ブログ版『ユーリの部屋』

2007年6月から11年半綴ったダイアリーのブログ化です

抵抗:イスラーム主義革命の本質

毎日寒い日が続きますね。こんな時には、温かい部屋で本を読んで過ごすのが好きです。
というわけで、今日読んでいたのは、Alastair CrookeResistance: The Essence of the Islamist RevolutionPluto Press2009)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121230)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130116)。例によって例のごとく、イスラーム主義団体(ハマスやヒスボラなど)に関する哲学思想の背景理解を迫られる一方で、いかに西洋が「理解していないか」を繰り返し説得されているような論調。読んでいておもしろくないのは、このように、結論が最初から決まっているからなのです。私にとっては、それほど新たな内容ではなく、(多分、そういうことなのでしょうねぇ)という印象。ともかく、資本主義やキリスト教などに基づく西洋思想の欠陥を、イスラーム思想こそが凌駕するのだという基本姿勢で、1979年のイラン革命に始まった世界中のムスリム各国における一連のイスラーム主義運動は、社会公正、正義、人間尊重を遵守するために、西洋に対して「抵抗」しているのだ、といういわゆる左派リベラル思想に則った論調でした。
私が常に思うのは、非ムスリムである以上、一定の理解と尊重は必要なものの、(では、こちら側の思想や伝統や文化や考え方については、イスラミスト達はどこまで理解してくれるのだろうか)というもの。ちょうど私が先月マレーシアから帰国した数日後に再び勃発し、今もずっと白熱論争が続いているマレー語聖書や「神の名」論争にしても(http://d.hatena.ne.jp/itunalily2/archive?word=This+is+Malaysia)、クリスチャン側の論理は基本的に一貫しているのであって、ムスリム側がそれをつぶしてくるという形式が、1980年代からずっと繰り返されてきたわけです。おかげさまで研究発表のネタには困りませんが、それにしても、こんなことを繰り返していると、まるで人生の消耗としか思えません。
さて、上記本の筆者について、昨晩気になったので調べてみました。1950年生まれのアイルランド出身で、聖アンドリュース大学を卒業。今もアイルランドのパスポートを所持されているようです。英国のエスタブリッシュメントの息子で、12歳の時スイスの実験校に送られ、そこで反西洋思想を身につけた由。英国諜報機関のスパイとして活動し、IRAの仲介をし、アフガニスタンのムジャヒディーンに武器を投与し、コロンビアのジャングルで反体制派と共に過ごした経歴の持ち主。最近では、トニー・ブレア氏の目に留まり(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130106)、中東問題に関与するようになったそうです。ハマスやヒスボラやイランの戦闘的ムスリムに親近感を持ち過ぎていると批判されている傍ら、カタールの王族と親しい関係にあり、対抗文化思想の持ち主だとの旨。オリバー・クロムウェルが嫌いで、イラン革命を善だと見なし、「西側政府の代表として暴力男達と秘密取引をする人生」とも描写されていました。従って、「人権や民主主義的価値については、公的談話ではシニカルな態度」だそうです。著書の中でも、いかにも典型的なマルキスト風ポスト・コロニアルの思想家を援用されていました。また、プライベートでは、レバノンにマンションを構え、そこでパレスチナ難民のために働いていた女性との間に、59歳の時に8ヶ月の娘がいるような「奇妙な結婚」と評される暮らしだそうです。
気になるのは、ハマスとヒスボラに対する深い理解はいいとしても、彼らこそが「真の穏健派」で「イスラームルネッサンスにとっての重要な要因」だと考えているらしいことです。そして、テロリスト達に政治家になる方法を教えている、とも。西側政府にブラックリストに載せられているイスラーム過激派集団ともつながりがあるとか。
何だかいかがわしい背景を持った用心ならぬ人物のようです。2004年から「紛争フォーラム」を立ち上げているそうですが、それには、アメリカの平和研究所とEUが資金援助をしているとの由。その実体は、政治イスラームに耳を傾け、彼らの抵抗を認識することなのだそうです。
そもそも、この著者の本を少しは読んでみなければと思わせたきっかけは、ダニエル・パイプス先生が、このところ連続して4回もイラン系テレビ“Press TV”に出演されていて、そのうちの一回は、この人がベイルートのスタジオから「仲介役」としてパイプス先生の言い分とパレスチナ側の訴えを解説するという役目だったことからです(http://www.danielpipes.org/12412/israel-right-wing-hardliners) (28 December 2012)。何だか変な方向に話が流れていったので、(どうしてパイピシュ先生は、こんな危険な賭に出られたのかしら)と、不思議で仕方がありませんでした。
その他にも、(http://www.danielpipes.org/12194/israel-hamas-war) (12 November 2012)(http://www.danielpipes.org/12438/pipes-crazies-press-tv) (5 January 2013)のような番組に出演され、いわゆる人権活動家二人のイスラエル批判と、見るからに反体制派の活動家(一人はイスラーム改宗者)のアメリカ人男性二人との論争の場を提供する、という設定にはなっていたのですが、既に書いたように(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121117)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121230)、どう見ても「パイプス虐め」を見込んでいるとしか思えないような、徒労感の多い番組でした。
もちろん、私がパイピシュ先生に直接伺ったところでは、番組の主旨だけ伝えられたので、自分の声が届けばと考えて出演依頼を受け、スタジオに赴いたものの、誰と共に出演するかは現場に行ってみて初めて知った、ということのようです。これは、イラン系テレビだからではなく、アル・ジャジ−ラなどでもそうだったようです。アメリカのフォックスでも、誰と対談するかは知らされないままに放送が始まり、(話が違う)とドキドキされていた映像もあります(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120713)。いわば毎度ぶっつけ本番のようなのですが、それだけに臨場感を与え、本当に出演者の自然な生の姿が浮き彫りにされるという面では、厳しいけれども実力が試されるということでもあろうかと思います。
昨日、この件に関して、私がパイプス先生に送ったメールです。

2013年1月8日に私は書きました(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130108)。
そうはおっしゃいますが、もしあんなテレビ番組に出続けたら、ひょっとして、視聴者あるいはイラン側に、いわば‘おとり’として扱われるかもしれませんよ。私個人は、もし一外国人として意見することが許されるのでしたら、近い将来、もっと洗練された上品なテレビ番組で先生を拝見したく存じます’
そして今日、メーリングリストを受け取りました。二つのパートに分けられた今回の‘Press TV’は(http://pub.ne.jp/itunalily/?search=20519&mode_find=word&keyword=Press+TV)、前回の三つの番組よりもずっとよかったと思いました。そうですね、サウジアラビアの古い映像は、実に貴重です
」。

ところで、2012年12月28日に‘Press TV’のスタジオで‘ゲスト’として出演された Alastair Crooke氏の“Resistance : The Essence of the Islamist Revolution” (2009)と題する本を読み始めました。その中で彼は、西洋人がよく理解していないと考えたイスラーム主義運動の思想的背景について、もっと説明しています。彼は主に、いわゆる左派思想家達を自分の議論を支えるために用いています。ジョン・エスポジト(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20120929)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121021)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20121225)(http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20130105)も本書を推薦しています。道理で、12月28日の番組が退屈でナンセンスだと思ったわけですね。しかしながら、1968年の後、先生の人生において、思想上の闘いとしてのお仕事全体がなぜ必要だったかを、私は今では遙かによりよく理解しています」。

そのお返事が、昨晩、気になってメールを開いた途端に、ピンと音を立てて届きました。まさにグッド・タイミング。
最後の一文のみをわざわざ引用された上で

うまいこと言うね。そうだね、今回の新たな‘Press TV’は12月のよりもずっといいね。二度とあの状況に陥らないように確かめるよ」。

三度目の出演後、どのように交渉し、主張されたのかは不明ですが、少なくとも、私が遠方から意見することに対して、必ずしも無下に扱われているわけではなさそうで、ありがたいと思っています。