碩学のことばから (1)
『三谷隆正全集 第五巻 信仰と生活・書簡・英文・年譜』岩波書店(1966年)から
・その世界観に於て自分には反対な傾向の書物でも、反対の世界観についての独自な判断を下す為には矢張り読まなければならない。(「ヒルティの読書論」『聖書講義』昭和十六年一―三月号)p.22
・『希臘人があのやうに比類を絶して偉くなつたのは、彼等は我々現代流の学問を知らなかつたからである。現代人の学問といふのは他人が知つた事を知つてゐるといふ事に存する。』(ヴィンケルマン)(「ヒルティの読書論」『聖書講義』昭和十六年一―三月号)pp.24-25
・それに対しては最も無学な聴衆といへども斯くべからざる勘を持つて居るのである。だから演説者にとつて第一に大切な事は自分の信じ又知つて居る事だけを話すといふ事である。(「ヒルティ雄弁論」『聖書講義』昭和十六年六―八月号) p.32
・ショウペンハウエルはぞんざいな文章を書く人は自分で自分の考を尊重してゐない人なのだと言つたがその通りである。(「ヒルティ雄弁論」『聖書講義』昭和十六年六―八月号)p.35
・自分自身の利益だとか、殊に自分の名誉、又自負の為に語るのでなくて、常にたゞ他の為、事柄自体の為に語り、且出来るだけ自分一身の事は介意しないといふ心構が大切なのである。(中略)人はその生活に於て自分といふものを考へなくなると同時により力強く、より大胆に、又世間に対して不羈独立になるのである。(「ヒルティ雄弁論」『聖書講義』昭和十六年六―八月号)p.37
・彼は自分に物質的に利益が有りさうなものだけを堅持して、他のすべてはかなり平気で棄てゝしまふ。その結果は屡々極めて大なる不利を招くのである。而もかれには此事が分からない。何故ならば利己主義は人を愚昧にするから。かくて彼は結局人生の失敗者になる。(「ヒルティ友情論」『聖書講義』昭和十六年九―十二月、同十七年一―二月、四―六月号)p.47
・少年時代の教育は大切である。上流家庭に人となつて、小学校も中学校も特権階級専属の学校にのみ学び、平民特有の素朴な情誼に接触することなしに成人するといふことは、或る重大な欠陥を身につけることではあるまいか。(「ヒルティの生涯」守谷英次(訳)『教育の仕方』再版所収 昭和十七年九月)p.98
・いつたい学問でも芸術でも政治でも、それに新生命を吹き込むやうな仕事をした人々は、大抵その道の素人である。玄人連は多く所謂アカデミシァンであつて、型にはまつた仕事しか得でかさない。政治の新生面を拓くものは、頽廃せる政界の玄人でなくして、純真なる素人政治家であらう。芸術も素人によつてのみ、新しきいのちを呼び醒まされるであらう。(「ダーウィンの嘆息」『永遠の生命』昭和七年五月号)p.221
・我らの祖国は今未曾有の国難に面している。(中略)その重任を全うするために一番大切なことは、ひとりびとりが人知れず黙々として勉強しぬくことだ。見物人の居ない所で誠意を傾けつくすことだ。人の顔を見ないことだ。唯神様をのみ仰ぎ望むことだ。神様はいついかなる場合に於ても、私達ひとりびとりをちやんと見ていらつしやる。人は表面しか見ません。(「学窓を出る諸君に」『聖書講義』昭和十五年三月号)p.257