ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

一つのパレスチナ和解合意文書

メムリ」(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=IA56609

Inquiry and Analysis Series No 566  Dec/2/2009

エジプトがまとめたパレスチナ和解合意文書
C・ジェイコブ(MEMRIの研究員)


・はじめに


この1年間エジプトは、パレスチナ内部抗争の終結を目的に、ハマスファタハ間の調停工作をおこなってきた。2009年10月エジプトは、双方に和解合意文書の署名を求めた。ファタハは同意したが、ハマスは拒否した。
この文書は、パレスチナ及びアラブ各紙に掲載されたが、中味をみると��パレスチナ人民の抵抗権、郷土と住民の防衛権�≠�強調していることが判る。しかもこの権利は、��名誉憲章�≠ニ称する付属文書に更に詳しく明記されている。この付属文書には、抵抗権に関して二つの条項が含まれている。ひとつは「パレスチナ人民は占領と侵略に対し抵抗並びに蜂起する権利を持つ」とし、二つ目は「抵抗と抵抗の武器は、反占領闘争用に保持される」とうたっている。PA日刊紙Al-Ayyamは、付属文書の存在を指摘したが、内容は発表しなかった。この文書の内容は、ハマス系ウェブサイトwww.palestine-info.info及びカタール紙Al-Sharqに発表されている※1。
 次に紹介するのは、PA紙Al-Ayyamに発表された和解文書の主要点※2、名誉憲章の主要点及び和解合意に関してハマスが提示した留保事項である。


・和解文書―抵抗権の保持
1)パレスチナ解放機構PLO
パレスチナ解放機構は、各派にとって満足のいく諸原則に従って、運営且つ発展させなければならない。即ち、機構は、2005年3月のカイロ協定と2006年6月の民族協定第2項に従って、パレスチナ諸派すべてを含むものとする…。
民族の事業のため、新しいパレスチナ民族評議会(PNC)の設立が必要である。新評議会には、比例代表制の原則に従い、且つ又合意にもとづき、民族諸派イスラム諸派すべてを含み、世界各地域の諸派、団体、機関の代表を含むものとする…。PNCの任期は4年とし、(その選挙は)立法評議会選挙と同じ時に実施され、比例代表制にもとづき(代議員が)選出される…。
2)選挙
 議長選、立法評議会選及びPNC選は、2010年6月26日同時に実施され、(諸派)すべてがこれに拘束される。PNC選挙は、郷土内外の諸派を対象とし、完全な比例代表制とする。一方、立法評議会は、組合せ方式をとる。即ち議員の75%はリスト(比例代表)に従って選出され、残る25%は地域(地域代表)に従って選出される…。
 選挙は、アラブ並びに国際選挙監視のもと、自由、公正且つ透明性のある環境下、ウェストバンクとガザで実施される…議長選と立法評議会選は、エルサレムを含むパレスチナ自治政府の全領域で、実施される…。
3)治安
 我等パレスチナ人民は今尚民族解放の段階に生きていることから、ウェストバンクとガザの治安機関は、郷土とその住民に対して安全を保障しなければならない…治安機関の再建、指揮命令系統の決定、そして諸機関の統合運用のための原則、基準を設定する…。
 敵に情報を渡す利敵行為は、郷土、パレスチナ住民或いは、抵抗運動を傷つけ、高度の背信行為とみなされ、相応の刑罰を受ける。
 政治拘留があってはならない。
治安機関は、パレスチナ人民の抵抗権、郷土と住民を守る防衛権を尊重する…。
各機関に認められた枠組をはずれて軍事機構をつくることは禁じられる…治安機関は人権の原則と住民の名誉を尊重し、(治安機関同士の)協力を保持する…武器の使用は、任務遂行の目的以外は禁じられる…。
パレスチナ議長命令によって、最高治安委員会が設置される。委員会は、合意により専門幹部で構成される。エジプト側及びアラブ諸国代表が同員会を査察し、ウェストバンクとガザにおける委員会の民族合意文書履行をモニターする。委員会の任務のひとつは、治安方針の策定とその遂行監督である。エジプト及びアラブ諸国の支援を得て、パレスチナの諸治安機関をウェストバンクとガザに再建し、その指揮命令系統と統制を定める…本合意文書の調印後直ちに、前治安機関―警察、民族治安部隊、民防部隊―のメンバー3,000人は、ガザにある既存の治安機関に統合される。人数は、合意したメカニズムに従い、立法評議会選挙まで漸次増員される…。
治安機関の任務は次の通り。
民族治安機関:郷土主権の防衛…外敵からの郷土防衛、内外の脅威対処、海外代表部の軍事部門代表…
内務治安機関/予防機関:PA領内におけるスパイ活動に対する戦い、PA内務治安を危険にさらす犯罪のモニター並びに防止、政府機関、公共の機関及びその職員に対する犯罪の摘発…。
総合諜報機関:総合諜報機関法に従い、パレスチナの治安、安寧を危険にさらす行動の防止、下手人摘発、スパイ活動、陰謀、破壊活動その他郷土の治安、統一、独立を危険にさらす工作の摘発…。
4)民族和解
 相互にやり合っているあらゆる形態の扇動と嫌がらせを直ちに中止すると共に、(一連の指示の)履行をモニターする。社会の全セクター(学校、大学、公共団体)が参加する大規模な集会を開く。和解と寛容の雰囲気醸成を目的に、情報キャンペーンを行う。この目的を達成するため、モスクを含む情報伝達手段をすべて利用する…パレスチナ部内の暴力と混乱で傷ついた者には耳を傾けてやり、精神的打撃、物的損害及び資産喪失を推算し、補償方法を決める…住民を襲い物的損害を与える者に対しては、組織、部族及び親族一家の支援を排除し、そのための行動をとらなければならない。名誉憲章がだされるが、内部抗争の禁止に力点をおき、そのためのモニター機関を設ける。
 パレスチナ民族和解のための特別名誉憲章(付則�T)策定に合意する。
5)民族和解履行委員会
合同委員会の設置:メンバー数16名、ファタハハマス、(その他の)諸派及び無所属人士より選出する。まずファタハハマスが委員会メンバーリストをひとつ作り、合意によりメンバー名が確定した後、アッバス議長が合同委員会設立の議長令をだす。
合同委員会の権限:権限は、PLO議長及びPA議長としてのマフムード・アッバスに発する…(合同委員会の)役割は、PAにおける一連の選挙の実施と組閣を以て終る。
合同委員会の任務:合同委員会は民族合意文書を履行する。この文書は郷土で履行されるが、委員会任務は、関係諸派間の接触を通し、議長選、立法評議会選及びPNC選の実施に向けた環境作り、パレスチナ内部の和解過程の監視、ガザ復興事業のモニターを含む。
ウェストバンクとガザのPA諸派機関の統合:ウェストバンクとガザのPA諸機関は、パートナーシップの精神、民族合意と統一増進の諸原則にもとづき、関係諸派の協調によって統一される…。
 非政府系諸団体、諸機関の現状回復:閉鎖され或いは(資産を)没収された非政府系諸団体と諸機関は、民族合意文書の調印に伴ない直ちに、ウェストバンクとガザにおける、2007年6月14日時点の現状に回復されなければならない。まだ、資産返還と補償の処置をとらなければならない…。
ファタハハマス)の分裂に伴なって生じた民事及び行政上の諸問題の処置:(2007年6月14日後)分裂に伴って生じた民事及び行政上の諸問題を解決する。問題には、分裂によって傷ついた労働者の問題、政府と立憲諸機関の再統一問題、司法の独立問題、基本法と該当法律及び民族合意文書にもとづく上記諸機関の機能回復問題を含む…更に人事問題については、職員任命、昇進、解雇、給与支払い停止、諸機関と省庁間の(人事の)可動性が含まれる…。
6)拘置者
 各派は、合意文書調印後直ちに拘留中の他派メンバーを釈放する。全拘留者の釈放後、各派は、釈放を拒否した拘留者リストを、釈放拒否理由を付してエジプトへ渡し、本件に関する報告をファタハ及びハマスの各指導部へ提出する。


・名誉憲章
 次に紹介するのは、ハマス系ウェブサイトpalestine-info.infoに掲載された憲章内容である※3。
パレスチナ人民は、その長い歴史のなかで、民族のアイデンティティを形成してきた。郷土と大義と聖地防衛に倒れ或いは傷ついた人々を守りその意志を継ぐことで、築かれたのである…パレスチナ対話会議の民族和解委員会の我々は、内部正面を固める必要があるとの認識に立ち、その結束を通して、我が人民の目的顕現と我が権利の防衛、我が領土の解放をめざすため、分裂のもたらすネガティブな影響を考慮し、この名誉憲章を守り、各項に従って行動することに同意した、
 分裂に終始符をうち、分裂がもたらした好ましくない結果に対処し、我々の内部正面を固める意志を明らかにするため、そしてまた遺憾な事態の再発を防止するため、名誉憲章は次の諸原則を含む。
●状況の如何を問わず、深刻な相違があっても、内部戦闘を禁じ、武力紛争から距離をおく。
●これまでにパレスチナ人が到達した一般原則に力点をおく。即ち対話が諸派間の連携、並びに紛争解決の唯一の方法である。
●政治上の帰属をベースとした所謂政敵の逮捕、追放、迫害を禁じる。
●法の尊重:法のもとですべての住民が平等であることを強調しなければならない。
●個人及び集団の一般的且つ個人的自由の保障、保護…。
●メディア或いは社会を通した、あらゆる形態の扇動を禁止する。
●政治上のパートナーシップと権力の平和的移譲の原則。
パレスチナ人民は占領と侵略に対する蜂起と抵抗の権利を持つ。
●抵抗と武器の保持は占領と戦うためであり、(武器は)親族、部族抗争や組織内抗争に使ってはならない。
●能力と専門知識をベースとした雇用原則を全員に認める。
●政治的帰属を理由とした解雇、追放、給与支給停止を禁じる。


ハマスの留保と要求
 10月下旬ハマスは、和解協定の署名拒否を発表した。ハマスの主張によると、2009年9月に提示された文書に関しては、署名に同意したが、今回署名を求められた文書は、内容が違う。いくつか削除された個所もある。そのためハマスは、留保し説明を求めたのであるという。
 次に紹介するのは、ハマスの問題提起と留保点である※4。
1.アッバスは、ハマスがカルテットのだした条件(ハマスイスラエル承認を含む)を受入れるなら、その時初めて和解協定に署名すると言ったが、どういう意味か。
2.公認のもの以外の治安機関は禁じるとあるが、これは、ハマスの治安機関が解体されるということか。
3.PA治安機関と友好諸国との協力関係をうたった個所について、ハマスの見解では、これはパレスチナ側とイスラエルの治安協力を合法化するものであるが、この点はどうか。
4.3,000人の(PA)治安要員をガザへ戻すとあるが、1万1,000人のハマス執行部隊の地位はどうなるのか。
5.アメリカのディトン将軍率いる治安部隊がウェストバンクにいるが、協定文書には一切言及されていない。これは、ウェストバンクの治安事項に関してハマスの関与を一切排除するということか。
6.文書には、抵抗権を認め尊重するとうたいながら、その一方で抵抗と抵抗の武器の保持を禁じている。つまり、文書は抵抗の権利を認め且つ非合法化している。この点はどうか。
7.PA議長が権限の発する根源とあるが、どういう意味か。
8.ハマスは、次の条件でしか署名しない。
 ロードマップとカルテット原則に関するアメリカの要求を拒否する。
 次の選挙でハマスが勝利した場合、アラブ及び国際社会はハマスを認知する。
 ガザの封鎖解除とラファ検問所の開放措置。
 エジプトの刑務所に収監されているハマスメンバーの釈放※5。

※1 ファタハPAは、ロードマッププランを支持し受入れを誓ったが、当のロードマップは、抵抗とすべての武装部門の非武装化をうたっているので、カタール紙はファタハが付則文書に署名したのか、それとも和解文書のみに署名したのか、と問うた。2009年10月21日付 Al-Sharq(カタール)。
※2 2009年10月14日付Al-Ayyam(PA
※3 2009年10月14日付www.palestine-info.info
※4 2009年10月19日及び10月23日付Al-Quds(エルサレム)2009年10月19日付www.palestine-info.info 2009年10月18日付Al-Hayat Al-Jadida(PA
※5 同上

(引用終)