ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ロシアの音楽と文学

昨日のN響アワーでは、指揮者アンドレ・プレヴィン氏の第二弾として、ラフマニノフ交響曲第2番の後半を省略無しで聴くことができました。アンドレ・プレヴィン氏は、ただ今79歳とのことですが、落ち着いた風格と底から滲み出る深い情熱には感動させられます。先週の放送では、ピアノの指揮振りをされていました。ジャズもお得意だと先回の番組で知りましたが、クラシック音楽に関して正統的な解釈をされる音楽家としての、すぐれた一つの手本を見せていただきました。
もちろん、以前から、アンドレ・プレヴィン氏指揮のCDは何度か聴いてきましたので、これが初めてではありません。しかし、年齢を積み重ねると同時に滲み出てくる芸術家の音楽精神は、受け手であるこちら側にも、それなりの準備と心構えが要求されるものだと思います。その意味で、前回と今回の放送に巡り会えてうれしく思いました。
インタビューが短く紹介されていました。ラフマニノフの演奏を直接聴いた経験がおありとのこと、そして、大指揮者のムラヴィンスキィに、ラフマニノフ交響曲について、通常は省略形で演奏されるものの、省略無しのスコアを紹介されたという貴重な話を披露してくださいました。
ムラヴィンスキィと言えば、ショスタコーヴィチ交響曲の半分以上を初演で指揮した人でもあります。晩年、ショスタコーヴィチは、ムラヴィンスキィが自分の理解者ではなかったことに気づいて落胆したらしい節が、例の『証言』に出てくるのですが(p.265)、その真偽はともかくとして、やはり今、こうしてロシア音楽関連の書籍に浸れることの幸いを改めて感じます。

N響アワーの直後にETV特集という番組があります。チャンネルをそのままにしていたら、ドストエフスキーについて、東京外大学長の亀山郁夫先生が語られるようでしたので、つい最後まで見てしまいました。
今、ドストエフスキーが、資本主義化しつつある混乱したロシアでも再人気なのだそうです。亀山先生も、『カラマーゾフの兄弟』を新訳されたそうで、若い学生さん達に是非とも読むよう勧めていらっしゃるようです。19世紀の作家なのに、現在の我々の抱える問題や世界像を既に透視していたかのように作品で予言しているとの解釈でした。(←私自身は、必ずしもその見解に与しません。ドストエフスキーに限らず、優れた文学作品というものは、時代や地域を越えた普遍性の問題をどこかに内包しつつ表現されていると考えるからです。)
それはともかく、番組では、亀山先生が、金原ひとみさん、加賀乙彦氏、森達也氏の三人それぞれと対話を交わしつつ、その合い間に『カラマーゾフの兄弟』の映画が部分紹介されていました。

中でも一番響くコメントを出されていたのが、加賀乙彦氏でした。「今の若い作家は、感覚だけで書いていて、きちんと物事を観察したり、調べたりして、書いていない。読者は、もうそれに飽きてきた。だから、ドストエフスキーのような作品がおもしろいと見直されるようになってきたのではないか」とのご指摘は、全く私も同感でした。それは、今はやりの作家だけでなく、チャイコフスキー国際コンクールで優勝した若い女性ヴァイオリニストなど演奏家の発言を聴いていても、(私はもう年をとったのかなぁ。これも時代なのかなぁ。私の批判癖や心の狭さのせいかなぁ)などと違和感を覚えていました。しかし、加賀乙彦氏のご発言によって、望みを捨てる必要もなかったことがわかり、元気になりました。

亀山郁夫先生は『驚くべきショスタコーヴィチ』の翻訳も出されています。(ちょうど今読みかけているところです。サッカーと女性と反ユダヤ問題とショスタコーヴィチとの関わりに焦点を当てたおもしろい論考です。)マレーシアから帰国した頃、NHKテレビのロシア語の講座に、亡くなった米原万里さんと亀山郁夫先生が出演されていたのを覚えています。やっぱり何でも、若い頃に経験しておくものですね。あの番組のおかげで、亀山先生のことは、今でも未知の先生とは思わないんですから。また、東京外大の学長になられても、あまり学長ぶったりされない姿勢が、とても素敵ですね。