ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

認知症講座を受けて

昨日は、認知症講座の一つとして、町内で事前に申し込んでおいた無料の講演「バリデーション」を伺った。
講師はテレビでも紹介されて有名になられた都村尚子教授。はきはきとした関西弁で親しみやすかったが、一時間半ほど、情熱的かつプロフェッショナルに語られ、質疑応答の時間はなかった。
教授と言っても研究一筋の方ではなく、福祉施設の現場で働いていらした実地経験の上に、問題意識を一歩踏み込んで深め、アメリカの事例を研究されて、学位や資格を取られたようだ。これまで、全国47都道府県の内、46は訪問して、講演に回っていらっしゃるらしい。
テレビカメラが入っていたので、もっとお化粧をすればよかったと思ったが、後の祭り。番組放映に合わせて、ビデオをセットしなければならない。
我が町でも高齢化社会が急激に進み、今では人口の26パーセントが高齢に範疇化されるとのこと。そのために、地域包括センターが主催して、認知症の人々に対する対応を学ぼう、という試みだった。
実は明日も、別の角度から認知症講座を受けることになっている。受講するとシールやバッチなどをいただくが、それは後日、健康増進プログラム参加賞としてのプレゼントを受け取る条件の一つなのだ。

そもそも、私が認知症講座に参加しようと思ったきっかけは、一年ほど前、町内の行きつけの美容院で(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20141231)、担当してくださる同じく町内在住の美容師さんが、胸にバッチを誇らしげにつけていたからだった。最初は気づかなかったが、ファッションだと思っていた飾りが、実は「町で認知症の講座を受けたから」と話してくれたのだった。
「え?まだお若いのに?」「私、大丈夫ですか?」などと会話が運んだが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20151216)、実は今では、小学生も認知症の方への対応ができるようなコースが用意されているようだ。つまり、美容院に来られるお客さんへの対処法としての備えでもあるようなのだ。ついでながら、昔とは異なり、今は若い美容師さんが出張サービスで、お年寄りの自宅や老人ホームへ出張して、シャンプーやカットなどをするらしい。
「高齢になっても、身だしなみを整えて、気持ちよく暮らせるように。認知症になっても安心して、この町で住み続けられるように」という、一種、先進的な試みなのだ。
昔は、呆けたらどうしよう、と心配ばかりしていたが、私の近親者でも事例が発生したように、心配したからといって予防できるものでもなく、先手を打って対処法を学んでおいた方が、いつかは介護する/される身になるかもしれない自分にとっても、多少は気が楽にはなるだろう。
しばらく前のことになるが、厚生労働省だったか、国自体が、認知症に対する数分間の啓蒙ビデオをインターネットで公開しているのを見た。また、我が町には「100歳体操」のような集団の試みもあり、一人暮らしのお年寄りも寂しくないような仕組みができつつある。
主人の同居の祖母も、私の母方の祖母も、昔の女学校を出ていたが、同居のお嫁さんに働かせる暮らしが長く続く内に、晩年はアルツハイマーになった。特に私の祖母などは、カスパリ編みやお茶のお稽古や孫とのゲーム遊びをし、外出時には着物を着るなど、自分で呆け防止に努めていたのだが、他のややこしく難しい人間関係などに悩まされた日々のためか、結局は数年間、施設で療養することになった。徘徊など、従兄弟達は大変だったようである。
私については、恐らく一人で面倒を見ている主人の進行性難病のことを気遣ってであろう、亡父が電話で「お見舞いには来なくていい、ということだ」と言ってくれたのだが、祖母が亡くなってからは、叔母に「あんた達は場所を知らないでしょう?」「今に見ていらっしゃい!そっちもこうなるから」などと、それまでにないキツイ言い方をされたので、確かに、認知症は周囲の人間関係を変えるのだとも思った。
ちょうど10年ほど前、町内の特養老人ホームで月一度、グループでシーツ交換のボランティアをしていたことがあるが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090213)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20091221)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20151113)、主人の母のお見舞いに行っても、病院や施設で、おむつ替えや車椅子を押すなど、かいがいしく働く若い人々には、本当に頭が下がる。どのような理由で介護職を選択されたのかわからないが、もっと報酬を上げて、働きやすい環境を整えるべきだと思う。同時に、移民政策によって介護職に外国人を入れるという政府の動向には、断固反対である。いくら試験制度を整えたとしても、日本人同士でさえ、言葉のやり取りで問題や争いが生じているのに、文化や習慣も異なる外国人が施設や病院に入ってきたとしたら、もっと問題が大きくなってしまう。
というのは、都村先生がおっしゃったように、介護はマニュアルではないからだ。人には感情がある。それぞれに精一杯築き上げてきた長い人生の中で、晩年に一つずつ喪失していく苦悩の内に生きている認知症のお年寄りを目の前に、明るく声掛けをしたり、励ましたり、嘘でごまかしたり、先延ばししたり、感情に蓋をしたりすることは、かえって逆効果なのだという。
バリデーションとは、適切な日本語訳がまだないそうだが、2002年ぐらいから日本でも導入されつつあるコミュニケーション技法で、認知症の人の感情をそのまま受け留め、目の前で反復することで共感および確証を行う二、三分のテクニックだとのことである。徘徊や暴言など全ての行動には意味があり、理由があると考え、正面から話を引き出すことで、症状が緩和していくようである。
コロンブスの卵のようで、言うは易く、行うは難し、であろうが。
また、認知症になる以前の人間関係や環境も影響しているのではないだろうか。
普段から、嘘や隠し事や虚言などがなく、真っ直ぐに信頼関係のある環境で暮らしていれば、認知症になったとしても、すぐに症状に気づき、薬などで進行をある程度抑えることも可能である。だが、若い頃から、もし見栄やごまかしが入り混じるような生活を送ってきたとしたら、対処は大変であろう。
お元気なままご長寿でいらっしゃる方が我が町にも少なくなく、町長から賞状をいただいているが、お写真を拝見する限りでは、必ずしも寝たきりではなく、赤みのさしたツヤツヤの頬に、柔らかく穏やかな表情をされていて、二十歳ぐらいは若く見える。暴飲暴食や無理な生活をせず、心身共に自然に暮らして来た末が、ご長寿につながっているようだ。そして、若い頃から働き者で、自分のことばかり考えず、愚痴をこぼさず、常に感謝しつつ、世の中のことに広く目を向けているような方達が多いようにお見受けする。
お金をかき集めて、誰の世話にもなりたくないと、一人で高級老人ホームに入ることを計画している人がいるが(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20160221)、お金を払えば良いサービスだとは限らないことに注意を。かえって、悪徳商法など、トラブルの種が蒔かれているケースもあることに留意。
むしろ、住み慣れた自宅近くで、自分のできることは自分で行い、身の程に応じたデイケアなどのお世話になった方が、経済面の懸念もトラブルも少なくて済むのではないか、と思うのだが。
高齢化に伴う認知症などについての過去ブログは、こちらを(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20090221)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150325)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150331)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20150406)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20151015)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20151113)。
講演が終わって、歩いて帰宅すると、いろいろな近親者のことが思い出されて、どっと疲れるのだが、実は、私には具体的な目標モデルがいらっしゃる。
9月の欧州旅行(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20161006)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20161027)で再びご一緒したメルボルン在住の84歳の女性と、93歳になられるパイプス先生のお父様である(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=%A5%EA%A5%C1%A5%E3%A1%BC%A5%C9%A1%A6%A5%D1%A5%A4%A5%D7%A5%B9)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/archive?word=Richard+Pipes)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/archive?word=Richard+Pipes)。
前者は、ご自身の説明によれば二度結婚され、今は一人暮らしだが、「私はラッキーで、子ども達がいつもケアしてくれる」「人生は面白い。これから、もっと面白くなるでしょう」と生き生きされている。一人で重いスーツケースを引っ張って、飛行機に乗って私達と合流し、アイパッドをしっかりと握って写真をせっせと撮り、ノートを忙しく取りながら活発に質問もされ、旅程をとても楽しんでいらした。
後者は、昨年また本を書かれたそうだ。そのことをご子息先生から旅の間に伺ったが、ちょっと覚えられない題名だった。多分、人物伝のようなものではないかと想像した(“Alexander Yakovlev: The Man Whose Ideas Delivered Russia from Communism”, Northern Illinois University Press, 2015)。
その他、昨年も今年も、パイプス旅団には元気な高齢者が何人か含まれていて、とにかく人生が前向き。一緒にいて楽しいし、元気づけられる。「幸い健康に恵まれているので、できる限り、このような探究の旅も続ける」と私に向かって宣言されていた、ボストン在住の方もいた。
朝日新聞などは、高齢化社会の到来に関して、読者を脅すような記事ばかり書いていないで、もっと皆が励まされるような読み物を提供していただきたい。