ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

いずみホールでのリサイタル(2)

今、これを書きながら聴いているのが、ヒラリー・ハーンスウェーデン放送交響楽団が演奏するシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲作品36です(指揮はエサ=ベッカ・サロネン)。
何やら、こむつかしそうな曲なのですが、先日、お目にかかったばかりのヴァイオリニストによる去年の作品だと思うと、急速に親しみがわきます。このCDには、シベリウスのコンチェルトも入っていて、ライナーノートには、ヒラリーさん自身の(ただし日本語訳)二曲との出会いや自分の中での変化が綴られています。こういう趣向もいいですね。演奏者が、いったいどういうつもりで曲を演奏しているのかが伝わらないと、曲そのものが素晴らしいのはともかくとして、一重の感動で終わってしまいますから。
CDの説明からは、ヒラリーさんの一つの曲に対する姿勢が如実に伝わってきます。

16歳になったとき、私が師事していたヤッシャ・ブロツキー先生から、シベリウスを勉強する時期がきたと言われました
何カ月か練習し、何度か予備コンサートで演奏したあと、私はシベリウスの協奏曲をオーケストラとの長期ヨーロッパ・ツアーにもっていきました
そして数年間折にふれ演奏したあと―自分がいつもそうするように―しばらくこの曲から遠ざかりました
私は新しい楽譜を買うと、たいていいつもすぐには手をつけず、しばらく置いておきます。でも、今回ばかりは待ちきれませんでした
ある部分ではまったく新しい運指法を練習し直す必要がありました
弾きこなせるようになるには、しばらく時間がかかったのです
時間をかけて丹念に学んだことが、私のテクニックと音楽にたいする考え方をべつの次元に引き上げたのです」。

(以上、Schoenberg/Sibelius,Violin Concertos, Hilary Hahn, Swedish Radio Symphony Orchestra, Esa-Pekka Salonen, Deutsche Grammophon, (2007)の解説pp.3-6より抜粋。訳は木村博江氏)
もう一枚借りてきたCDは、帰宅してすぐに聴いてしまいました。カラヤン指揮でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による計16曲のグリーグシベリウスです。
ペール・ギュント第1組曲(op.46)第2組曲(op.55)
・ホルベルク組曲(ホルベアの時代から)op.40
・悲しきワルツ op.44
トゥオネラの白鳥 op.22-2
交響詩フィンランディア≫ op.26-7

最後のフィンランディアは、讃美歌集にも入っているので(『讃美歌21』ならば532番「やすかれ、わがこころよ」)、もう語るまでもありませんね。
音楽の友』2009年2月には、興味深い記事が幾つか掲載されていましたので、少しご紹介いたしましょう。

アシュケナージ「我々は今、大変な時代に生きています。今起こっているグローバルな経済危機は、多くの人々の生活を脅かしています」「世の中は今、大変複雑になっており、突然家を失ったり、財産を失うこともあるのです。そのような時代で、私たち音楽家がどのように音楽を演奏することができるか、これは私たちが背負っている大きな課題です」。(p.18)

[コンサート・ベストテン2008](pp.92-96)
・苦しいから余計がんばる
・文化でもって県や府を活性化させるということも考えるべきです。
・文化というのは、生きるための必須条件と同等にみなければ、人間として非常にアンバランスなことになってしまう。
・概して自主運営オケの方が、よりいい企画、いい演奏を実現している傾向にあるという皮肉な結果を生んでいる。とくに自主運営のオーケストラの頑張りようはすごい。
演奏家も地方に行ったときは、ちょっと気を抜いた演奏をする人がいるようだけど、これは良くない。いい演奏あって聴く側も目覚めるのだから。

そして、その「ベストテン」の座談会で、寺西基之氏が「庄司紗矢香ストラヴィンスキーのコンチェルトが素晴らしかった。彼女とか佐藤俊介とかは、若いけれど本当に第一級のヴァイオリニストだと思います。」(p.94)と述べている点にも注目しました。
さて、前置きが例によって長くなってしまいましたが、その庄司紗矢香さんのヴァイオリン・リサイタルについて、2009年1月号の『音楽の友』(p.28)から、彼女自身がどう語っているかを見てみましょう。これまた、非常に興味深いものです。

「1曲ずつ思い入れを込めて選んだプログラムですが、あえて一晩に二人のイスラエル人作曲家をいれたのは、2008年のイスラエル国独立60周年に向けてパリの多くの本屋で何かとイスラエルを特集していたことも影響したと思います。私が多くのユダヤ人に出会い助けてもらったこと、そして思春期を過ごしたドイツ語圏の古典音楽への愛着、両国の歴史を想うと同時に、私自身の今に身近に感じられるものです。イタマールとはずっと前からブロッホをやろうと話していたのになかなか実現しなかったので、今回やっとできるのは嬉しいです。シューベルトは弾きこめば弾きこむほど惹きつけられます。常に現状に対して完全に幸せになれない何かがある。迷い、儚さ、脆さ、人間としての純粋さ、そこにすごく惹かれたというか。」「演奏会にはがんばって行くようにしています。」

その後、1999年のパガニーニ国際コンクール史上最年少での優勝を尋ねられ、「そういえばそうだったという感じであまり意識していなかったのですが、このリサイタルが10年の節目という感じでしょうか」と締めくくっています。
あ、ごめんなさい。明日、リサイタルの続きを書きます。衣装については、雑誌でも見かけたおなじみのもので、NHK音楽祭での「魅惑のヴァイオリン」でチャイコフスキーを演奏した時と同じ、えんじ色がかったシンプルなドレスでした。