ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ギドン・クレーメルと井上道義氏

たった今、帰って参りました!ザ・シンフォニーホールで開かれた、オーケストラ・アンサンブル金沢の大阪定期公演です。指揮は井上道義氏、ヴァイオリンのソリストギドン・クレーメル氏で、クレメラータ・パルティカとの共演でした。どれもなじみのある曲ばかりで、楽しくあっという間の2時間18分でした。
ギドン・クレーメル氏は、是非とも生で、と長年願っていたところでしたので、とても光栄です(参照:2007年9月8日・9月9日・2008年2月25日・5月8日・5月20日付「ユーリの部屋」)。かなりお年を召されましたが、演奏スタイルはテレビで見たのと全く変わらず、ひょうひょうとした長身に口を少し開けて力を抜き、深くて暖かみのある音色に、人生の懊悩を垣間見させるようなかすれ音も混じり、時折膝を曲げたり斜めに傾いたり、自由自在に余裕の姿勢で奏されていました。靴音も入って、生演奏のよさを感じます。私の席は2階席の向かって右側で、ちょうどよい角度で指揮者とソリストを拝見することができました。曲目はシベリウスのヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47。
この曲は、ロンドン交響楽団庄司紗矢香さんとの共演を京都コンサートホールで聴いたのが、2004年3月のこと。その後は、神尾真由子さんのチャイコフスキーコンクールでの演奏で、ますます有名になりました。もともと、好きな曲の一つでしたが、この二人の若いお嬢さん達が全身で弾くのとは違い、やはり年齢を重ねた渋い音で落ち着いていました。第三楽章の最後のクライマックスで、ピチカートが聞こえなかったのですが、それはそれで、味わいがあります(?!)。
実は、第二楽章に入る前に、指揮の井上氏がさっさと舞台袖に入られてしまったので、どうしたのかな、と思いましたが、その間、クレーメル氏は音合わせをされましたし、何かの打ち合わせでもあったのでしょうか。第一楽章の終わり頃が、やや乱れたように感じたのですが、どうも二小節ぐらいずれていたような....。もちろん、そこはプロですから、最後の音はぴちっと揃いましたけれども。
そもそも、ヴァイオリンを高々と水平に持ち上げて舞台に入られたクレーメル氏。譜面立てで楽譜は見ていたものの、音合わせもなく、いきなり一楽章が始まったので、さすがは、と思っていましたが、アンコール後の井上氏の壇上からのご説明によれば、「今日は彼、ゲネプロをやらなかったんです。音がどれだけ入るかわからず、舞台前にこれ(機械)を置かれているのに、さすがはソ連育ちですね、迫害にもめげず(弾き通しました)(笑)」とのことでした。確かに、テレビカメラが三台も入っているのが、向かって右側から見えましたから、いきなり本番の録画で、指揮者も困ったのでしょうね。
それにしても、あっという間の35分でした。クレーメル氏をこの目で拝見できて、実に忘れがたい日です。と思ったら、二回のカーテンコールの後でアンコール。イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタOp.27より第5番ト長調。3分ぐらいの、これも枯淡の域に達した演奏でした。こちらは、ピチカートの多い初めて聴く曲。(後注:実は、自宅にある千住真理子さんのCDに入っていました。でも、申し訳ないけれど、10年ぐらい前の千住さん、「イザイ弾きと呼ばれたい」と書いていた割には、リサイタルではミスの多い演奏だったんですもん。それ以来、ラジオを除いてイザイを聴かなくなってしまいました。演奏家の仕事は一期一会で、本当に責任が重いですね!)なるほど、力配分をなさっていたのですね。これまたカーテンコール2回。いずれも、クレーメル氏は、楽団の方にも丁寧にお辞儀をされていました。演奏スタイルは伸びやかだけれど、どこか神経の細やかそうな、それでいて、特におどけたところもない、まじめな感じの方だなあと思いました。サイン会はなかったのですが、記念として、クレーメル氏とマルタ・アルゲリッチ氏のシューマン作曲ヴァイオリン・ソナタ第1番第2番のCDを買いました。

井上道義氏のことは、音楽雑誌やショスタコーヴィチ関連の本で読んだ時、(癖のありそうな人だなあ)と思っていたのですけれども、舞台でお目にかかってみると、また印象が違います。長身でがっちりした体格で、目が大きく、華やかで明るい感じの精力的な人でした。指揮棒はほとんど使わず、手で振られていました。踊るような楽しげな指揮で、メリハリがあり、確かに非常に魅力のある方です。小澤征爾氏の指揮振りと似ているなあ、と思ったら、斎藤秀雄氏に師事されていたのだとの解説を読み、納得。
さて、今回のプログラムは....
5時5分から5時20分までは、シベリウス組曲『カレリア』作品11。特に三楽章の「行進曲」は有名ですね。金沢アンサンブルが中心でした。会場を盛り上げ、調子を整えるのにふさわしい選曲だったと思います。ここでは、室内楽風に、井上氏は指揮台なしで、手振りされました。
5分間の舞台交代の後、金沢アンサンブルにクレメラータ・パルティカが加わり、大がかりな楽団に編成されて、6時までの35分間は上記のシベリウス。そしてアンコール3分。
20分間の休憩の後、6時27分から入場。クレメラータ・パルティカの弦のみの小編成で、グリーグのホルベルク組曲(ホルベアの時代から)作品40。細やかな音色が美しく、弦の選りすぐりが集まったという印象でした。17分間の6時45分で終了。全員で3回揃ってのお辞儀がほほえましかったです。指揮者はなし。
6時50分から7時16分までは、再び全員登場の合同アンサンブル。グリーグの劇音楽『ペール・ギュント組曲。これも有名で美しく、あえて付け加えることもありません。今回のプログラムは秋分の日にとって最高です。井上氏のご登場で、明るく華やかな舞台となりました。
2回のカーテンコールの後、井上氏から再びお話が。「今日は事故もあり(先に書いたシベリウスの乱れのことですね)、お客さんのことを考え、悩みながらの指揮でした」とのことで、堂々たる姿勢からはそんな風には見えなかったものの、誰でも悩みつつ仕事をされているんだなあ、と井上氏に対して、急に親しみを覚えました。テレビカメラが入っていますから、通常ならば、本番以外に、万が一に備え、練習時に予備の録画を撮っておくのだそうです(五嶋みどりさんの言より)。ただ、その場合、ソリストにとっては、二倍の緊張がかかるので、大変疲れるのだとか。もしそうならば、クレーメル氏もお年なので、ベテランを信頼して、負担のかからない方を選択されたのでしょうか。
最後のアンコールは、スーザの「海を越えた握手」。2分ほどの明るい前向きな曲でした。今回は、グルジアやロシアの演奏家も混じっていて、互いに手をつなぐための秘密の曲なのだ、とご紹介されました。さすがは、演出も手慣れたもので、こちらも乗り気になりますね。
2回のカーテンコールの後、楽団員がドイツ風に隣同士握手していましたが、ドイツの楽団の方が、もっとかっちりとやっていたように思われます。7時23分に全終了。普段の演奏会より、2時間も早く終わりましたので、今もこうしてゆっくりと書くことができます。お客の入りは9割5分ほどでした。