ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

マルワン・バルグーチ

やはり内実はこうだった。だから、「和平プロセスは戦争プロセスだ」と看破したダニエル・パイプス先生の言説は(http://www.danielpipes.org/6140/arab-israeli-conflict-peace-process-or-war-process)(http://www.danielpipes.org/7653/peace-process-or-war-process)、長年の注意深い観察と、このような内部資料に基づいて引き出された結果であったことが、ここからもわかる。

メムリ』(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP637616


緊急報告シリーズ   Special Dispatch Series No 6376 Apr/12/2016

「占領者との治安協力を止め、総合インティファダを開始せよ―マルワン・バルグーチの主張―」



第2インティファダ時、テロ攻撃の組織化を担当し、5回も終身刑の判決をうけてイスラエルの刑務所で服役中のファタハ指導者マルワン・バルグーチ(Marwan Al-Barghouti)が、最近パレスチナ自治政府PA)のアッバス議長の後継者として再び名があがるようになった。アッバスPA議長、ファタハ及びPLOの議長としての遂行能力を問われるようになり、アッバス自身次の議長選には出馬しないと言っている。バルグーチの妻ファドワは、2016年2月24日に、夫が議長選に立候補する予定である、と言った※1。


バルグーチは、パレスチナ人から幅広い支持を得ている。特にファタハの活動家に支持されている。PLO執行委員会書記エレカト(Saeb Erekat)、ファタハ革命委員会書記マクボール(Amin Maqboul)を含むファタハの幹部達が、議長選ではバルグーチを支持すると宣言している。問題は彼が服役中ということである。“パレスチナマンデラ”という仇名がつき、刑務所から人民を導いた南アフリカの指導者にたとえられたこともある。


昨年フェースブックでバルグーチを議長にというキャンペーンが展開された。例えば2015年5月に“議長にバルグーチ”というスローガンがハッシュタグ付きで出廻り、1015年12月には、“捕因の指揮官マルワン・バルグーチに忠誠を誓う”というキャンペーンが、フェースブックにのった。妻ファドワの発表に応えて、このフェースブックは「捕因の指揮官マルワン・バルグーチは、パレスチナ人民の意志に留意し、議長選出馬の意図を宣言した。この意図は、パレスチナ大義の方向を正し、民族運動を救いだすうえで重大な決断である」と主張している※2。


議長選出馬意図をはっきり宣言している者は、バルグーチ以外にいない。そのバルグーチの立場も、2016年3月26日以降完全に明確というわけではない。妻ファドワは、選挙日程も決まっていないのに立候補云々を述べても意味がない。日程がはっきりすれば、それはその時のことだ、と言った※3。新聞は、大半が非パレスチナ系の新聞であるが、立候補する可能性のある人物を数名あげている。元PA首相ファイヤド(Salam Fayyad)、PLO執行委員会書記でパレスチナ側主席交渉官エレカト(Saeb Erekat)、ファタハ執行委員会メンバーでアラファトの甥キドワ(Nasser Al-Kidwa)、パレスチナ立法評議会メンバーのダーラン(Muhammad Dahlan、本人は、議長打倒陰謀でアッバスが非難した後、ファタハから追放された)、パレスチナフットボール連盟会長でファタハ中央委員会メンバーのラジョウブ(Jibril Rajoub)、ウェストバンクのPA治安機関長ファラジ(Majed Faraj)、前パレスチナ統合情報機関長で現在エリコPA士官学校長チラウィ(Tawfiq Al-Tirawi)である。


2016年3月22日、PA日刊紙Al-Qudsが、バルグーチの執筆記事を掲載した。PAアッバス議長の政策を批判し、大意次のように主張している。


「最近発生している攻撃の波をパレスチナ人は“人民の覚醒”と呼ぶが、これは交渉失敗に対する回答である。交渉は無意味で幻想にすぎなかった。しかし、残念なことに、この蜂起勃発以来、パレスチナ、アラブ或いは国際勢力のいずれも、この覚醒をとりこんで新しい総合的人民蜂起に発展する動きがない。このような蜂起の開始前に、民族的一体性の形成が必要である。更に重要なのは、民族解放の論議を復活させる必要があるということだ。無意味な交渉と、現実に全く即しない“合法性と国連決議”固執で、民族解放が、卑小化されてしまった。



民族解放主義の復活によって、PAイスラエル依存という軛から自由になり、治安協力に終止符を打てる。更にPAと抵抗グループの役割配分が可能になる。つまり、抵抗集団がイスラエルと武力対決を推進し、PAは住民に対する諸サービスを実施する。要すれば役割分担である。



現在のPAは、その役割を放棄し、パレスチナ人民に対する自由を否定している。現状では若い世代が意志決定者のサークルに加わり、民族解放の行動に参加することができない。PLOは、民衆主動の解放運動と両立できる政治的社会ビジョンを与えることができない。



民族解放運動の論議復活は、タクフィル―IS(イスラム国)やアルカイダのようなグローバルジハード組織―からパレスチナ人を明確に引き渡し、進歩と自由を擁護する陣営内の抵抗、解放運動としての位置付けを可能にする。



更に、ファタハハマスは和解し、パレスチナ諸派はすべてPLOの傘下に入り、若者と女性を政治に参加させなければならない。腐敗撲滅も重要だ。PAを支配する独裁政治、無気力、世界の進歩から取り残されていると思うあきらめから、脱却しなければならない。イスラエル、諸外国に居住する者を含め、すべてのパレスチナ諸派代表の参加するサミットを開いて、意志統一をはかる必要がある。次に紹介するのは、その記事内容※4。



民族統一を推進、総合インティファダを開始せよ



歴史は前進しなければならない。その道に立ちふさがるのは、重大な過ちである。帝国主義、不正、迫害、占領、隷属、搾取、人間の尊厳を傷つける攻撃等に対する人民の抵抗は、歴史の自然な進歩と軌を一にする。更に、迫害にさらされ帝国主義植民地主義の犠牲になっている人民には、あらゆる手段による拒否、抵抗、ボイコットしかない。停戦や共存といった類いの話が先にくることはない。


最近の人民蜂起は、2000年のエルアクサインティフアダに酷似しており、帝国主義者とそれに従属させられている者とのむごい差異を、反映している。この人民蜂起は、交渉の選択肢が失敗したことに対する回答であり、立場と方向性の転換を示唆している。



この人民蜂起は、勃発して5ヶ月続いており、止まる様子はないが、目下ローカルの域にとどまっているのは、残念である。アラブと国際諸派が、政治上、社会上、情報活動上、財政上この蜂起をとりこむ動きがない。或いはこれを、惨めな指導者と政策で動いた前の抵抗の継続ではなく、目的と政治見解を有する総体的人民インティファダへ推進してくれるところへ来ていない。



我々は、この覚醒を必死の勢いで新しい型の人民蜂起に是非転換する必要がある。第1、第2のインティファダと違うものにしなければならない…しかしそのためには、派閥闘争に終始符を打ち、それから民族統一を顕現しなければならない。それが人民覚醒の起動力である。それは又民族解放運動と被迫害人民の解放運動の勝利に不可欠である。


PAは解放運動から、パレスチナ人民と占領者の調停役に堕した。民族解放を復活せよ


民族統一は重要だが、危機のなかで現われるもっと重要なものがある。それは、民族解放の方向復活である。(この方向性が)アラブ世界の民主的且つ進歩的勢力との連帯再建、世界の人民解放を支援する平和勢力との連帯復活を可能にする。

無意味な交渉と政治解決の道は、現実とはかけ離れた状態にある体制の合法性と国連決議を追い求めたため、我々から(パレスチナ民族)解放の思考を相当に奪ってしまった…。


民族解放の思考を復活させることで、我々は多くの要求から解放される。多くの要求がPAを民族解放運動から、パレスチナ人民と占領者の間に立つ調停者へ変質させてしまった。この20年間次から次と終りのない日常問題を扱うだけの存在になったのである。解放運動のPLOを踏みつけにしてPAが喧伝されたわけだが、それはPAが強かったからではなく、PLOの弱さのためであった。そこで出てくる問題は、PA解体がPLO復活の必要条件であるか、である。


解放運動の再導入は、抵抗とPAの相互補完の関係に変えることになる。PAは、経済、財政、教育、保健衛生の役割に限定される。そして、占領者を相手とする治安の役割は放棄し、帝国主義者とその組織を相手とする戦いは、抵抗組織に任せるのである。


PAは役割に背き人民の自由を奪った


PAは、郷土の両地域(ウェストバンク及びガザ)での役割に背き、住民の自由を奪った。民族解放組織が、住民の郷土を解放する一方で住民の自由を抑圧すべきなのか。考えられぬことである。考えられぬことはほかにもある。どの政治組織も、諸派をコントロールせずして、(パレスチナ人民の)未来をコントロールすることなど考えられない。自由とは、民族の進路を築き、各段階に適した段階に従って手段を講じ、それを投入できることである。諸派と組織の思想に停滞と委縮が生じ民族全体にそれが影響する時、それに活を入れる触媒役を果すのも自由である。この(イデオロギー上の)硬直化は、革新を阻害し、若い世代が重要な地位につくことを妨げる。パレスチナ人の民族事業を停滞から救いだすことを含め、若い力の参画が必要である。硬直化は、若者が自分の未来を築く機会を奪う。未来を背負う世代が民族解放活動へ参加しようとしても、ドアを閉ざすことにもなる。


我々が現段階の欠陥を克服したいのであれば、民族解放の方向とそのための構造を復活させる必要がある。そして若い世代を政治機構の中へとり込まなければならない。かくすることで我々はこれまでとは違う民族解放の道をセットできるのだ。



民族問題を中心に据えタクフィル思想を克服せよ


今日、不幸なことにタクフィルイデオロギー(ほかのムスリムを異教として非難するイデオロギー。典型がグローバルジハード組織である)が入りこんでいる。このイデオロギーは野火のように広がりつつある。特に若い世代のサークルに浸透している。現代のツールを使い、タクフィル思想の受入れとなる土壌(即ち占領体制がつくりだす)を利用して広がっていく。


閉鎖的で過激なユダヤ民族主義内でのエスカレーションに照らして、我々は民衆主動の民族解放を堅持しなければならない。それはパレスチナ民族憲章、(1988年の)独立文書パレスチナ諸派の政策綱領に明示されているところである。



不幸にしてPLO諸派は、民衆主動民族解放の構想に同調する新しい政治・社会・経済・教育ビジョンを提示できなかった。


民衆主動民族運動の復活と優先的断行が、我々とタクフィル傾向の間に明確な線を引くと共に、解放、抵抗運動としての我々の立場を鮮明にする。我々は、イスラエルがどっぷりつかっている戦争と人種主義、植民地主義、強権主義と対立する解放、進歩陣営の一員である。パレスチナ解放の勃発を主導した尖兵達は歴史的瞬間を手にして、PLOを解放、民衆主動そして正義の勢力へ入れたのであった。我々は(オリジナルの)状態を復活できるのであろうか。


PAは現覚醒の潜在力を理解していない


安政策に関しては、占領者と戦っているのに、その相手との治安協力など考えられない。パレスチナ自治政府が、失敗している社会活動の枠組と価値観を築きあげようとしながら、女性や若者、そして自由の発展を妨げている古びた法に見て見ぬ振りをし、同時に解放に向って前進中などとは言えないのである。土地の解放と人民の解放を分けることはできない。教育、イデオロギー、文化、そして法と掟の革命から逃れることはできない。我が人民のため、不動の信念を植えつけ、若い世代に自由、帰還そして国家独立を達成するため、闘争継続に希望と自信を与える。これが大切である。


パレスチナ自治政府は、民族のコンパスとなる覚醒の意味を確立できなかった。民族のコンパスがあれば我々は、交渉の幻想と偽りの平和の道から離れ、新しい道をつくっていけるのである。公的な指導部は、この歴史的瞬間をとりこまず、相変わらず旧来の方向をたどり同じ手段に依存し、修正の道の第一歩を踏みだした大衆から遊離している。…そしてパレスチナ問題をおおっているアラブ世界の劇的状況をかくれみにして、パレスチナ大義を中心に置く作業を怠っているのである。



民族解放の代償に耐える新しいエリートの形成が必要



現在の危機から脱出するため、我々は非劇的な内部抗争に終始符を打ち、民族和解を達成しなければならない。パレスチナ民族解放と体制を新しい形にする必要がある。その基本になるのが、民族憲章、独立文書、捕因の人々がまとめた民族コンセンサス文書※5、である。更に機構については、PLOPA及びパレスチナ民族評議会(PNC)、立法評議会等の機関に、すべての民族諸派が参画する必要がある。新しい血と精神を注入することも肝腎である。腐敗、非合法の不当利得、放縦、無力、失敗、強権主義、そして後退から離脱し、民族解放の段階へ入る。そしてそのための代償を払う用意がある。そのような新しい、ダイナミックで力強い政治エリートを形成しなければならない。


我々は、社会の50%を占める女性を同等のパートナーとして迎え、若者と女性が参加する新しい(社会)構造を必要とする。占領とシオニスト植民地主義の計画にトータルな形で抵抗する原則を採用しなければならない。


この途方もない事業の遂行には、すべての政治、社会経済活動家、学識者、青年、女性、解放囚人、1948年時点の領土そして海外の居住者の代表が参加して、民族サミットを開き意志の統一をはからなければならない。


[1] Alresalah.ps, February 14, 2016.
[2] Facebook.com/President.marwan.barghouti, February 24, 2016.
[3] Amad.ps, March 26, 2016.
[4] Al-Quds(Jerusalem), March 22, 2016.
[5] イスラエルの刑務所内で、パレスチナ諸派代表がまとめた2006年の文書。 ハマスイスラムジハードをPLOへ入れるように呼びかけている。

(引用終)