ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

テレビ「情熱大陸」

この辺で気分を変えて、先週見たTBSテレビ「情熱大陸(2007年8月12日 午後11時5分から11時25分放送)について書いてみようと思います。

録画の機械が技術者の「設計ミス」で壊れてしまっていたので、録画できず、本当に残念!昨日ようやく修理に来てもらい、部品交換したのですが、データが残っていても再生不可とのことで、「ユーリの部屋」で書いてきた五嶋みどりさんやギル・シャハムさんなどの演奏シーンがすべて消えてしまいました。記憶に焼き付くほどじぃっと見入っていたので、何とか思い出せそうですが、それにしても残念残念...。またいつかどこかで再放送されるのを願うしかありません。

情熱大陸」は初めて見ましたが、なかなかおもしろい番組でした。24歳になられた庄司紗矢香さんのヴァイオリン人生の一端を、追跡し編集したものです。

ずっと前のインタビューで、ご自分でも「子どもの時、先生からよく自由過ぎると注意されていました」「少し変わった性格で、自分では普通と思っているのに周りが‘え?’と驚くようなところがあり、集団からはみ出す子でした」と述懐されていたように、確かにかなり楽しい性格の方でした。芸術家肌というのか、もしもヴァイオリンと出会っていなければ、少し‘風変わり’な可愛いお嬢さんでいたかもしれないような節があります。

お母さまが画家なので、自由な発想とヨーロッパの伝統を尊重されるところは、確実に受け継がれているだろうと思います。また、まだ手のかかるであろう年頃の小さい紗矢香さんを連れて、2年間もお父さまと別居でイタリアに暮らすという大胆さも、今の時代、特に珍しくはないとはいえ、私ならちょっとためらうかもしれません。演奏から、どこか男っぽい気っ風のよさも感じられますが、もしかしたら、思い切ったお母さまの決断が何らかの影響を与えているのかもしれないですね。

少女っぽさを抜け出して、ますます女らしくなってきた紗矢香さん、まだまだスッピンでテレビカメラの前に平気で出てくるところは、本当におもしろいです。可愛い顔立ちなので、得をしていますね。

いきなり出だしから「私、大丈夫ですか」と言い出し、(は?)と思っていたら「タクシーの中で着替えしてきたんです」。もちろん、人生で初めてのことらしいですが…。そうしてくださいね。お化粧について尋ねられると「一日目はしていたんですが…」とこれも気取りのないお返事。

「音楽はわたしのことば」と言い切り、「ヴァイオリンはわたしの分身」だそうです。読書家で6言語(たぶん、英語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、日本語)を理解するのに、「ことばで言えない」「最後の文が見つからない」と、これまた興味深いお返事。遅刻したこともあり、楽譜を忘れて誰かの車でホテルまで取りに帰ったり、列車の中でカメラが回っているのに平然とあくびしてみたり…と、ちょっとお茶目なところもあります。

小学生の頃、自宅で練習中の写真、12歳の時にお父さまが買ってくださったヴァイオリンケース(ストラディヴァリウスの「ヨアヒム」は貸与されたもの)、グリーンのドレス姿で16歳の時に優勝したパガニーニ・コンクールのなつかしい映像、パリの街を歩きながら指揮者のように手を大きく振って歩いている様子、いっぱい書き込みをした楽譜をじっと読んでいるところ、学芸員に出してもらった古い楽譜を見て「ここ、おもしろいんで…」と、いきなり没頭する姿、練習の合間にベランダで三島由紀夫の『金閣寺』に読みふける紗矢香さん、などニュアンスに富んださまざまな素顔に触れることができました。

パガニーニで優勝したばかりに「技巧派」と呼ばれることを極度に嫌がり、「人の心を揺さぶる演奏」を目指すという彼女。アルプスの絶景をしばし眺めて、一言「いつも音楽」。声が低いため、歩きながらメロディーを歌っても、高音がきちんと出ていないところが、何となく可愛かったです。

それから、類は友を呼ぶ、というのか、紗矢香さんの親友だというチェリストは、いかにも育ちのよさそうな感じのいい若い女性でした。今でもこういうヨーロッパ人がいてくれて安心、というような…。

いやぁ、おもしろかった!!彼女の人気の秘密は、ヴァイオリンだけじゃないですね。口数は多くないけれど、実に興味をそそられる人柄でした。話し方が、今風の若く媚びたものではなく、自分の感性に正直で、自分のことばで語っていました。本当の友達になるにはちょっと気高そうですが、もし深いところで響き合う一致点があれば、いつまでもいい友達でいられそうな、そんなタイプの方でした。

何年かしたら「ランラン/イタマル・ゴラン/ロシア人と結婚することになりました」とか何とか爆弾発言(?)が聞かれたりして…。突拍子もないことをあっけらかんとしそうなところが見受けられます。音楽に対しては、あくまで真摯で誠実であるけれど、その他は、自由な物の考え方を自然に披露しそうな、とっても楽しい人のように思えます。

私が音楽学校でピアノを習っていた時分は、「楽譜通りに正確にきちんと弾きなさい」と口うるさく注意されていました。だから(間違えてはいけない)と緊張の連続でした。しかし「音をよく聴きなさい」とは言われても「楽譜をよく読みなさい」とは、ほとんど言われなかったように思います。バッハの楽譜は、謎解きのように、色鉛筆で同じフレーズや動機およびその再現部を囲んで楽しんでいましたが。ミスが出ないよう、ひたすら長い時間をかけて、繰り返し機械のように練習するよう指導されていた覚えがあります。いい先生を選ぶのも実力のうちと言われますが、当時は「先生が白を黒と言っても‘はい’と従いなさい」などと、今から考えればとんでもない錯誤が目上の方から伝えられるような雰囲気があり、先生を途中で替えたいなどと言い出そうものなら、その後の人間関係について、予め金槌でたたいてヒビを入れるようなものでした。

ですから、今の若い音楽家達が、のびのびと楽しそうに(実は陰で大変な努力をされているのでしょうが)演奏し、個性豊かに表現されているのを見ると、隔世の感という気がします。本来、音楽というものはこうでなければならないと思います。紗矢香さんが、今後どのような人生を歩まれるのかは未知数ですが、少なくとも、よい時代に生まれてよかったですね、と申し上げたいと思います。これが10年ぐらい早かったら、たとえ同じ才能を持って生まれていたとしても、芽がここまで伸びていたかどうか、五嶋みどりさんの内なる葛藤を拝見すれば、想像できなくもありません。

もちろん、番組のメインはヴェルビエ音楽祭でしたが、これは他の方々が多分お書きになっていることと思いますので、この辺で失礼いたします。