ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

イランと湾岸諸国

『メムリ』(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP629216

緊急報告シリーズ Special Dispatch Series No 6292

Feb/9/2016


制裁解除でイランはテロ支援が容易となり他国侵害を強める―湾岸諸紙・知識人の抱く懸念―


2016年1月16日、国際原子力機関IAEA)がイランはJCPOAのもとでの誓約に従ったとする報告をだし、イランに対する核関連制裁が撤回され、1,000億ドルに及ぶイラン資産の凍結が解除された。これに対して、湾岸諸国のメディアには、多数の識者による記事が掲載され、警告を発している。西側は、イランの態度があらたまり今後よくなることがあっても悪くはならないと誤った判断をしている。イランは今後も世界各地のテロ組織に資金援助を続け、近隣諸国に対しては体制崩壊を目的に不安定化工作を継続する資産凍結の解除は、このような工作のために使われる。この資産解除で得をするのは、イラン政府とその関係者、即ちイラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)メンバーだけで、イラン人民は貧困と抑圧のもとで生きていくしかない。湾岸諸国の識者達はそのように考える。
アメリカは同盟者を欺き嘘もついている。少しも信用できない」と断言する或る識者は、「イランを国際社会に戻して中東に火をつけてアメリカが介入する。このようにしてアメリカは継続的介入を正当化する」と言いきる。
これとは対照的な意見もある。クウェートの一識者は、制裁解除が、イランの穏健派を強めるとし、その穏健派とのオープンな対話を開始するよう、湾岸諸国に呼びかけている。巨額の金を兵器調達に使い誰も勝利しない戦争に支出するのを防ぐには、この対話方式が望ましいというのである。次に紹介するは、湾岸諸国紙掲載の主張である。


制裁解除でイランが変ると考えるのは妄信―カタール


アル・アンサリ博士(Abd Al-hamid Al-Ansari、前カタールイスラム教学部長)は、クウェート紙Al-Jaridaに、制裁解除でイランは穏健化せず誠実な国家になることもなく、逆にもっと凶暴化するとし、次のように主張した。
「この(イラン)政権がまともで誠実な国になって国際社会へ復帰すると考える者は…全員が己を欺いている。西側諸国そしてアメリカは、制裁解除と禁輸中止が改革派勢力を強め、待ち望んだ変革をもたらすと考え、こちらに賭けたが、政権の性格を完全に無視している…(この政権は)他国への介入なしでは存続できない。介入しなければ、宗教上主義上の大義名分を失ってしまうからである。
イラン政権が変革できずノーマルな体質にもなり得ない証拠なら、いくらでもある。例えば、弾道ミサイルの配備願望は制裁解除後ますます強まり、近隣諸国に対する介入は一段と暴力的になった。イランのザリフ外相が微笑を送り、ロウハニ大統領が楽観的言辞を吐いただけである」※1。


風刺漫画1。イランが取り戻す金は爆薬と化す(Source: Akhbar Al-Khaleej, Bahrain, January 24, 2016)


地域は安全になるというケリー長官の幻想で現実は変らない―サウジ紙


ロンドン発行サウジ紙Al-Sharq Al-Awsadでは、同紙コラムニストのアル・ザイデ(Mashari Al-Zaydi)が、アメリカのオバマ大統領、ケリー国務長官を初め西側全体が制裁解除ですべてがよくなる、状況は改善されると考えれば、誤信であるとし、次のように述べている。
「欧米が対イラン制裁を解除した後、我々の地域はもっと安全且つ安定化するのであろうか。ここが一番肝腎な問題である。ケリー国務長官を初めオバマの側近達に関しては、そうなると信じこんでいる。
JCPOAの後見人であるケリー長官は、花婿役のザリフ外相との会談で、昨年7月以来とられてきた段取りを踏んで、その結果合意に達したとし、“その結果アメリカと中東及び全世界の友邦と盟友は、前よりも安全になった”と言った。EUの外務・安全保障上級代表モゲリー二は、この合意が地域の安全と平和を強固にすると言った。
しかし、これまで何度も指摘されてきたのであるが、この合意には構造上の欠陥がある。イラン問題に関しては、核開発だけに限定しており、この地域におけるイランの破壊的政治行動を問題にしていないのである。こちらが、一番肝腎な問題なのにである。JCPOAの履行発表後もイランは相変らず破壊政策を維持している。アメリカの財務省は、弾道ミサイルの発射実験のため、新しい制裁を課したではないか…。
パニックになる必要はない。はっきり予想できるからである。オバマとその側近達は、砂上の楼閣を築いたのであり、これから現実の波が彼等を押し流すだろう。ホメイニのイランはどこまでいっても同じ体質であり、ケリーとモゲリーニの妄想が中東の地理的人口的歴史的事実を変えることはないということである」※2。


凍結解除の金でイランはテロに資金援助―バーレン紙


バーレン紙Al-Ayyamでは政治評論家のアルハマド(Saied Al-Hamad)が、イランは凍結解除資産をテロ支援資金として使うとし、イラン政権が近隣諸国で暗躍するテロ組織に資金援助をしている事実を隠したことはない、現在も隠していない、ケリー国務長官すら認めていると指摘し、次のように主張した。
「制裁解除でイランが手にする金について、ケリーは“金の一部は革命防衛隊を初め諸機関に渡るだろう。そのいくつかはテロ組織として分類されている機関である”と言った…イランの政権幹部のひとりはタイムズ紙に“制裁解除で一番助かるのは革命防衛隊、そして特にアル・クードス隊であり、この両組織こそ、イランの主要武器である”と語った。彼は軍事用語ではっきりと武器と表現したのである。理性的人間なら、これが何を意味するか判る。別のイラン政府高官は、“金があれば、友人を助けられる”と言った。友人が何を指すのか明言せず、観測者と気懸りな人の判断に任せたわけである―しかし、その判断は容易である。
イラン政権は、これまでイランが近隣諸国に植えつけた民兵組織、集団、機関に金を提供してきた事実を隠そうとしない。この諸々のグループは、近隣諸国の政権打倒のため、破壊活動やテロを実行している。コム(イランの宗教聖地)からターバンを巻いた男達が来るための地慣しである。目的は判っている。彼等のサファビー朝帝国の再建である。これが彼等の野望である。
凍結解除で数十数百億ドルの返還が国民のために使われることはない。それが一番判っているのは、恐らくイラン人民だけである。金はいろいろな集団に分けられ、イラン人民の手には届かない…」※3。


風刺漫画2.イラン資金凍結解除で金を手にするヒズボラ、アサド政権、革命防衛隊、アルカイダシーア派民兵(Source: Al-'Arab, London, January 24, 2016)


数百億ドルの金は革命防衛隊へ。抑圧下人民は貧困のまま―クエート紙


クウェートの評論家アル・ハドラク(`Abdallah Al-Hadlaq)も、クウェート紙Al-Watanで同じ主旨の見解を表明し、イランの国庫、財源の強奪者としてイラン政権特に革命防衛隊を非難した。イラン人民は、「抑圧と貧困の軛につながれたままである」とし、経済制裁が解除され数百億ドルの凍結が解かれた後も、人民の苦しみは変らないと主張、次のように書いた。
「ターバンを巻いてテヘランに君臨しているペルシア・イラン・ファシスト政権は…あらゆる事柄に介入し、国庫の金は意を体して行動し、政権継続を保証する存在、即ちペルシア革命防衛隊の活動費にあてる。抑圧と貧困の軛につながれた人民は、僅かな分け前にしかあずからず、生活状況は変らず、むしろ悪化することを知っている。
経済面からみれば、イランは金持それを極めて金持ちの部類に属する…しかしその富は、人民の生活に反映されない。ほんの僅かの金しか人民生活に反映されない。ほんの僅かしか人民のポケットには届かないのである。ペルシア政権と革命防衛隊の者は、(金の争奪)戦ではライバルがいない。制裁はイラン人民全員を苦しめたが、革命防衛隊はこれで大いに得をした。外国の企業がイランから撤退した後、その仕事を引継いだのがペルシア革命防衛隊であった。それを通して影響力を強め、イラン人民のものである金を強奪していたのである…
イランに対する経済制裁の解除で、肝腎な点があらためて問われることになった。つまり、“これで変るのか”である。問題をフォローしている人達の答は“変る”である。つまり、同じ連中(既に富を手にしている)とペルシア革命防衛隊は、益々金を手にするということである。この組織は、(一番重要な)経済的結節点を握っており、制裁解除後は新規プロジェクトで外国の投資家と組むことになる。利益はこちらへ流れ込む仕組である。一般の人民は息子達と財産を奪った、呪われた革命に更に引きずられ、益々困窮する。凍結を解かれた数百億ドルは、イラン・ペルシア・ファシスト政権の力を強めるだけである。つまり、資金援助を初めグローバルテロリズムに対する支援が増加し、悪魔的なペルシアの計画が推進されるということである」※4。


風刺漫画3.制裁解除後のイラン(Source: AkhbarAl-Khaleej, Bahrain, January 26, 2016)


風刺漫画4.燃える中東―米・イラン関係のつけを払う(Source: Al-'Arab, London, January 15, 2016)


アメリカは欺いている―クエート紙


クウェート紙Al-Raiは、「ジョン・ケリーよ君の誠実性はゼロ以下」という痛烈なタイトルで、アル・ハジリ(Mubarak Muhammad Al-Hajri)の記事を掲載した。アメリカは中東に火をつけるため、イランを舞台へ戻そうと躍起である。イランが一役かって火がつくのは、アメリカの利益にかなうとし、次のように主張した。
アメリカのケリー国務長官は湾岸地域に何度もきて、(この地域における)イランの力が増大しつつあることを警告し、根拠のない口実と言い訳を使ってアメリカに(湾岸諸国)防衛の力がないと言った。当然であるが、湾岸諸国はアメリカが考える程ナイーブではないしアメリカの外交官が演じるゲームと心理戦にうんざりしている。政治の汚い世界を知らぬ純朴な人間でも、アメリカが嘘しかつかず、全然信用できないことが判る。
アメリカの政策と声明は、いつも矛盾していた。そこから判断できるのは、アメリカをスポンサーとして、イランがテロ支援という真暗な記録を持つのに、国際社会へ復帰するということであった。イラン、シリア、レバノン、イエメン、バーレン、アルゼンチンその他イランに目をつけられた地域でテロを支援している。人権違反、少数派社会に対する抑圧等々、諸々の恥ずべきことを散々やってきたのである。
しかし、アメリカは、そのイランをグローバル舞台に復帰させると主張してやまなかった。国際社会の平和と安定を無視したのである…
かつて湾岸協力会議GCCは、独立性がなく、中東髄一の弱い協力体であると考えられてきた。しかし会議はこの評価を見事にくつがえし、アメリカが怒るのを無視して独自の決断をくだすようになった。
ホワイトハウスの外交官達は、イラン・アメリカ協調に照らして、厳しい現実に耳を貸そうとしない。聞きたくない。凍結を解かれた1,000億ドルの金はイラン人民には届かず、イランのムッラーに忠誠を誓う民兵やギャング共に行く。(中東における)宗派間戦争と紛争に更に火をつけ、混乱と動揺を拡大していくつもりである。アメリカにとっては、もってこいの緊張状態となる。継続的プレゼンスの大義名分ができるからである」※4。


風刺漫画5.米・イランの握手で締め上げられるアラブ(Source: Al-'Arabi Al-Jadid, London, January 17, 2016)


イランとの政治・経済上の和解は緊喫の課題―クエート紙


クウェートの知識人アル・イッサ(Harsan Al-`Issa)は、ほかの評論家達とは違った論をクウェート紙Al-Jaridaに掲載し、制裁解除がイランの穏健派を力づけ、中東の緊張緩和に寄与する、との希望を表明した。政治・経済上の和解はこの地域住民全体のためになるとして、この和解目的のためイランとすぐに対話を開始するよう、湾岸諸国に呼びかけ、次のように主張した。
「イランに対する国際社会の制裁を解除し、イランが石油輸出市場へ参入することは、既に痛めつけられている湾岸協力会議諸国の傷口に塩をこすりつけることになる。諸国は、需要減のなかで石油を増産し、それにおぼれかけている。しかしながら、オマンの政府高官が言ったように、悲観主義の向うに楽観的様相が見えるのである。制裁解除は、炎上中のこの地域に平和的雰囲気をもたらす可能性がある。更に、イラン(イスラム)共和国内の穏健派が…過激派に対して強くなることが考えられるからである…穏健派は、強硬・過激派との対応に真剣であり、この穏健派のおかげで、イランは制裁から解放されたのである。
我々湾岸諸国とイランの間にオープンな話合いがあれば、出口が見えてくるだろう。シリアとイエメンでは代理手段で戦争が進行中であるが、解決への展望が開ける可能性はある。そうなれば我々には得るところ大である。軍備に莫大な金を投入する名分がたたなくなるからである。そうなればその金は、武器商人等のポケットに流れる代りに、人民の福祉のために使うことができる。このような話合いで一番利益をうけるのは、我々よりシリア及びイエメンの住民である。シリアの悲劇は充分長い間続いてきた。双方の背後にいる二者(サウジアラビアとイラン)が、決定的勝利は我々にありと信じていれば、この戦争はいつまでも続く。レバノンで起きたように、このような内戦は、勝者、敗者がでないままで終るのが常であり、この現実を考えれば、話合の糸口はつかめる。
イエメンでは、イランは国内穏健派の政策をとることができる。穏健派は、フーシ派を刺激しても意味がないとし、全宗派と全部族の間で合意がない限りイエメンの解決はない、としている。現在起きているのは、サウジアラビアとそれに従属する湾岸諸国に対する消耗戦争なのである。我々はこの認識に立たなくてはならない…
我々の湾岸内部を考え、対話と和解の道をさがそうではないか。(イランとの)政治・経済上の和解は、延期や遅滞を許さぬ緊急の必要性を有するのである。



[1] Al-Jarida (Kuwait), January 25, 2016.
[2] Al-Sharq Al-Awsat (London), January 18, 2016.
[3] Al-Ayyam (Bahrain), January 25, 2016.
[4] Al-Watan (Kuwait), January 24, 2016.
[5] Al-Rai(Kuwait), January 27, 2016.
[6] Al-Jarida(Kuwait), January 19, 2016.

(引用終)