も同じことができると判断したのである。この教訓はイランの政府高官達の声明に表明されている。例えば、国家安全保障最高会議の書記長ラリジャニ(Ali Larijani)は、2005年9月に行なった演説で、「再度私は、北朝鮮の行動に注目せよ、と勧告する。2年に及ぶ対北朝鮮交渉が、一体どうなった。ウランの濃縮分野で北朝鮮の核技術を認めてしまったではないか」と言った※1。


イランの最高指導者アリ・ハメネイ派に所属する新聞Kayhanは、2006年10月12日付論説で、「北朝鮮の教訓」と題し、次のように主張した。
北朝鮮は、アメリカの目の前で核爆弾をつくりあげた。大きい圧力がかかり、何年も厳しい国際制裁をうけたにも拘わらず、やり遂げたのである。何者も(北朝鮮を)とめられなかった。これは何を意味するのであろうか。例えば、北朝鮮のような国が、政治上或いは安全保障上の理由で、核兵器保有を決意し、断固としてそれを貫ぬけば、たとい全世界が望まなくても、結局はやり遂げられるということである。超大国は、開発を遅らせることはできるだろう。国家とその人民に経済的心理的圧力を加えることができるだろう。しかし、人民の間から湧きあがる願望は結局不動の政策につながるのである」※2。


イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)機関誌Sobh-e Sadeqは、2008年6月発行の記事で、その月に北朝鮮がヨンボンの冷却塔破壊を決めたのは、核開発に反対する超大国の圧力をかわすための“欺瞞戦略”であった、と主張した。そして、「この施設の破壊は、永年使用されていなかった塔であり、次の核実験の妨げとなるものではない。プルトニウムの貯蔵と蓄積したノウハウのおかげで、少なくともあと8回核実験はできるのである」、と述べた※3。


イラン外務省に近いイラン外交調査センターは、北朝鮮モデルは中東に応用可能であるとして、北朝鮮がその月に実施した長射程ミサイルの発射実験に対するアメリカの反応を精査せよ、と呼びかけた※4。


北朝鮮がミサイル発射実験を行った後、イランの保守系新聞Resalatは、「アメリカは弱腰で、北朝鮮に己れの立場をのませることはできない。北朝鮮は、中国、ロシアの支援を得て、着々と開発を進めている」とし、「オバマ政権はジレンマに直面している。ブッシュ政権時代の厳しい立場をとれば、オバマの宥和的イメージは崩れ、北朝鮮に同調すれば、東南アジアにおける北朝鮮の立場を強めることになる」と論じた※5。


イランは、北朝鮮の経験をベースとして行動しているが、次の諸点で明らかなように、もっと洗練されたやり方をしている。


(1)北朝鮮のように査察そのものを拒否するのではなく、核施設と称する所だけを査察の対象にさせる。つまり、二つの枠組みを作って対応する。これによって西側の協力も得られた。2015年7月4日、協定が発表された日、アメリカの大統領は、「今後IAEAは(査察を目的に)必要な場所、必要な時にアクセスできる」と言った※6。今日アメリカは、査察が特定の施設に限定されているのに、それでもイランが協定を守っている、と言わざるを得ないのである。


(2)テヘランは、長射程ミサイルの開発問題を、JCPOA交渉からはずした。そして、長射程ミサイル問題を規制する国際条約の枠組はない。オバマ政権が、イランの長射程ミサイル開発を野放しにしたため、今や中東と西側が脅威にさらされるようになった。イランは長射程ミサイルを“防御用”と呼んでいるが、どこからみても、攻撃用であることは間違いない。イラン周辺諸国が脅威にさらされるのは、言うまでもない。
ミサイルにはヘブライ語と現代ペルシャ語で「イスラエルは地表から抹消しなければならない」と書かれている。Photo: Fars, Iran, March 9, 2016. 次も参照:MEMRI Special Dispatch No. 6349, Iran Launches Long-Range Missiles Emblazoned With Slogan: 'Israel Should Be Wiped Off The Face Of The Earth,' March 16, 2016.


(3)JCPOAの文書表現も問題である。テヘランが同意した制限事項と条件もそうであるが、一定期間が過ぎた後期限切れになる仕組みになっている


(4)重水問題については、テヘランはすぐ近くのオマーンに保管することを要求し、アメリカはその要求をのんだ。オマーンはイランの代理人であり、必要とあればイランにはすぐ手がとどく。イランは、次世代の遠心分離機の継続的開発を要求し、アメリカはこれものんだ。JCPOAは2025年に期限切れとなり、その後イランは核武装化のためのいくつかの開発過程をスキップできる。


オバマ政権の圧力でEU3とIAEAが同意した査察内容


最近IAEA天野之弥事務局長は、IAEAは査察のためイランのどの場所にも行ける、と発表した。しかし、この発言は誤解を招く。JCPOAは、イランが述べた所以外の核施設を査察することは、許されていないからである。次に紹介するのに、JCPOAで、天野事務局長とヨーロッパが同意した条件である※7。


(1) JCPOAは、イランに対し追加議定書を迂回する特異な査察枠組をつくった。追加議定書は、軍事施設の査察を認めている。イランは、自主的且つ一方的対応として受入れている。つまりイランは、JCPOAに抵触することなく、回避できるのである。


(2) JCPOAは、明確且つ専門的判断の伴なう決定権をIAEAから政治的フォーラムの手に移した。つまり、このフォーラムの権限はIAEAの権限を超越する。これは一種の権限移譲であり、オバマの圧力で天野之弥事務局長が自分の地位を放棄したのである


(3) JCPOAは、査察実施に対し一連の制限を設定した。例えば、IAEAによるクレームは、イランの軍事的ないしは安全保障上の活動を阻害する意図をもってなされてはならない。この用語表現が、安全保障上の施設査察を拒否する手段をイランに与えた。この種査察はイランに拒否する手段を与えた。この種査察は、イランの軍事活動を阻害する意図がある、と言い逃れをして、査察を拒否できる。しかも、手続き上、かくかくしかじかの施設に疑惑があるとして、査察を求める場合、その情報を事前にイラン、ロシア及び中国に知らせることになっている。これが手続の要求するところである。この要求は、応じることはできないので、査察プロセスをすぐにストップすることを狙ったものといえる。


(4) JCPOAは、信用できない査察プロセスを可能とする政治的前例をつくってしまった。イランのPMD(軍事的核計画の可能性に関する報告)ファイルを、事前に決まっている政治的決定によって、閉じてしまったからである。PMDに関するIAEA報告の作成について、イランと協議することになっていたからである。簡単にいうと、このファイルはIAEAが独自に作成するわけにはいかない。つまり、IAEA査察官は施設に行かずその施設の試料はイラン側が採取し、IAEA査察官に渡すのである。当の査察官は、資料が何処のものか確認できない。IAEA天野之弥事務局長は、オバマ政権の圧力に屈し、専門家としては絶対してはならぬアマチュア的で信用性に欠ける手続きを受入れ、自分に託された信用を汚し、独立したプロフェッショナルな権威ある機関であるIAEAを、木偶の坊的存在にしてしまったのである。イランがJCPOAの受入れに条件をつけたのも、一因ではある。更に彼は、イランの拒否姿勢に屈してしまった。IAEAがイランの核科学者に質問することは許されないというわけである。更に又彼は、イランの反対報告書に“PMD”という用語を使わぬことに同意した。PMD問題に関するIAEA報告は、イランには不審な活動があると述べているが、イラン政権がかかわっていると指摘することは避けた。


2015年9月21日、IAEAのイラン側代表ナジャフィ(Reza Najafi)は、イランのISNA通信のインタビューで、つぎのように言った。
「ロイター通信は、パルチンからの試料採取がIAEA査察官の目の前で行われたと報じたが、私は否定する。我々自身が試料をとったのである。これは越えてはならぬ一線である。査察官には、軍事施設に入って査察する権限はない。天野とその部下の訪問は、全くの儀礼的訪問であった。機材の搬入もない。携帯電話も持ちこまなかった。訪問はほんの数分であり、不審な点は何もなく、(パルチンに関する)主張が完全に間違っていることを確認するだけの訪問であった」※8。


次のMEMRI報告も参照:
· MEMRI Special Dispatch No. 6113, Atomic Energy Organization Of Iran Chief Ali Akbar Salehi: We Have Reached An Understanding With The IAEA On The PMD, Now Political Backing Exists And The Results Will Be Very Positive, July 22, 2017.
· MEMRI Inquiry & Analysis No. 1167, Nuclear Negotiations At An Impasse: Leader Khamenei Rejects Agreement Reached On Token Inspection Of Military Sites And Questioning Of Scientists; U.S. Willing To Close IAEA Dossier On Iranian PMD, To Settle For Inspecting Declared Nuclear Sites Only, And To Rely On Intelligence; EU Objects, June 11, 2015.
· MEMRI Special Dispatch No. 6229, Statements By Iranian Deputy Foreign Minister Abbas Araghchi Indicate: IAEA's PMD Report Is Being Written In Negotiation With Iran, Not Independently, November 26, 2015.
· MEMRI Inquiry & Analysis No. 1207, The Prospects For JCPOA Implementation Following The Release Of IAEA Sec-Gen Amano's Report On The PMD Of Iran's Nuclear Program, December 8, 2015.


テーマは上から順に次の通り:


・我々はPMDに関してIAEAと前向きな理解に到達した。今や政治的支援があり、結果は上々となろう…イラン原子力長官言明。
IAEAのPMD報告はIAEA独自の報告ではなく、イラン側との協議でまとめられた。一イランのアラグチ外務次官言明。
・イラン核開発のPMDに関するIAEA天野事務局長とJCPOA履行の見通しについて。
弾道ミサイルの使用に関してはJCPOAに追加措置が絶対必要―マクロン仏大統領
2017年8月29日パリで開催されたフランスの大使会議で、マクロン大統領は非拡散体制の一環として、JCPOAを強くする必要性に触れ、JCPOAが期限切れとなる1925年以降、長射程ミサイル使用問題に関して、追加措置が絶対に必要と指摘し、「この協定(JCPOA)は、フランスの介入のおかげで改善された。非拡散体制に代る選択肢はない。我々はその履行に関して、極めて厳格である。この合意の枠組は良い。2025年の期限切れの後、別の措置で規定できる。これは、弾道ミサイルの使用に関する限り、絶対必要な措置である」と述べた※9。


付録、本件に関するMEMRI報告として、まだ次のものがある。


· MEMRI Inquiry & Analysis No. 962, The North Korea Crisis As Iran Sees It, April 30, 2013.
· MEMRI Special Dispatch No. 1321, Iranian Daily Close to Supreme Leader Khamenei: 'If Any Country Such as North Korea, Concludes, for Political or Security Reasons, That It Must Have Nuclear Weapons, It Will Ultimately Succeed... Even if the Whole World Is Opposed...' October 13, 2006.


テーマは上から順に次の通り:
・イランから見た北朝鮮危機
北朝鮮のような国が政治上或いは安全保障上の理由から、核兵器の取得を決意すれば。たとい世界中が反応しても、結局は取得に成功する…ハメネイ最高指導者に近いイラン紙


[1] 次を参照:MEMRI Special Dispatch No. 994, Iranian Nuclear Chief Ali Larijani: The West Should Learn the Lesson of North Korea, September 26, 2005.
[2] Kayhan (Iran), October 12, 2006.次も参照:MEMRI Special Dispatch No. 1321, Iranian Daily Close to Supreme Leader Khamenei: 'If Any Country Such as North Korea, Concludes, for Political or Security Reasons, That It Must Have Nuclear Weapons, It Will Ultimately Succeed... Even if the Whole World Is Opposed...' October 13, 2006.
[3] Sobh-e Sadeq (Iran), June 30, 2008.
[4] Iran Diplomacy (Iran), April 6, 2009.
[5] Resalat (Iran), April 6, 2009.
[6] Obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office, July 14, 2015.
[7] Section Q of Annex of the JCPOA, pp 42-43, Apps.washingtonpost.com/g/documents/world/full-text-of-the-iran-nuclear-deal/1651.次も参照:MEMRI Inquiry & Analysis Series No. 1325 - Discussion Of Iranian Violations Of JCPOA Is Futile; The Inspection Procedure Designed By The Obama Administration Precludes Actual Inspection And Proof Of Violations, August 18, 2017.
[8] ISNA (Iran), September 21, 2015.
[9] Elysee.fr, August 29, 2017.

(転載終)