ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

パレスチナ難民の人口調査

以下のトピックについては、過去ブログ(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090819)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130923)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150519)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20180114)を参照のこと。

メムリ(http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP740618


緊急報告シリーズ    Special Dispatch Series No 7406   Apr/13/2018


レバノンパレスチナ難民は17万4422人―人口調査で分かった実数とレバノン人の思惑―」



2017年12月21日、「レバノンの難民キャンプ住民とパレスチナ人々口調査」が発表され、レバノンパレスチナ人々口が17万4422人であることが判明した。この調査は、レバノンの中央統計局とパレスチナ中央統計機関が、レバノンパレスチナ対話(LPD)の後援のもと1年かけて実施した※1。2016年8月25日、レバノン政府が調査を決定し、本件に関する覚書が、2016年10月19日レバノン政府とパレスチナ自治政府PA)の間に交された。調査では、キャンプ住民のうちパレスチナ人のみを一人ひとり算えた※2。



この調査で、パレスチナ人の居住域は、シドン域(35.8%)、北部(25.1域)、ティレ(14.7%)、ベイルート(13.4%)ショウフ地域(7.1%)、ベッカ盆地(4%)に分布していることが判った。


難民キャンプ住民の72%がパレスチナで、その内の65.4 %が長期居住者、7.4%がシリアから最近来た者である。パレスチナ難民キャンプといいながら、ほかの住民の方が多いキャンプもいくつかある。例えば、シャティラ・キャンプは、57%がシリア難民で、パレスチナ人は29.7%を占めるにすぎない※3。


レバノンパレスチナ難民の人口調査が実施されたのは、今回初めてである。更に注目すべきは、UNRWAと国連が発表している数より、人数がはるかに少ない点である。今回の人口プロジェクト長アル・アイ(Abd Al-Nasser Al-Ayi)は、ロンドン発行サウジ紙Hayatに、パレスチナ難民でレバノンを出て主にドイツと“アラブ湾岸”諸国へ移住した者がいる、と述べている※4。


帰還権を強調し難民のレバノン定着を恐れる人々―調査結果に対する反応


今回の調査で、パレスチナ人口の実数が、これまで発表されてきた数字より少ないことが判明し、レバノンの政治家や評論家の間で、さまざまな反応をひき起した。パレスチナ難民をレバノンに定住させるための下準備、と恐れる傾きが強い。


レバノンのハリリ首相(Sa`d Al-Hariri)は、これまで論争のまとになっていたが、実数がやっと判ったと調査結果を歓迎し、「これが実数なのである…なかには、50万とか60万、或いは40万説を唱える人達がいた…そしてその数が政治目的のために使われてきたのである。しかし、LPD委員会が、決着をつけてくれた。政府が調査を決定し、今日正しい数字を手にしたのである」と言った。


更に首相は、「我国に住むパレスチナの兄弟達の問題については、レバノン国民の間で、レバノン人とパレスチナ人の間で、自由に討議しなければならない…。これが我々の義務である…あいまいさは不要である…但し、(レバノンに)永住する(可能性)とか、パレスチナ人のアイデンティティを根こぎにする、パレスチナ人の帰還権と矛盾する話を認める余地はない」とつけ加えた※5。


LPD委員長ムネイムネー博士(Hassan Mneimneh)は、調査結果の発表後、難民に経済的社会的権利を認めるように主張し、「パレスチナとの連帯は、パレスチナ人個々人との連帯を意味する。つまり、彼等の尊厳と帰還権を尊重するということだ。その意味で、レバノン在住パレスチナ人に経済的社会的権利を与える時がきている。LPDの次の仕事は、この目的の達成にある」と言った※6。


レバノンのドルーズ族リーダーのジュンブラット(Walid Jumblatt)は、調査の決定に驚き、これがパレスチナ難民のレバノン永住につながると警戒心をつのらせ、これは、エルサレムイスラエルの首都とするトランプ大統領の宣言と深いところで結びついていると述べた。そして結果が発表されると、「結局彼等は、レバノンパレスチナ人数が17万4000人前後であることをつかんだ。この話で不思議な点心配な点は、何故彼等がこの時期に調査を実施したかということだ。(レバノン在住)難民に永住権を与えて、エルサレム諸共難民の帰還権問題を消滅させるつもりではないか」と言った※7。


キリスト教民主党々主のナスル(Neemtallah Aki Nasr)も人口調査に反対し、パレスチナ難民のレバノン永住を意図するものと警戒心をつのらせ、「レバノン中央統計局が実施した調査は、疑念と恐怖心を煽っている。調査の真意を明らかにしなければならない。そしてこんな奇妙な仕事はやめなければならないパレスチナ人の帰還権とレバノン憲法を傷つける。憲法は(パレスチナの難民の)永住を禁止している」と主張した※8。


レバノンの評論家達は、調査で判明したパレスチナ人の実数寡少がレバノン定住につながる恐れを表明し、或いは経済的社会的権利を与えよと主張する者もいた。次に紹介するのは、その論議である。


パレスチナ難民のレバノン定住を狙った人口調査―レバノン人ジャーナリストの見方


レバノンキリスト教徒紙Al-Nahar論説委員長ハッジャル(Ghassan Hajjar)は、これがパレスチナ人永住の下準備であり、そうなれば、人口構成上悪影響を及ぼすとの恐怖が、レバノンにあると指摘。予想より実数が少ないことは、このような(永住による)解決の促進につながると主張した。ハッジャルは、パレスチナ難民を居住地に永住させてパレスチナ難民問題を解決するという計画があり、アメリカがその背後にいるとし、これはエルサレムイスラエルの首都というトランプ大統領の宣言と組みになっていて、パレスチナ難民問題の消滅をはかる意図を秘めているとし、次のように論じた。


「数字は重要である。しかしもっと重要なのは、その数字の悪用である。怪し気な或いは外国の息がかかった計画に使われる可能性がある…。


レバノンには僅か17万4000人しか住んでいないという調査結果が発表されてから、レバノンパレスチナ難民という“悪魔”の一掃という報告がいくつもでた。アル・ハリリ首相はこれを確認し、『過去に、パレスチナ難民の数が討議された時、我々は数を誇張し、非常に大きい数字をあげていた』とし、『LPD委員会がこの問題にケリをつけた。レバノン政府が調査の決定をした。そして結果を得た』と言った。


70年前パレスチナ難民が(レバノンに)流入してから、初めてレバノンパレスチナの決定で実施された調査であるが…このプロジェクトと結果に関する問題と疑惑は当然であり、解明は急を要する…


第1に、レバノンではなくパレスチナ側が調査を実施したのは何故かレバノン中央統計局の果した役割は何か。調査対象は(パレスチナ)難民キャンプだけであったのか…


第2調査は何故この時期が選ばれたのかアメリカが(イスラエルのために)エルサレムをとりあげようとしている時である。パレスチナ人の居住する国々に永住権を与えるよう圧力をかけ、呼び方は別の言い方をするだろうか、パレスチナ難民問題を一掃するのではないか。


第3に、UNRWA(のデータ)によると、初期(1948年)のパレスチナ難民は、レバノンに12万7600人いた。2008年12月の国勢調査では42万2188人、2015年のUNRWAアメリカン大学(ベイルート)の共同調査によると、レバノンに住む難民の数は26万から28万の間であった。しかし、何故このように低い数字になったのか、誰も説明しなかった。彼等は何処にいったのであろうか。彼等の出国は国境の出入局管理事務所で記録されていないのだろうか。
この17万4000が本当の数なのか。それよりずっと多いのかいずれにしても、彼等の永住禁止は、絶対に変えてはならない」※9。


実数は僅かだから、パレスチナ難民に市民権を与えても実害はない


ロンドン発行カタール紙Al-Arabi Al-Jadidでは、レバノン人記者ハイダル(Randa Haidar)が、レバノン政府を批判し、パレスチナエルサレムを支持すると称しながら、自国のパレスチナ難民のためには何もしない“偽善者”と非難した。彼女は、これまで難民の数を誇張して伝ええて(ママ)きたことに謝罪し、彼等に基本的市民権を与えよ、と政府にせまった。以下その記事である。


レバノン国、歴代政府そして政府機関は(レバノンの)難民数を誇大に伝えて嘘をまき散らし、パレスチナ人を目の敵にした民族と人種主義の扇動に使った。誇張数は、彼等の基本的市民権を認めないための口実にもなった。今やレバノンパレスチナ人の実数がはっきりした。レバノンのバシル外相(Gebran Bassil)が繰返し言っていた40万ではない。LPD委員会とレバノン中央統計局が実施した調査によれば、17万4422人なのである。


(1948年の)ナクバ以来、パレスチナ人がレバノンに避難して来た時以来、レバノン政府は彼等に永住権を認めよとする国際圧力の阻止に、躍起になってきた。その圧力は1950年代から強まるが、政府は二つの理由から反対した。第1は、パレスチナ人の帰還権を守り、居住国に定着してパレスチナ問題を解決するというシオニストの計画を妨害するためである。第2は、人口上の問題である。パレスチナ人の大半はムスリムであり、これをとりこめば、人口構成上の微妙なバランスに影響する。このバランスが、民族・宗教集団に従った政治権力の配分と複雑にからみ合っているのである。


ほかのアラブ諸国では、(パレスチナ難民は)その国の住民であるが、レバノンはこの諸国と違って、市民権を与えず、特別区分の外国人として扱っている…法律上の差別もある。特に難民キャンプの住民に対して然りである。キャンプは、貧困と欠乏の地域となっている。


勿論、1970年代初期からパレスチナ組織の武装活動があり、イスラエルとこの武装組織の間でレバノンを舞台にした戦争が生起し、1975年にはレバノン内戦にもかかわった。この内戦のインパクトで、国が二つの集団に分裂した。ひとつは、左派・ムスリム集団で、対イスラエル闘争でパレスチナ側を支援する。あとひとつは右派・キリスト教集団で、これに反対している。この紛争は1982年のイスラエルレバノン侵攻に発展し、キリスト教民兵イスラエルと共闘することにもなる。レバノンにおけるパレスチナ人の武装活動の事実を無視することはできない。


この暗くて血腥い時代は、パレスチナ難民対レバノン国民及び国家機関の関係に深い歯型を残した。時間の経過と共に、パレスチナ人の存在に関する恐怖煽動が強まる。彼等が居ついてしまえば、その存在が政治目的のための戦斧になる可能性がある。更には、非レバノン人に対する人種政策をまき散らすことにもなりかねない。


パレスチ人の永住にかかわる恐怖煽動の犠牲になるのは、パレスチナ人だけではない。外国人と結婚したレバノン人(女性)にもふりかかってくる。生まれた子供は、レバノンの市民権を与えられないのであるパレスチナ人の永続を認めない措置の一環である。パレスチナ人と結婚したレバノン人は3000人位しかいないが、レバノンのバシル外相は、これをレバノンに対する脅威とみなす…パレスチナ人3000人と結婚して生まれた子供にレバノン国籍を与えることが、レバノンの存在にかかわる脅威なのであろうか。


レバノンで生まれたパレスチナ人の3代目は、法律で技術者や医師といった自由業につけず、財産権もない―住宅のリニューアルと労働(許可)にかかわる複雑な手続はいうまでもない。更には、レバノン人口の僅かしか占めていないにも拘わらず、このような障害や事実があるにも拘わらず、政治は、権利を与えない方を支持している。彼等の問題を益々難しくしているのである。


レバノンの政府関係者は、アラブ世界や国際社会でパレスチナ支持とエルサレム死守に熱弁をふるっている。レバノンパレスチナ難民は、そんな話より市民権を手にする方がずっと必要だろう。レバノンのこのような姿勢は最早受入れられない。最近の人口調査の発表後は尚更である。膨張数字は、拒否するための材料のひとつとして使われてきた。レバノンパレスチナ人口の実数が判明したことは、パレスチナ難民に対する政府の扱いの転換点にならねばならない。レバノンの首相が主張したように、彼等に市民権が与えられなければならない。


[1] Lpdc.gov.lb, December 21, 2017.
[2] Al-Hayat (London), February 3, 2017; http://www.lpdc.gov.lb.
[3] Al-Mustaqbal (Lebanon), December 21 and 22, 2017.
[4] Al-Hayat (London), December 21, 2017.
[5] Al-Mustaqbal (Lebanon), December 22, 2017.
[6] Al-Mustaqbal (Lebanon), December 22, 2017.
[7] Twitter.com/walidjoumblatt, December 22, 2017.
[8] Al-Nahar (Lebanon), January 3, 2018.
[9] Al-Nahar (Lebanon), December 23, 2017.
[10] Al-Arabi Al-Jadid (London), December 24, 2017.

(引用終)