ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ロシアの戦略

『メムリ』から。過去の『メムリ』引用のリストは、こちらを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=memri)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=memri&of=50)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=memri&of=100)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA&of=50)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%E1%A5%E0%A5%EA&of=100)。

http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP627116


緊急報告シリーズ  Special Dispatch Series No 6271 Jan/23/2016


ロシア連邦の新国家安全保障戦略



2015年12月31日、ロシアのプーチン大統領が、ロシア連邦国家安全保障戦略の改定に署名した※1。ロシアの法律によると、戦略立案にかかわる事項は、6年に1度見直さなければならない。これまでの国家安全保障戦略は、2009年5月に改定されたものである。


今回の改定版は、ロシアが世界の指導国家のひとつとしての地位を今後も保持する、と位置づけている。そしてロシアは「国家主権、領土保全そして国家としての地位を守り、国外在住国民を保護する能力のあることを証明してきた」と主張する。更にこの改定版は、最緊急国際問題の解決、軍事紛争の処理、国際問題における法的重要性の推進にロシアの役割が増進した、と指摘する。この改定 版によると、軍事紛争の防止は、核抑止力政策の行使によって達成される※2。


次に紹介するのは、新国家安全保障戦略の第2、第3章である。ロシア当局が、世界における自国の位置づけをどう見ているのか、今後6年間の安全保障上の優先順位をどう考えているのか。この2点に絞って紹介する※3。


第2章 現代世界とロシア


7.国家政策。これは、ロシア連邦の国家安全保障と社会経済上の発展をもたらし、国家権益の防衛、国家の優先的戦略の発動に資するものである。安定し持続可能な基盤がしっかり築かれており、そのおかげでロシア連邦は、経済、政治、軍事及び道義上の力を強め、目下形成されつつある多極化世界でロシアはその役割を増進しつつある。
8.…最も重大な国際問題の解決、軍事紛争の処理、戦略的安定化と国際法のルールの尊重面において、ロシア連邦の役割が強まっている。
9.ロシア経済は、国際経済の不安定化に直面し、いくつかの国が導入した対露経済規制に見舞われながら、その底力を発揮して機能している。
10.ロシア国民の健康改善対策に健全な流れがみられる。人口の自然増加率が上昇し平均寿命も長くなっている
(…)
12.ロシアの力は増大しつつあるが、その一方で、国家の安全保障に対する新しい脅威が浮上してきた。独自の立場に立脚するロシア連邦の国内及び対外政策は、アメリカとその友邦によって妨害されている。彼等は、国際問題に介入し支配的役割を維持しようとする。彼等の対露封じこめ政策は、政治、軍事及び外交上の圧力となって現れる。
13.多極化世界の形成は、グローバル並びに地域的不安定化を伴なっている…国家間の争いは、価値観、社会的発展モデル、人的、科学、技術的潜在力の面に及ぶ。世界の海洋並びに北極域の資源開発には、特に指導力の発揮が求められると。国際的地位を確保するためには、政治、財務、経済並びに情報手段の全面的活用がなければならない。特別安全保障機関がこのプロセスへの介入を大いに強めている。
14.…攻撃兵器の開発、改良並びに配備の加速化が、グローバルな安全保障を弱め、軍備制限協定を無力にしつつある。定型化した安全保障体制は、ヨーロッパ・大西洋、ヨーロッパ・アジア、アジア・太平洋各域の状況に最早対応できない。ロシアと隣接する地域では、武装化と軍備増強が進んでいる。
15.ロシアの安全保障は、NATO軍の潜在力の増大とグローバル規模での国際法上の規範侵犯によって、脅威にさらされている…更に(NATO)同盟の拡大とロシア境界への接近もある。グローバル並びに地域の安定維持の可能性は劇的に減退しつつある。一方アメリカの対ミサイル防衛システムが、ヨーロッパ、アジア太平洋及び中東に配備されている。この一連の動きは、"グローバル打撃力"構想―宇宙空間システムを含む高度精密非核兵器システム―の実現をもたらすであろう。
(…)
17.…ウクライナにおける違憲クーデタをアメリカとヨーロッパが支持し、これがウクライナ社会に深い亀裂と武力紛争をもたらした。長い目で見ると、ウクライナ民族主義的極右イデオロギーの増大、ロシアを敵視する反ロシア観の継続、深刻な社会、経済危機が、ウクライナをヨーロッパの不安定地帯にしてしまうであろう。ロシアとは至近のところである。
(…)
19.核兵器の拡散、化学兵器の拡散と使用の危険が大きくなっている…アメリカ軍の生物研のネットワークがロシア隣接諸国にひろがっている。
20.危険な物質や物体の規制、管理が、特に政治的に不安定な諸国で難しくなっている。統制のとれない通常兵器の拡散と共に、テロリストが入手しやすい環境になっている。
21.グローバルインフォメーションの領域における対決が、グローバルな環境で激しくなり、危険になっている。集団意識を操作し歴史を偽りながら、自己の地政学的な目的を達成すべく、情報、通信技術の使用に狂奔する国が、いくつもある。
22.経済に及ぼす政治ファクターの影響が強まっている。いくつかの国は、財政、貿易、投資及び技術政策を含む経済手段を使って、自己の地政学的目的を達成しようとしている。この一連のファクターは、国際経済関連システムの安定を弱めている。世界経済と財務システムにおける構造的不均衡と、諸国の借金増に加え、エネルギー市場は波乱気味である。いずれもグローバル経済の危機とリンクしている…。
(…)
25.…このような危機防止には、地域の通商、経済協定が最も重要な武器となる。地域内通貨の流通に期待する向きが強まっている。
26.国家の安全保障に対する脅威を防止するため、ロシア連邦は、社会の内部統一及び国の一体化を強めることに意を尽くし、社会的安定、宗教的寛容、経済の近代化、防衛力の向上に努める。
27.ロシアは国家権益を守るため、オープンで合理的且つプラグマチックな外交政策を展開し、多くの犠牲を伴う対決(新しい軍備競争を含む)を避ける。
28.ロシア連邦は、国際法の諸原則を対外関係の基本におき、信頼に足る安全保障をすべての国に平等に与え、相互の信頼関係をたかめ、諸国の文化、伝統及び権益の維持に協力する。ロシアは、すべての国との通商及び経済協力を互恵関係の精神で推進し、多国間通商システムの責任ある一員として行動する。
29.国際安全保障に関しては、ロシアはまず政治及び法的手段、外交及び平和構築メカニズムを行使する。軍事行使は、非暴力的手段がすべて効を奏しなかった時に初めて可能となる。


第3章 国益と戦略的優先順位


30.長期にわたって維持すべき国益には、次のものを含む。
・国家の防衛力強化:立憲システムと国家主権の安定的維持:ロシア連邦の領土安全。
・ナショナルコンセンサスの維持:政治的社会的安定:民主的制度の発展:国家と市民社会の相互作用の拡大。
・生活水準の向上:健康増進:安定した人口増加のための施策。
文化、道徳及びロシアの伝統的精神的価値観の維持、発展。
・国家経済の競争力の改善。
・多極化世界の枠組の中で、戦略的安定性と互恵的パートナーシップをベースとしつつ、主要列強のひとつとしてのロシア連邦の地位を維持する。
31.国益の確保は、次の国家優先順位の顕現にある。
・防衛
・国家と社会の安全
・ロシア市民の生活水準の向上
・経済成長
・科学、技術、教育
・健康管理
・文化
エコロジー生態の保全と合理的環境管理
・戦略的安定と公平な戦略的パートナーシップ


※1 Rbc.ru. 2015年12月31日付
※2 戦略文書は、序にあたる三つの章で始まる。即ち総則(1-6頁)、現代世界とロシア(7-29頁)、国益と戦略的順位(30-31頁)である。主要項目で扱われているのが、現在の安全保障の状況と国家防衛(33-41頁)、国家と社会の安全(42-49頁)、経済成長(55-67頁)、科学、技術、教育(67-70頁)である。文書は、戦略実施のための基本優先順位(108-114頁)そしてその現状の評価のための指針(115-116頁)で終っている。
※3文書はロシア語で全文が読める。次を参照;Kremlin.ru. December 31.2015.

(転載終)