ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

ロシアに取り込まれたトランプ

故リチャード・パイプス氏(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20180601)の著作を今後もさらに読む必要性がある、いや、今後、本腰を入れて基本文献として読まれなければならないと感じたのは、以下の記事に啓発されたからでもある。2018年5月14日に東京の日本記者クラブでグレン・カール氏が会見した内容に基づく。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/cia-15.php


「元CIA諜報員が明かす、ロシアに取り込まれたトランプと日本の命運」
2018年5月23日(水)18時30分
ニューズウィーク日本版』編集部


・フィクション小説の世界でジョン・ル・カレという作家がいて、彼はステレオタイプ的にCIAなどの諜報機関を退役した人間を描いています。


・ル・カレの小説では、退役した諜報機関員は悪い運命にさらされていくのですが、私はそうはならないように願っています。私自身はこの2年ほど、ロシアの諜報機関アメリカの大統領選に介入し、トランプの取りまきに取り入っていると発言してきました。私は公の場で発言した初めての人間です。なぜ今日、私がここに座っているかと言いますと、この2年あるいは2年半ほどの間、ロシアの情報機関がトランプのビジネス関連の取り巻き、そして家族にも食指を伸ばしてきたことを非常に心配してきたからです。それが1点目。2点目は、ロシアがより広くアメリカ世論、アメリカの選挙への干渉という形でさまざまな諜報活動を展開している、ということです。


・いろいろな情報源からロシアの諜報機関の関与している、という明らかな兆候が見て取れる。私なりの評価、そしてなぜ私がそのような結論にいたったのかについて説明しますと、まずロシアの選挙への介入はここで議論する必要がないほど明明白白です。その多くは共和党ですが、トランプを擁護する人たちはこう言います。「多くの国、多くの諜報機関アメリカの選挙に介入しようとしているじゃないか、アメリカも同じようなことをやっているのに、なぜことさらそのことを取り上げるのか」と。確かにその通りで、私が見るところ歴史上もっとも成功した例は第二次大戦前にアメリカの参戦を取りつけるための諜報活動をアメリカで展開した大英帝国です。ただ、今回のロシアの介入の度合い、規模、成功度はアメリカに敵対するケースとしては前例がないレベルだと言えます。


ロシアの諜報機関がトランプの陣営に何百回も接触したという証拠が残っています。記録に残されただけで400回以上。名前を知られた情報機関の人間が家族、取り巻き、そしてトランプ自身に接触したのです。


・トランプが選挙戦を展開する前、共和党員の90%以上がロシアを敵国と見なしていたのに、選挙後トランプがロシア支持を言い続け、ロシアに不利な形で政策を変えることを拒否し続けたこともあって、30%から40%の共和党員がロシアに好意的な態度に変わった、ということです。これは史上初めてのことで、唯一の説明として考えられるのは、ロシアの諜報機関の活動の結果そうなった、ということです。


・冷戦後、ロシアの様々な活動の手順、態度、政策は変わりませんでした。アメリカとの関係ではゼロサムゲームで物事を見るアメリカにとって悪いことは何でもロシアにとっていいことなのだ、と。


アメリカの政治制度の効率性を低下させるということ。ロシアに挑戦する、アメリカの利益を増進する能力を削ぐ、ということ。アメリカの国民の間で政府や政治制度に対する不満を高まらせる、ということ。アメリカの民主主義、民主主義全般の機能を低下させ、逆にロシアのような権威主義全体主義を成功に導くことアメリカをヨーロッパからもNATOからも引き剥がし、EUをはじめとする世界の同盟国から分離させること。第二次大戦後につくられたパックス・アメリカーナなどの国際的規範を損なうこと。逆に、ロシアにとっての影響圏、国際秩序を大きく高めていくこと。とりわけヨーロッパや中東への影響力を高める。そしてすべての面においてロシアは成功したと思います。


・結果的にアメリカはますます重商主義孤立主義ナショナリズム、一国主義の道を突き進み、これまでの同盟関係を破壊する方向に向かっています。世界は大きく変わりつつあります。主に中国の台頭によって、アメリカはその覇権的地位を失いかけていました。


・日本は1945年以来初めてと言っていいぐらい、中国の台頭に対しても世界秩序の崩壊に対しても一国で、自らの力だけで臨んでいかねばならない。そういう立場に追い込まれていると思います。


・いかにトランプが諜報機関工作員なら絶好の標的になる弱みだらけの人間であるかがすぐに目につき、また仰天しました。諜報機関の人間は人の弱みにつけこみ、それを利用するのが仕事です。


・「スティール文書」が公開されました。この人(編集部注:MI6〔英国情報部国外部門〕元職員のクリストファー・スティール)は英国の諜報機関にいた人で直接は知らないが、いろいろな人に聞いた評判だと完璧な人間、ということです。その報告書の中に私自身が認識し、聞いた情報が書かれていたのです。私自身がそういったことを知るようになったのは2016年の1月ですが、この文書が公開されたのは10月でした。


・西側の諜報機関に名前を知られているロシアの工作員のトランプ陣営への接触ですが、表面的な調査や公開されている情報だけでも、何億ドルものカネがロシアのオリガルヒからトランプ陣営に流れ込んでいることが分かっています。


諜報機関工作員がどのように活動を展開するか。やり方はいくつかありますが、1つは完全に秘密裏に行うことで、誰にも知られずに通すということがあります。一方で、隠すがある程度はあからさまに、堂々とやる。


アメリカは制度、政府、体制、民主主義、社会に1861年以来の最も大きな打撃を受けようとしています。1861年アメリカが真っ二つに割れて、4年間の南北戦争に陥ったその年でした。


・ロシアはそんなことは気にしていない。ロシアの利害にかなうならばそれは利用する。ロシアがこうすべきだ、と思う方向に誘導するということです。これは文字通り笑い話ですが、サウジアラビアにトランプが行った時、サウジ側は建物の全面にトランプの写真を掲げました。それでトランプはサウジが大好きになり、サウジは偉大な同盟国だともてはやしました。そういう人間なのです。


・トランプの政策に一貫性を求めてはいけません。そんなことを期待してはいけない。彼にビジョンはまったくない。その場その場、その瞬間その瞬間の考えに突き動かされる人間で、矛盾だらけです。


9.11テロの前のアメリカでは考えられませんでした。理性的な会話の中で「拷問すべき」と言うなんてとんでもないことでした。ところが、「高度な尋問」という言葉を大統領も共和党もよく使う。だから35歳以下も「いいんじゃないか」と思っている。人の態度は変わりやすく、1つの方向だけでなくいろいろな方向に動きます。日本もドイツも同じでした。アメリカもそうである、と知るべきだと思います。


諜報機関の人間は自分たちの側に取りこむ人間を「アセット(資産)」と呼びます。


・根本的なところでアメリカの対ヨーロッパの関係が変わっていることが問題です。

(引用終)

ジョン・ル・カレ」については、過去ブログを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120129)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120331)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150123)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160124)。