ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

読書家のヴァイオリニスト

朝日新聞』デジタル版(http://digital.asahi.com)より転載を。昨今、とみに評判の悪い『朝日』とはいえ、音楽に関しては別腹で、いわば是々非々だ。気の滅入るようなうっとうしい話が続いたので(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140322)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140323)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140324)、ちょっと気分を変えて久しぶりに庄司紗矢香さんをどうぞ(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20140119)。

(1)「庄司紗矢香プロコフィエフCD 感情の七変化を弾く
神庭亮介
2014年2月25日


バイオリニストの庄司紗矢香(さやか)が、プロコフィエフのバイオリン協奏曲第1、2番のCDを出した。「幻想的な世界が描かれているかと思えば、背後からナイフを突きつけられるようなゾッとする瞬間もある。七変化する感情を表現しました」と語る。
 指揮は、10年来の交流があるユーリ・テミルカーノフ。オーケストラは、彼が芸術監督を務めるサンクトペテルブルクフィルハーモニー交響楽団だ。テミルカーノフからは「音楽にユーモアを盛り込んだ作曲家は、ハイドンプロコフィエフだけ。それを表現することが大切だ」と助言を受けたという。
 「ユーモアと言っても、プロコフィエフの場合、『ハイ、面白いでしょ?』という、いかにもな感じではない。礼儀正しく振る舞いながら、仲間内でウインクし合うような、隠れたおかしみがあります
 画家の母親の手ほどきで絵画を始め、絵や映像の個展を開いたこともある。それだけに、音楽から視覚的なイメージが膨らむことも多い。今回のバイオリン協奏曲も「若い頃のカンディンスキーに通じる、色彩感に富んだ曲」と評する。
 読書家でもあるドストエフスキーロマン・ロランヘルマン・ヘッセ……。多くの文学作品に影響を受け、ステージでも「物語を伝える気持ちで演奏している」。思索的でとつとつとした語り口は、哲学者然としている。 4月には、90歳のピアニスト、メナヘム・プレスラーとのデュオで全国をまわる。「20世紀の音楽界を生きてきた方で、学ぶべきことはたくさんある。共演を通じて、彼の豊かな経験をリレーのバトンのように受け取れたら」

(2)「円熟の名コンビによる至高の響き、これぞロシア音楽!
2014年1月23日


ロシアの名門サンクトペテルブルグフィルハーモニー交響楽団(以下SPO)が、3年ぶりに来日ツアーを行う。1988年より芸術監督を務める巨匠ユーリ・テミルカーノフが、その聴きどころや最新動向を語ってくれた。
サンクトペテルブルグフィルハーモニー交響楽団 2014年 日本ツアー」の公演情報
世界中のオーケストラで楽員の国際化が進む中、地元サンクトペテルブルグ音楽院の出身者が大半を占めることで、その伝統を厳然と維持してきたSPO。1988年に巨匠エフゲニー・ムラヴィンスキーの後任に選ばれたテミルカーノフも、やはり同音楽院の出身だ。以来、四半世紀以上に渡ってこの名門と共に歩んできた軌跡を次のように語る。
「前身も含めると200年以上の歴史を持つSPOは、チャイコフスキーグラズノフなども指揮台に迎えてきました。私は就任以来、そのよき伝統を維持しながら、時代に合った楽団運営と音楽作りに努めてきたつもりです」
注目のプログラムは、マーラー「復活」、ムソルグスキー展覧会の絵」、ラフマニノフ交響曲第2番、チャイコフスキー交響曲第4番をメインにした4つ。純度の高い“真のロシアン・サウンド”が期待されるふたつの交響曲の焦点を尋ねると、「それは“悲しみ”です」と答えるテミルカーノフ
チャイコフスキーは第1楽章の冒頭や第3楽章の舞曲に、ラフマニノフは第2楽章に、どちらもその後の人生の悲劇を予感させる深い悲しみが込められていると思います」
今回のツアーでは、前半の協奏曲に登場するふたりの優れたソリストも大きな魅力。ヴァイオリニストの庄司紗矢香と、ピアニストのエリソ・ヴィルサラーゼだ。
紗矢香は、同世代の中で最も“考えて”音楽を構成できるヴァイオリニストのひとり。デビュー以来、何度も共演してきましたが、毎回大きな成長を遂げていて驚きます。一方、長年の友人でもあるヴィルサラーゼとは、チャイコフスキーの協奏曲第1番を一緒に弾きますが、彼女がこの作品を弾くのは約5年ぶりとのこと。広い見識と教養に裏打ちされた解釈によって、最初から最後の一音まで、常に新鮮な輝きに満ちた演奏を聴かせてくれることでしょう」
そして今回の来日ツアーでもうひとつ注目なのが、カンチェリ「アル・ニエンテ〜無へ」の日本初演グルジア出身の作曲者が2000年に作曲し、テミルカーノフに献呈されている。
「“静”と“動”のコントラストが大変印象的で、毎回楽しく指揮させてもらっています。ベースギターや多彩な打楽器が登場するなど、編成的な面白さにもぜひご注目ください」


取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)

(引用終)