ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

石井桃子先生を偲ぶ

石井桃子先生を偲びつつ、岩波書店の『石井桃子集1』から印象に残った文を書き抜いて、ここに記したいと思います。
ノンちゃん雲に乗る』は、話の筋もおもしろいのですが、よく考え抜かれた複雑な構成となっています。そして、調子よく上手にお話を続けていたノンちゃんに、ぐさっとくるような教訓が下されます。
三月ひなのつき』は、家庭環境がまったくノンちゃんとは異なる女の子の話です。いずれも共通するのが、戦争体験です。ただ、反戦を声高に叫ぶのではなく、一方的に被害者意識をふりかざすのでもなく、ごく淡々と綴られているところに、時の推移と登場人物それぞれの経験を立ち止まって想像させる力がこもっています。

ノンちゃん雲に乗る』から
「ほんとだとも。ようくきいておぼえておけ。人にはひれふす心がなければ、えらくはなれんのじゃよ。勉強のできることなど、ハナにかけるのは、大ばかだ。ひれふす心のない人間は、いくら勉強ができても、えらくはなれん。おまえには、いいおとうさん、おかあさんがついてござるから、まずまちがいはないと思うが、おまえのようになんでもできる子は、よほど気をつけんとわるくなる。なるほど、字はよく読める。話もじょうずだ。が、知らぬまに人の心が読めなくなる。そうなったら、人間はもうおしまいさ。ひれふす心…ようくおぼえておけ。これさえ忘れねば、まずまちがいはない。」(p.155)

「ノンちゃん、どんなときでも一生けんめいやれば、力いっぱいやれば、それで道がひらけてくるものです。ことに、小さいときからそういうくせをつけないと、人間はおとなになっても、何も本気でやれなくなるの。(以下省略)」(p.162-163)

三月ひなのつき』から
「きっと、あのおひなさまは、日本一上等のものじゃなかったわよ。でも、心がこもってたから、そこに説明できないようなものがうまれたんだろうと思うの。(中略)おかあさんが、おひなさまをだいじにした気もち、おかあさんが、おひなさまを見て、いろいろ感じたこと、それが、みんな、きょう、おかあさんを助けてくれてると思うの。おかあさんのつくる服は、みんなが喜んで、お店で買うのより、ずっとたくさん、お金をはらってくださる。そして、よし子は学校へいってる。どう?こういうこと、よし子にわかる?」(p.271)