ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

五度目のギドン・クレーメル

昨日の午後は、西宮の兵庫県立芸術文化センターで開催された演奏会へ行ってきた。
ギドン・クレーメル率いるクレメラータ・バルティカ、そしてフランス出身の若手ピアニストであるリュカ・ドゥバルグによるモーツァルトを主題としたプログラム。高度な技法をひけらかすことなく、繊細かつ艷やかでみずみずしく、心が弾けるような楽しい演奏を、次々と繰り広げてくださった。
二十分の休憩を挟んで、4時から6時まで、あっという間の充実した貴重な時間だった。
クレーメルさんの演奏会は、これで5回目になる(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080923)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20110411)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121031)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121101)。2016年6月5日にも西宮へ行ったが、残念ながら、ブログには書けていない。(プログラムを整理してファイルを作り、記録をきちんと残したいのだが、ずっと山積みになってしまっている!)
その時に購入したCDは、以下の通り(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160709)。

ヴァインベルク:交響曲第10番・無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番・三重奏曲[他]ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)/ダニール・トリフォノフ(ピアノ)/クレメラータ・ヴァルティカ(他)(2014年)来日記念盤

いつでも、(もうこれが最後の来日公演かもしれない)と思いつつ、集中して演奏に耳を傾けているのだが、あのお歳でもなお、細かく透き通るような弦の音色を響かせてくださるとは、驚異的である。さらに、ゆったりした白い上着に黒いズボン姿でヴァイオリンを奏でている舞台上のクレーメルさんを拝見していると、かつて冷戦時代に、「自由な音楽活動をしたい」という一心で亡命を志して、ギリギリのところで見事に脱出に成功したという実話が(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080926)、遥か昔の遠い夢物語のようにさえ感じられるのが、不思議でならない。
プログラムは以下の通り。

モーツァルトアダージョとフーガ(ハ短調 K.546)
ラスカトフ:モーツァルトの生涯から5分間*
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番(ト長調)*
モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番(イ長調
モーツァルト:セレナーデ第6番(ニ長調)「セレナータ・ノットゥルナ」*
(*クレーメル共演)

アンコール曲はこちら。

ソリスト
スカルラッティソナタニ長調 K.491)
[クレメラータ・バルティカ]
テディ・ボー博士:"McMozart Eine Kleine Bright Moonlight Nicht Music"
クレーメル&クレメラータ・バルティカ]
クライスラー/プシュカレフ(編):愛の悲しみ

スカルラッティは(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20161104)、繊細かつ古典の典型であり、モーツァルトの主題にもよく合っていた。また、日本でよく知られた旋律を即興的に交えたパロディ風の二曲目は、思わず会場から笑いが何度かこぼれて、楽しい一時だった。「愛の悲しみ」は、公私共に辛苦を秘めたクレーメルさんの年齢だからこそ出せる、極めて抑制の効いた、深く細やかな音の響きが耳に木霊した。楽譜を見ながらの演奏だが、ゆったりと安心して、心がほぐれるような感触が快い。
また、ティンパニの奏者が、右手のバチをクルクルと宙で回していた様子も、おもしろかった。
私達の席は、右側のバルコニー席の二階で、ちょうど中央に立つクレーメルさんがよく見えた。
演奏が終了した時には、割れんばかりの拍手と「ブラボー」の声援が出ていた。楽団は終了後、舞台の上で男女が双方、両頬にキスをして舞台袖に戻って行った。
お客さんの入りは、一階中央席は満席だったが、後方左側は全体に空いていた。また、バルコニー席はどの階も半分以下の入りで、ガラガラの席もあった。全体として、75%強だろうか。相変わらず中高年が中心で、若い人達が殆ど来場していないのは、既にここ二十年ぐらいの光景だが、一体、どうしたことだろうか。
(多少、無理をしてでもお金と時間をやり繰りして聴きたい)という意欲に欠けるのか、それとも、インターネットの流行で、生演奏より手軽に自宅でという風潮が浸透しているのか、何だかこの先、心許ない気がする。
だが、クレメラータ・バルティカはクレーメルさんが選抜した若手の弦の名手揃いであり、今回のピアニストも、まろやかで深みのある細やかな音色が出せる点、クレーメルさんの鋭いお眼鏡に叶っているとも言える。つまり、落日が叫ばれているとは言え、西洋諸国では、人生を掛けて古典音楽の最高の極みに達し続けようとする若い世代が、今なお誇り高く続いていることの証左でもある。
一方、我々聴衆の側は、アンコール曲を書いたボードに群がってスマホで写真を撮ったり、メモを取る人々が絶えないことから、興味関心は相変わらず持続しているのである。あと一工夫といったところだろうか。
記念として、CDを一枚、購入した。サイン会はないのだが、音楽そのもので勝負するクレーメルさんらしくて、私は好きだ。

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集(全5曲)ギドン・クレーメル&クレメラータ・ヴァルティカ』(NONESUCH)(2006年ライブ録音)

数年前までは、一期一会の演奏会だからと張り切って、メモを一生懸命に取っていたのだが、この頃では、言葉で表現するよりも、演奏家と共にいる音の時間そのものが漲る空間に、もっと自然に身を浸すようになった。勿論、今回もメモ用紙に書き散らした言葉もあるのだが、音色の方が耳に強く残っているため、ブログも昔よりはあっさりしたものになった。

クレーメルさんを引用した過去ブログは、こちらを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%AE%A5%C9%A5%F3%A1%A6%A5%AF%A5%EC%A1%BC%A5%E1%A5%EB)。